アレルギー
フライパンを右手のスナップをきかせてひっくり返す。
ジュワァーと音を立てて、こんがりと焼けた卵焼きが完成した。
そのまま皿の上に盛り付けると、出来上がった料理をテーブルまで運んで、箸と一口サイズのおにぎりを一緒に並べた。
「おっと…」
余分に一膳あった箸に気づき、習慣というものは怖いものだなと苦笑する。
先に研究所のポケモンにご飯を与えて、ソファーに座る頃にはすっかり料理も冷めていた。
一度温め直そうかと迷ったが気にせず食べ始めることにした。
相手が彼女ならば、何があっても温め直してやるだろうけど…自分のことになるとどうにも面倒くささが勝ってしまう。
これでは保護者としてサナに顔向け出来ないと反省しつつ温くなった味噌汁を啜った。
「……サナ、今頃楽しんでいるだろうか」
彼女はクラスメイトのマオの試食会に呼ばれて出かけていた。
このところずっと研究所に篭りきりだったから息抜きになるといいなと思う反面、寂しい気持ちもある。
ふと時計を見るともう8時を回る頃だった。さすがにそろそろ帰ってくるだろうと思ったところでタイミング良く玄関が開く音がした。
急いで椅子から立ち上がると彼女の元へ向かう。
「おかえり!試食会はどうだっ……た?」
出迎えの言葉を言い切る前に、俺は思わず目を丸くする。
そこには何故かぐったりとしたサナがカキに支えられて立っていたのだ。
その顔色はいつもより熱っぽく見えるし、心做しか足元も覚束ない様子でフラついているように思える。
「えっと……?どうした、何かあったのか?」
慌てて駆け寄り声をかけると、少し遅れて後ろにいたマオが慌てた様子で説明してくれた。
「ごめんなさいっ!ククイ博士…私の料理を食べた後サナの具合が悪くなっちゃったみたいで…」
「何っ!?」
俺の把握している限り、サナにアレルギーはなかったはずだ。だが、現に目の前にいる彼女は自分で立てないほど体調を崩してしまっている。
「とにかく早くベッドへ!」
そう言ってサナを抱えると、俺の部屋へと連れて行く。
ベッドの上に寝かせると一言謝ってからシャツを脱がせた。
「なっ…!」
露わになった上半身を見て俺は絶句してしまった。
身体の所々がまだらに赤くなっていて、特に血管が集まる手首、肘の内側の肘窩辺りが真っ赤になっていた。まるで誰かに強く叩かれたような痕に見える。
「これは一体どういうことだ?」
「それが……」
俺は一旦部屋を出てリビングに戻ると、そこでマオに事情を聞いた。
話を聞くところによると、先程、試食会がお開きになって解散となったのだが、その際にサナの様子がおかしいことにカキが気付き、心配して声をかけたところ突然机に突っ伏してしまったという。
驚いて声を掛けたが反応はなく、呼吸も荒くなっていたためひとまず研究所に連れて帰ったそうだ。
そして今に至ると……。
「そんなことがあったなんて……」
話を聞いたあと再び部屋に戻って様子を見てみると、先程よりも苦しそうな表情を浮かべていた。
額に手を当てるとやはり熱い。
「サナの調子が悪くなったのは私の料理を食べてからなんです!やっぱり…何か悪いものでも入っていたのかな…」
「いや、もしそうだとしたら皆体調が悪くなっていなきゃおかしいだろ?きっと何かの材料で身体が拒否反応を起こしているんだ…原因がわかればいいんだが…」
そう言いながら俺は白衣の胸ポケットに入っていたメモを取り出してマオに食材の名前を書いてもらうよう頼んだ。
その間にも苦しそうに顔を歪めるサナを見ていると、居ても立ってもいられなくなってくる。
一刻を争う事態だと判断した俺は聴診器を取り出すと、耳元に装着してゆっくりと服の中に手を入れる。
すると、すぐに異変に気付いた。
心臓の動きが異様に早いのだ。
しかも通常ではありえない速度で脈打っている。
原因はわからないがこのままじゃサナの心臓に負担がかかってしまう。それだけは避けなければならない。
引き出しの中からアレルギー反応を抑える塗り薬を取り出すと急いで自室に戻り、赤くなっている腕や胸に塗り込んだ。続けてその上からタオルに包んだ保冷剤を押し当てる。これで少しは楽になるはずだ。
「とりあえずこれで少し様子を見てみよう…マオ、食材は書けたか?」
「はい!こんな感じだったと思います…!」
マオから紙を受け取るとそこに書いてあるものを確認していく。
「…もしかすると料理酒のせいかもしれないな」
「料理酒?」
マオの言葉にコクリと首を縦に振る。
