博士と研究
「なるほど…症状は大体わかったよ。言い辛いことなのに話してくれてありがとな」
電子カルテを閉じ、一息つくとククイは少女と向き直る。
普段、青白い顔色をしている彼女も今回ばかりはその血の気がない顔を赤らめていた。
「とりあえず、内服用の薬と塗り薬を出しておくぞ。眠れないほど痒みが酷いんだったら…少し強めのステロイドを処方しておくから一日二回、朝と入浴後に塗ってくれ」
「……はい」
彼女はどんどん身体を縮こませて居心地が悪そうに俯いた。その様子を見て、ククイは苦笑する。
「まぁ、そんなに心配しなくても大丈夫だぜ?案外こういうものって薬を塗り始めたらケロッと治るものだからな!それに、手遅れになる前に相談してくれてよかったよ」
ポンポンと頭を撫でられれば、彼女の表情も幾分か和らいできたようだ。
「はい…ありがとう、ございます……こんなこと相談するのすっごく恥ずかしくて、不安だったんですけど博士が聞いてくれて良かったです……」
彼女の瞳に映る自分の姿が揺らいで見えた。
「お、おぉ!?どうしたサナ?!」
「ごめんなさい……なんだか安心したら涙が出てきちゃいました……だって、お尻の穴が痒いだなんて…しかも、その痒みで夜も眠れないなんて恥ずかしくって誰にも言えなくって……でも、もう我慢できなくて……うぅ……ひっぐ……」
堪えきれず、ポロリと溢れた雫を皮切りに彼女の目からは堰を切ったようにボロボロと涙が流れ出す。
ククイは彼女を優しく抱き寄せるとその小さな背中をさすった。
「よしよし、辛かったんだな。恥ずかしがることなんかじゃないさ。いいかい?君は相談する勇気があるとても強い子だよ。僕を信じてくれてありがとうな」
病気がちで身体が弱く、一般的な人より医師と距離が近い彼女でも、そりゃあ年頃だし今回のことはとても言い辛かっただろう。
それが、今日に限って急に相談してきたということはそれだけ切羽詰まっていたということだ。自分がもっと早く異変に気づいてあげていれば……。そう思うと胸が締め付けられるような思いがした。
「後は…そうだな。食生活の見直しもしないとな。とにかくカフェインや辛いものは摂取を避けるようにしよう。出来るかい?無理そうなら僕も協力するから一緒に頑張ろう?」
「はい……がんばります」
鼻声になりながらも彼女は小さく返事をした。
ククイは彼女の頭から手を離すと、診察室の奥にある棚へと足を進めた。そこには様々な種類の薬が入っている箱がありる。その中から目当ての薬が入っている袋を取り出し、冷蔵庫からミネラルウォータを手に取ると再び彼女の元へ戻る。
「さ、これが内服薬の痒み止めだ。」
ペットボトルを開けてやり、彼女に手渡すと薬の説明を始めた。未だ不安そうに肩を縮こませる少女を一刻も早く安心させてあげたい。そう思うと自ずと早口になってしまう。
「これは飲み始めてすぐに効くタイプのものではないから、毎日決まった時間に飲むようにして欲しい。勿論僕も声をかけてサポートさせて貰うよ。あと、繰り返すが塗り薬の方はシャワーを浴びた後に患部に塗るんだ。患部が清潔な状態である程薬の効果は出るからね」
「はい」
それでも彼女はククイの言葉一言一言をしっかりと噛みしめるように耳を傾けてくれた。
「よし、それじゃあこの話は終わりだ。またわからないことや困ったことがあれば相談してくれよ。」
そう言って笑いかけると、彼女もつられて微笑んでくれた。
「はい!博士、本当にありがとうございました…!」
深々と頭を下げる彼女を見送ると、ククイは再び電子カルテを開く。そこに本日の日付と精神的疲労によるストレス性皮膚炎の疑いあり、と追記した。
「やはり急激な環境の変化に身体が悲鳴をあげているんだろうな。少しでも助けになってやりたいんだが……」
