アレルギー
「ぅう…ん」
あれから数時間経った頃、ようやく目を開けたサナの側に俺は座り込んでいた。
「目が覚めたかい?気分はどうだ?」
そう声をかけるとゆっくりと瞼を開きこちらを見つめる。
「はかせ…?私、なんで…」
記憶が混濁しているようだ。無理もない。
「君は料理を食べて倒れたんだ。おそらくアレルギー反応だと思うんだけど、体に違和感とかはないかな?」
その言葉を聞くや否や、サナは自分の体を確かめるように触り始めた。
「…身体中が熱くて、痒いです…」
「やっぱり……。君の食べた料理の中にお酒を混ぜたものがあったらしい。それを知らずに食べちゃったみたいだな」
「どうしよう…私のせいで皆に迷惑を……」
涙を浮かべながら呟く彼女の頭を優しく撫でると安心させるように笑顔を向けた。
「大丈夫だ。マオが試食会は無事に終わったと言っていたし、君の異変に気付いたのは彼女とカキ2人だけのはずだ。」
「本当ですか……?」
不安げに見上げる瞳に小さくうなずくと、彼女もつられて笑みを見せた。
「それよりも君は人のことじゃなく自分のことを心配しなさい…まあ幸いなことに軽い症状で済んでいるが……」
「ごめんなさい……」
シュンとする彼女にため息をつくと、俺は彼女をベッドに寝かせた。
「いいかい?今はまだ症状が出ていないだけでこれから悪化していく可能性もある。しばらくは安静にしているんだ」
「はい……」
「とりあえず数日間は安静にしていること。もちろん学校もダメだ。分かったね?」
少し厳しい口調で告げると彼女は布団を握りしめてそっぽを向いてしまった。
「はかせの、いじわるっ……!」
「ぐっ…」
涙目になりながらも反抗的な態度をとる彼女に思わず怯んでしまう。
こちらとしてもこんな状態の彼女を学校に行かせるわけにはいかないのだが……
確かにたかがアレルギー反応で数日間外出禁止を言い渡すには少々やり過ぎかもしれない。
しかし、身体が弱い彼女に何かあってからでは遅いのだ。良心がズタズタに切り裂かれるような痛みに耐えつつ、心を鬼にして彼女に言い聞かせることにした。
「君のためなんだ……分かってくれ」
「……」
無言のままこちらを睨む彼女としばらく見つめ合うと、やがて諦めたのか小さくコクリとうなずいた。
「よし、良い子だ」
そう言ってポンッと頭に手を置くと、彼女は照れくさそうに頬を染めていた。
「本当はわかってます…博士が私のためを思って厳しくしてくれていることも、ちゃんとお休みしないと治らないっていうことも……」
ポツリと漏らした彼女の言葉を黙って聞き入れる。
「でも、どうしても焦っちゃうんです。私がベッドの上で過ごしている内に皆はどんどん成長しちゃうでしょ?置いてかれたくないなって思ってしまうから」
寂しげに語る少女を見て胸の奥が締め付けられるようだった。
「サナは頑張り屋さんだからな。でも、あまり根を詰め過ぎると逆効果になる。たまには休むことも大切なんだ」
視線を合わせて諭すように言うと、彼女はコクリとうなずいて見せた。
「私、いつかはみんなと同じ様に過ごせる様になりますか…?」
「ああ、きっとできるさ」
俺の言葉を聞いて嬉しそうに微笑むサナ。
そんな姿を見ると、この選択が間違っていなかったのだと実感できた。
「よし!それじゃ今日はもうゆっくり眠るといい。」
最後に毛布をかけ直し、おもむろに立ち上がると部屋を後にしようとした。
「はかせ、ありがとうございます」
ドアノブに手をかけた時、後ろから声をかけられたので振り返らずに片手を上げて応えた。
「気にするな、俺は君の主治医だからな。おやすみ」
それだけ伝えて部屋を出ると、俺は深いため息をついた。
嘘をついたことに後悔はしていない。
彼女が早く元気になってくれるならどんな代償を払ってでも構わないと思っている。
たとえそれが、ひとときの夢物語なのだとしても。
