毒
クラスのホームルームを終えてサナを迎えに保健室へと足を運ぶ。
扉を開けるとベッドに座ってプリントを解いている彼女の姿が目に入った。
「やぁ、調子はどうだい?」
「博士!わざわざ迎えに来てくれたんですか?」
「ああ、その通りだよ」
「ありがとうございます!」
彼女は嬉しそうに笑うと立ち上がって駆け寄ってきた。
「こら、サナ…危ないだろう?怪我人なんだから大人しくしてないと」
「えへへ、すみません……」
俺の言葉を聞いてしょんぼりとする彼女を見て少し可哀想になり、つい頬が緩んでしまう。
「じゃあ帰ろうか。家に帰ったらプリントの採点をしよう。」
「ありがとうございます!丁度わからない所があって、教員室に向かおうとしていたんです」
「なっ…」
彼女の発言に俺はまた頭を悩ませなければいけなかった。
「サナ…頼むから身体を大事にしてくれ……俺も研究者の端くれとして一人で行動するなとは言わない。だけどせめて誰か先生に声をかけてから行動してほしいんだ……特に今日みたいに体調の悪い日はね」
保健室を出る前に、俺は彼女に先程の行動を注意した。
彼女はハッとしたような表情を浮かべると申し訳なさそうな顔でこちらを見つめた。
「ごめんなさい……また、博士に心配かけちゃう所でしたね…迂闊でした……」
「わかってくれたならいいさ。次からは気をつけような」
「はい……!」
素直に聞き入れてくれた彼女を褒めるように頭を撫でてやる。
「よし、それじゃあそろそろ帰ろうぜ」
彼女の分の荷物を持って2人で帰路につく。
隣を見るとまだ顔色は悪いもののサナはいつも通りの元気そうな表情をしている。
「体に異変はないかい?具合が悪くなったりしたらすぐに言うんだよ?」
「うーん、さっきから思ってたんですけど腕が少し動かしにくいかもです…」
そう言って左腕をぐるりと回す。すると微かに嫌な音がした。
「やっぱり違和感があるんじゃないか。見せてみなさい」
「はい…」
おそらく毒の後遺症だろう。これはしばらく経過観察が必要だな……。簡単に触診を済ませると特に異常は見当たらなかったのでひとまず安心だ。
「そうだね、少し硬直しているかもしれないな。リハビリも兼ねて明日は学校をお休みしようか」
「えー…それくらい大丈夫ですよ…左腕だし文字だって書けます!」
「うーん、とはいってもなぁ…もし無理をして体調が悪くなったらどうする?君に何かあるのは嫌なんだ…わかってくれるかい?」
俺が諭すように話しかけると彼女は渋々といった感じだが了承してくれた。
「わかりました……明日はお休みします……」
「うん、いい子だ。」
彼女の瞳には涙が溜まっていて、今にも泣き出してしまいそうだった。病状も安定しているのに学校を休むことが嫌なのだろう。
普段から学校に通うよりベッドの上で過ごす事が多い彼女にとって貴重な学校生活が減ってしまうのは俺にとっても心苦しいことだった。
しかし、何かあっては遅いのだ。俺は心を鬼にする。
「その代わりと言っては何だけど、僕が家で特別授業をしてあげよう。それならどうだい?」
「ほんとうですか!?ぜひお願いしたいです!」
俺の提案を聞いた途端に目を輝かせ始めるサナ。
そんな彼女を見ていると思わず笑みがこぼれる。
「あぁ、約束するよ。さぁ、着いたぞ」
いつの間にか家にたどり着き、俺は玄関の鍵を開け中に入る。
「手洗いうがいをしたらソファーに集合な」
「はいっ!」
元気よく返事をしたサナはそのまま洗面所へと消えていった。
その間に俺はお茶の準備をし、テーブルの上にノートとプリントを広げる。
「博士、終わりました!」
「よし、では始めようか」
俺はサナの隣に腰掛けると、彼女の解いていた問題の解説を始めた。
「ここは……」
「あっ、そこはもう分かってました!」
「おっと、そうなのか。じゃあ答え合わせをしよう」
「はい!」
俺はサナと一緒にプリントを覗き込む。
「正解だよ。流石だね」
「えへへっ、外に出られない分、沢山研究所の本を読んでますから!これくらいなんてことないです!それに……」
「それに?」
「博士が教えてくれることですから、分かりやすいですし……」
照れ臭そうにはにかむ彼女をみて胸の奥がきゅっとなる。
愛おしくて堪らない気持ちになり、頭を撫でると彼女は嬉しそうに笑った。
「……可愛いな、君は」
「えっ……!?」
突然のことに驚いたのか変な声を上げるサナ。
顔を真っ赤にして俯く彼女にますます庇護欲を掻き立てられ、抱きしめたい衝動に駆られる。
「本当に君は……意識してないんだとすれば相当タチが悪いな」
「どういう意味ですか?」
不思議そうに見上げるサナの頬に触れ、そのまま自身の手の甲にキスをした。「まだ知らなくていいよ」と微笑むと、サナはますます首を傾げた。
「ほら、続きを始めよう」
「えー、気になるじゃないですかぁ……」
