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日常

梯子を降りてリビングへ戻るとロトムが急かすように話しかけてきた。
「博士、サナはどうだったロト?」
「熱が出てきたせいで辛そうだが、とりあえず落ち着いている状態だ」
「一安心ロト〜!早く良くなるといいロトー!」
「そうだな、俺達も何か出来ることがあれば協力してやらないとな。」
「そうロト!と、いうことで早速お見舞いに行ってくるロト!」
善は急げと早速サナの部屋へ向かおうとするロトムを慌てて引き止めて事情を説明する。
「待てロトム!今行ってもサナは眠っているかもしれない。もう少し日が昇ってからの方が……」
「ロト?なんでロト?僕はサナのパートナーロト。側にいない方がおかしいロト」
「あー…だからなぁ……」
そのパートナーが今日は一緒にいて欲しくないんだとオブラートに包んで説明するにはどうすればいいんだ。
「とにかく……!今は行かない方がいいと思うぞ」
「むぅ……分かったロト」
必死の形相で訴えかけるとなんとか説得できたようでホッとする。
「お見舞いだけが肝心じゃないロト!僕に出来る事はまだまだ沢山あるロト!」
「おお…!その意気だぞロトム…!」
「まずは明日の朝食の準備をするロト。栄養のあるものをたくさん食べて貰うロト!」
「なるほどな、それは確かに良いアイデアだ。」
「ふふん、サナのことなら任せてロト!」
得意気に胸を張る姿はとても微笑ましい。
「他には…もし博士が勝手に注射しようとしたら図鑑を抜け出して電撃を流すロト。」
「おいおい……それは頑張る方向を間違ってるぞ」
「えー?理解不能、リカイフノウ…サナの苦しむ姿は見たくないロト。僕間違ってないロト!」
「ああ、まあ……それもそうだけどな……」
やはりまだ人間に対して知識が浅い部分があるロトムは注射という言葉を聞いて過剰に反応しているようだった。
「注射は確かに痛いかもしれないが、元気になるために必要なことなんだ。」
「ビビビッ…人間は痛いことをすると元気になるロト…?」
「いやまあ……そういう趣向の人もいるかもだが、そういうことではないんだよなぁ…」
「でもサナの苦しそうな顔は見たくないロト!」
「それは俺も同じ気持ちだよ。ただ、それでも注射を打たないといけない場合もあるんだ。」
「どういう時ロト?」
「例えば体力が落ちていて抵抗力が弱まっている時に細菌が入り込んでしまうと重症化しやすいんだ。」
「???」
「簡単に言えば、サナの身体の中に悪いものが入ってしまう前に注射をして防ぐってことさ」
「つまり危険が及ぶ前に対処するって事ロト?」
「ああ、その通りだな。」
「ビビビッ…!サナの為にそこまで考えていたなんて博士はやっぱり凄いロト!尊敬ロトー!」
先程とは打って変わってキラキラとした目でこちらを見つめてくるロトム。
「いや、俺は当然のことをしたまでで……」
「博士はもっと自分に自信を持つべきロト!僕にはサナを助けてあげたいという想いがあったけど、そんな考えには至らなかったロト!」
「そ、そうか……ありがとう。」
真っ直ぐな賞賛の言葉を受けて思わず照れくさくなって頬を掻いた。
「じゃあ僕はサナが怖がらないように動画機能をアップデートしてみるロト!可愛いポケモンや面白い動画を見ていたらきっと注射の痛みを忘れられるはずロト!」
「おお……!それは良い案だな。是非そうしてくれ」
本質的な問題は解決しないがきっと気休めにはなるだろう。彼女のために張り切るロトムの姿はとても頼もしかった。
「よーし、そうと決まれば早速準備を始めるロトー!」
「おっ、やる気満々だな。」
「もちろんロト!サナが早く元気になるためならなんだってやり遂げてみせるロト!」
気合十分に部屋を出ていくロトムを見届けた後、もう一度サナの様子を確認する。
穏やかに寝息を立てるその姿はいつもより少しだけ幼く見えた。
「早く良くなってくれよ……」
祈るような思いで呟きながら静かにその場を離れた。
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