ふっと息をつくと、ククイはカルテの入力作業に戻るのであった。
電子カルテを閉じ、一息つくとククイは少女と向き直る。
普段、青白い顔色をしている彼女も今回ばかりはその血の気がない顔を赤らめていた。
「とりあえず、内服用の薬と塗り薬を出しておくぞ。眠れないほど痒みが酷いんだったら…少し強めのステロイドを処方しておくから一日二回、朝と入浴後に塗ってくれ」
「……はい」
彼女はどんどん身体を縮こませて居心地が悪そうに俯いた。その様子を見て、ククイは苦笑する。
「まぁ、そんなに心配しなくても大丈夫だぜ?案外こういうものって薬を塗り始めたらケロッと治るものだからな!それに、手遅れになる前に相談してくれてよかったよ」
ポンポンと頭を撫でられれば、彼女の表情も幾分か和らいできたようだ。
「はい…ありがとう、ございます……こんなこと相談するのすっごく恥ずかしくて、不安だったんですけど博士が聞いてくれて良かったです……」
彼女の瞳に映る自分の姿が揺らいで見えた。
「お、おぉ!?どうしたサナ?!」
「ごめんなさい……なんだか安心したら涙が出てきちゃいました……だって、お尻の穴が痒いだなんて…しかも、その痒みで夜も眠れないなんて恥ずかしくって誰にも言えなくって……でも、もう我慢できなくて……うぅ……ひっぐ……」
堪えきれず、ポロリと溢れた雫を皮切りに彼女の目からは堰を切ったようにボロボロと涙が流れ出す。
ククイは彼女を優しく抱き寄せるとその小さな背中をさすった。
「よしよし、辛かったんだな。恥ずかしがることなんかじゃないさ。いいかい?君は相談する勇気があるとても強い子だよ。僕を信じてくれてありがとうな」
病気がちで身体が弱く、一般的な人より医師と距離が近い彼女でも、そりゃあ年頃だし今回のことはとても言い辛かっただろう。
それが、今日に限って急に相談してきたということはそれだけ切羽詰まっていたということだ。自分がもっと早く異変に気づいてあげていれば……。そう思うと胸が締め付けられるような思いがした。
「後は…そうだな。食生活の見直しもしないとな。とにかくカフェインや辛いものは摂取を避けるようにしよう。出来るかい?無理そうなら僕も協力するから一緒に頑張ろう?」
「はい……がんばります」
鼻声になりながらも彼女は小さく返事をした。
ククイは彼女の頭から手を離すと、診察室の奥にある棚へと足を進めた。そこには様々な種類の薬が入っている箱がありる。その中から目当ての薬が入っている袋を取り出し、冷蔵庫からミネラルウォータを手に取ると再び彼女の元へ戻る。
「さ、これが内服薬の痒み止めだ。」
ペットボトルを開けてやり、彼女に手渡すと薬の説明を始めた。未だ不安そうに肩を縮こませる少女を一刻も早く安心させてあげたい。そう思うと自ずと早口になってしまう。
「これは飲み始めてすぐに効くタイプのものではないから、毎日決まった時間に飲むようにして欲しい。勿論僕も声をかけてサポートさせて貰うよ。あと、繰り返すが塗り薬の方はシャワーを浴びた後に患部に塗るんだ。患部が清潔な状態である程薬の効果は出るからね」
「はい」
それでも彼女はククイの言葉一言一言をしっかりと噛みしめるように耳を傾けてくれた。
「よし、それじゃあこの話は終わりだ。またわからないことや困ったことがあれば相談してくれよ。」
そう言って笑いかけると、彼女もつられて微笑んでくれた。
「はい!博士、本当にありがとうございました…!」
深々と頭を下げる彼女を見送ると、ククイは再び電子カルテを開く。そこに本日の日付と精神的疲労によるストレス性皮膚炎の疑いあり、と追記した。
「やはり急激な環境の変化に身体が悲鳴をあげているんだろうな。少しでも助けになってやりたいんだが……」
ふっと息をつくと、ククイはカルテの入力作業に戻るのであった。