あれから数時間経った頃、ようやく目を開けたサナの側に俺は座り込んでいた。
「目が覚めたかい?気分はどうだ?」
そう声をかけるとゆっくりと瞼を開きこちらを見つめる。
「はかせ…?私、なんで…」
記憶が混濁しているようだ。無理もない。
「君は料理を食べて倒れたんだ。おそらくアレルギー反応だと思うんだけど、体に違和感とかはないかな?」
その言葉を聞くや否や、サナは自分の体を確かめるように触り始めた。
「…身体中が熱くて、痒いです…」
「やっぱり……。君の食べた料理の中にお酒を混ぜたものがあったらしい。それを知らずに食べちゃったみたいだな」
「どうしよう…私のせいで皆に迷惑を……」
涙を浮かべながら呟く彼女の頭を優しく撫でると安心させるように笑顔を向けた。
「大丈夫だ。マオが試食会は無事に終わったと言っていたし、君の異変に気付いたのは彼女とカキ2人だけのはずだ。」
「本当ですか……?」
不安げに見上げる瞳に小さくうなずくと、彼女もつられて笑みを見せた。
「それよりも君は人のことじゃなく自分のことを心配しなさい…まあ幸いなことに軽い症状で済んでいるが……」
「ごめんなさい……」
シュンとする彼女にため息をつくと、俺は彼女をベッドに寝かせた。
「いいかい?今はまだ症状が出ていないだけでこれから悪化していく可能性もある。しばらくは安静にしているんだ」
「はい……」
「とりあえず数日間は安静にしていること。もちろん学校もダメだ。分かったね?」
少し厳しい口調で告げると彼女は布団を握りしめてそっぽを向いてしまった。
「はかせの、いじわるっ……!」
「ぐっ…」
涙目になりながらも反抗的な態度をとる彼女に思わず怯んでしまう。
こちらとしてもこんな状態の彼女を学校に行かせるわけにはいかないのだが……
確かにたかがアレルギー反応で数日間外出禁止を言い渡すには少々やり過ぎかもしれない。
しかし、身体が弱い彼女に何かあってからでは遅いのだ。良心がズタズタに切り裂かれるような痛みに耐えつつ、心を鬼にして彼女に言い聞かせることにした。
「君のためなんだ……分かってくれ」
「……」
無言のままこちらを睨む彼女としばらく見つめ合うと、やがて諦めたのか小さくコクリとうなずいた。
「よし、良い子だ」
そう言ってポンッと頭に手を置くと、彼女は照れくさそうに頬を染めていた。
「本当はわかってます…博士が私のためを思って厳しくしてくれていることも、ちゃんとお休みしないと治らないっていうことも……」
ポツリと漏らした彼女の言葉を黙って聞き入れる。
「でも、どうしても焦っちゃうんです。私がベッドの上で過ごしている内に皆はどんどん成長しちゃうでしょ?置いてかれたくないなって思ってしまうから」
寂しげに語る少女を見て胸の奥が締め付けられるようだった。
「サナは頑張り屋さんだからな。でも、あまり根を詰め過ぎると逆効果になる。たまには休むことも大切なんだ」
視線を合わせて諭すように言うと、彼女はコクリとうなずいて見せた。
「私、いつかはみんなと同じ様に過ごせる様になりますか…?」
「ああ、きっとできるさ」
俺の言葉を聞いて嬉しそうに微笑むサナ。
そんな姿を見ると、この選択が間違っていなかったのだと実感できた。
「よし!それじゃ今日はもうゆっくり眠るといい。」
最後に毛布をかけ直し、おもむろに立ち上がると部屋を後にしようとした。
「はかせ、ありがとうございます」
ドアノブに手をかけた時、後ろから声をかけられたので振り返らずに片手を上げて応えた。
「気にするな、俺は君の主治医だからな。おやすみ」
それだけ伝えて部屋を出ると、俺は深いため息をついた。
嘘をついたことに後悔はしていない。
彼女が早く元気になってくれるならどんな代償を払ってでも構わないと思っている。
たとえそれが、ひとときの夢物語なのだとしても。