不満げな彼女を宥めつつ、その後の勉強も滞りなく進んだ。
扉を開けるとベッドに座ってプリントを解いている彼女の姿が目に入った。
「やぁ、調子はどうだい?」
「博士!わざわざ迎えに来てくれたんですか?」
「ああ、その通りだよ」
「ありがとうございます!」
彼女は嬉しそうに笑うと立ち上がって駆け寄ってきた。
「こら、サナ…危ないだろう?怪我人なんだから大人しくしてないと」
「えへへ、すみません……」
俺の言葉を聞いてしょんぼりとする彼女を見て少し可哀想になり、つい頬が緩んでしまう。
「じゃあ帰ろうか。家に帰ったらプリントの採点をしよう。」
「ありがとうございます!丁度わからない所があって、教員室に向かおうとしていたんです」
「なっ…」
彼女の発言に俺はまた頭を悩ませなければいけなかった。
「サナ…頼むから身体を大事にしてくれ……俺も研究者の端くれとして一人で行動するなとは言わない。だけどせめて誰か先生に声をかけてから行動してほしいんだ……特に今日みたいに体調の悪い日はね」
保健室を出る前に、俺は彼女に先程の行動を注意した。
彼女はハッとしたような表情を浮かべると申し訳なさそうな顔でこちらを見つめた。
「ごめんなさい……また、博士に心配かけちゃう所でしたね…迂闊でした……」
「わかってくれたならいいさ。次からは気をつけような」
「はい……!」
素直に聞き入れてくれた彼女を褒めるように頭を撫でてやる。
「よし、それじゃあそろそろ帰ろうぜ」
彼女の分の荷物を持って2人で帰路につく。
隣を見るとまだ顔色は悪いもののサナはいつも通りの元気そうな表情をしている。
「体に異変はないかい?具合が悪くなったりしたらすぐに言うんだよ?」
「うーん、さっきから思ってたんですけど腕が少し動かしにくいかもです…」
そう言って左腕をぐるりと回す。すると微かに嫌な音がした。
「やっぱり違和感があるんじゃないか。見せてみなさい」
「はい…」
おそらく毒の後遺症だろう。これはしばらく経過観察が必要だな……。簡単に触診を済ませると特に異常は見当たらなかったのでひとまず安心だ。
「そうだね、少し硬直しているかもしれないな。リハビリも兼ねて明日は学校をお休みしようか」
「えー…それくらい大丈夫ですよ…左腕だし文字だって書けます!」
「うーん、とはいってもなぁ…もし無理をして体調が悪くなったらどうする?君に何かあるのは嫌なんだ…わかってくれるかい?」
俺が諭すように話しかけると彼女は渋々といった感じだが了承してくれた。
「わかりました……明日はお休みします……」
「うん、いい子だ。」
彼女の瞳には涙が溜まっていて、今にも泣き出してしまいそうだった。病状も安定しているのに学校を休むことが嫌なのだろう。
普段から学校に通うよりベッドの上で過ごす事が多い彼女にとって貴重な学校生活が減ってしまうのは俺にとっても心苦しいことだった。
しかし、何かあっては遅いのだ。俺は心を鬼にする。
「その代わりと言っては何だけど、僕が家で特別授業をしてあげよう。それならどうだい?」
「ほんとうですか!?ぜひお願いしたいです!」
俺の提案を聞いた途端に目を輝かせ始めるサナ。
そんな彼女を見ていると思わず笑みがこぼれる。
「あぁ、約束するよ。さぁ、着いたぞ」
いつの間にか家にたどり着き、俺は玄関の鍵を開け中に入る。
「手洗いうがいをしたらソファーに集合な」
「はいっ!」
元気よく返事をしたサナはそのまま洗面所へと消えていった。
その間に俺はお茶の準備をし、テーブルの上にノートとプリントを広げる。
「博士、終わりました!」
「よし、では始めようか」
俺はサナの隣に腰掛けると、彼女の解いていた問題の解説を始めた。
「ここは……」
「あっ、そこはもう分かってました!」
「おっと、そうなのか。じゃあ答え合わせをしよう」
「はい!」
俺はサナと一緒にプリントを覗き込む。
「正解だよ。流石だね」
「えへへっ、外に出られない分、沢山研究所の本を読んでますから!これくらいなんてことないです!それに……」
「それに?」
「博士が教えてくれることですから、分かりやすいですし……」
照れ臭そうにはにかむ彼女をみて胸の奥がきゅっとなる。
愛おしくて堪らない気持ちになり、頭を撫でると彼女は嬉しそうに笑った。
「……可愛いな、君は」
「えっ……!?」
突然のことに驚いたのか変な声を上げるサナ。
顔を真っ赤にして俯く彼女にますます庇護欲を掻き立てられ、抱きしめたい衝動に駆られる。
「本当に君は……意識してないんだとすれば相当タチが悪いな」
「どういう意味ですか?」
不思議そうに見上げるサナの頬に触れ、そのまま自身の手の甲にキスをした。「まだ知らなくていいよ」と微笑むと、サナはますます首を傾げた。
「ほら、続きを始めよう」
「えー、気になるじゃないですかぁ……」
不満げな彼女を宥めつつ、その後の勉強も滞りなく進んだ。