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日常

「んー……」
カーテンから差し込む朝日が眩しくて目が覚めた。
大きく伸びをして、上体を起こす。
ベッドから降りて、窓辺に近寄りカーテンを開けると途端に部屋に陽光が満ちた。
「いい天気」
空は快晴で雲一つない。
太陽も高く昇っているのだろう、窓から入り込んでくる光はとても強い。
「今日も暑くなりそう…」
ロフトの梯子を降りて洗面所に向かう。
まずは鏡の前に立って身だしなみを整えなければ。歯を磨いて顔を洗い、髪をブラシで整える。
寝癖のついたところを見つければそこだけ水をつけて濡らす。いつも通り手早く済ませてからリビングに向かうとククイ博士がキッチンに立って朝食を作ってくれていた。
「サナ、おはよう!今日も絶好調だな!」
私の顔色を窺うように覗き込むと一旦調理を止めて胸ポケットのメモにペンを走らせる。
彼は私の主治医でありホームステイの受け入れ先でもある人だ。
小さな頃から身体が弱く病院をたらい回しにされていた私を療養児として快く迎え入れてくれた人で、感謝しても仕切れない。
「朝ごはんを食べる前に少し診察をしてもいいかな?」
コクリと首を縦に振ると博士は満足げに微笑みながら再び調理を始めた。
彼は毎朝こうやって私の体調を確認する。それが日課だった。学校がある時は朝晩で、お休みの時はお昼もチェックを欠かさない。そして、特に問題ないと判断すればそのまま診察は終了して一緒に食卓を囲むのだ。
「よしっ、特に異常は無いね。じゃあ食べようか」
テーブルにはトーストとスクランブルエッグとソーセージが並べられていてどれも美味しそうだ。
椅子に座っていただきますを言うとすぐにフォークを手に取って口に運ぶ。
サクッとした食感のあとに広がるバターの香りが鼻腔をくすぐる。焼き加減もちょうど良くて、思わず頬が落ちてしまいそうになるくらい。
「美味しいかい?それは良かった」
ニコニコしながらこちらを見つめてくる彼に笑みを返すとさらに嬉しそうな表情を浮かべる。
「さぁ、冷めないうちにどんどん食べるんだぞ」
そう促されて食事を続けていればあっという間に平らげてしまった。
「ご馳走様でした」
手を合わせて食後の挨拶をすると食器を持って立ち上がる。
「片付けなら俺に任せてくれよ。サナは学校の準備をしておいで」
彼の言葉に甘えて自室のロフトに向かおうと梯子に足をかけたが、一つ思うところがあって振り返る。
「もしかして…この前お皿割っちゃったこと気にしてますか…?」
私の問いかけに対してククイ博士は目を丸くして驚いたような顔を見せた。
「い、いや…そんなことはないぞ。あれは事故のようなものだったしな。」
言葉とは裏腹にククイ博士の目は泳いでいる。
嘘をつくときは必ずと言って良いほど目が泳ぐのは彼の悪い癖だ。
「もう……いくら身体が弱いと言ってもお皿くらい運べます!あの時は…たまたま咳が酷くて…それで…」
そこまで言ってハッとする。
私は何を言っているんだろう。これじゃまるで言い訳をしているみたいだ。
どんな要因だろうとお皿を割ってククイ博士に迷惑をかけてしまった事実は変わらない。それなのにこんな風に弁解するなんてどうかしている。
「ごめんなさい……変なこと言って…」
頭を下げて謝るとククイ博士は慌ててフォローに入った。
「いや、俺の方こそすまない……サナは頑張り屋さんだからな、何でも精一杯取り組む姿には本当に感心させられるよ。ただ、無理だけはしないでくれ、皿は何枚でも割っていいけど君が怪我するのは耐えられないんだ…」
「はい……。気をつけます」
もう一度謝罪を口にしてから部屋に戻る。
鞄の中に教科書や必要なものを詰め込んでいると充電を終えたロトム図鑑が飛んできた。
「サナ〜おはようロト!今日は学校行けるロト?」
「うん。今日は調子が良いの。久しぶりの登校だけど大丈夫だと思う」
「やったー!みんな喜ぶロト!」
そう言うなり飛び上がって喜びを表現する。
その姿がなんだか可愛らしくて思わず笑みが溢れてしまう。
「ふふっ、ありがとう。じゃあ、そろそろ行こうかな」
リビングに戻るとククイ博士も準備を終えて玄関で待っていてくれた。
「忘れ物はないか?」
「はい!」
元気よく返事をする私を見てククイ博士は優しく微笑むと私の頭を撫でた。
その大きな手がとても温かくて心地よい。
「それじゃあ行こうか」
差し出された手を掴んで二人で家を出た。
今日もまたいつも通りの一日が始まる。
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