「ああ。おそらくだがマオが使った料理酒のアルコールによってアレルギー反応が出てしまったのかもしれない。」
赤い頬、まだらに赤い肌、異常な心拍数……全て説明がつく。
「そっか……だからサナの具合があんなに悪かったんだ……」
マオの言葉にもう一度うなずいてみせる。
「じゃあサナの病気が悪化したわけじゃないんだな?」
ずっと隣で話を聞いていたカキが確認するように問いかけてきた。
それにもう1度同じ返事をする。
「ただ、この症状がいつまで続くか分からない。今は安静にして様子見するしかないだろう。念の為明日は学校を休ませるよ。もう遅いし君達は帰りなさい。」
「でも……サナが心配です……」
料理人の卵として人一倍責任感のあるマオはまだここに残ると言って聞かないようだが、カキの方は素直に帰ってくれるようだった。
「マオ、今日は帰ろう。俺達がいたんじゃサナもゆっくり休めないだろう。ククイ博士、サナのことよろしく頼みます。何かあったらすぐ連絡してください」
「わかった。2人ともありがとう。気をつけて帰るんだぞ」
2人は一度俺に礼を言うと静かに部屋から出て行った。
ジュワァーと音を立てて、こんがりと焼けた卵焼きが完成した。
そのまま皿の上に盛り付けると、出来上がった料理をテーブルまで運んで、箸と一口サイズのおにぎりを一緒に並べた。
「おっと…」
余分に一膳あった箸に気づき、習慣というものは怖いものだなと苦笑する。
先に研究所のポケモンにご飯を与えて、ソファーに座る頃にはすっかり料理も冷めていた。
一度温め直そうかと迷ったが気にせず食べ始めることにした。
相手が彼女ならば、何があっても温め直してやるだろうけど…自分のことになるとどうにも面倒くささが勝ってしまう。
これでは保護者としてサナに顔向け出来ないと反省しつつ温くなった味噌汁を啜った。
「……サナ、今頃楽しんでいるだろうか」
彼女はクラスメイトのマオの試食会に呼ばれて出かけていた。
このところずっと研究所に篭りきりだったから息抜きになるといいなと思う反面、寂しい気持ちもある。
ふと時計を見るともう8時を回る頃だった。さすがにそろそろ帰ってくるだろうと思ったところでタイミング良く玄関が開く音がした。
急いで椅子から立ち上がると彼女の元へ向かう。
「おかえり!試食会はどうだっ……た?」
出迎えの言葉を言い切る前に、俺は思わず目を丸くする。
そこには何故かぐったりとしたサナがカキに支えられて立っていたのだ。
その顔色はいつもより熱っぽく見えるし、心做しか足元も覚束ない様子でフラついているように思える。
「えっと……?どうした、何かあったのか?」
慌てて駆け寄り声をかけると、少し遅れて後ろにいたマオが慌てた様子で説明してくれた。
「ごめんなさいっ!ククイ博士…私の料理を食べた後サナの具合が悪くなっちゃったみたいで…」
「何っ!?」
俺の把握している限り、サナにアレルギーはなかったはずだ。だが、現に目の前にいる彼女は自分で立てないほど体調を崩してしまっている。
「とにかく早くベッドへ!」
そう言ってサナを抱えると、俺の部屋へと連れて行く。
ベッドの上に寝かせると一言謝ってからシャツを脱がせた。
「なっ…!」
露わになった上半身を見て俺は絶句してしまった。
身体の所々がまだらに赤くなっていて、特に血管が集まる手首、肘の内側の肘窩辺りが真っ赤になっていた。まるで誰かに強く叩かれたような痕に見える。
「これは一体どういうことだ?」
「それが……」
俺は一旦部屋を出てリビングに戻ると、そこでマオに事情を聞いた。
話を聞くところによると、先程、試食会がお開きになって解散となったのだが、その際にサナの様子がおかしいことにカキが気付き、心配して声をかけたところ突然机に突っ伏してしまったという。
驚いて声を掛けたが反応はなく、呼吸も荒くなっていたためひとまず研究所に連れて帰ったそうだ。
そして今に至ると……。
「そんなことがあったなんて……」
話を聞いたあと再び部屋に戻って様子を見てみると、先程よりも苦しそうな表情を浮かべていた。
額に手を当てるとやはり熱い。
「サナの調子が悪くなったのは私の料理を食べてからなんです!やっぱり…何か悪いものでも入っていたのかな…」
「いや、もしそうだとしたら皆体調が悪くなっていなきゃおかしいだろ?きっと何かの材料で身体が拒否反応を起こしているんだ…原因がわかればいいんだが…」
そう言いながら俺は白衣の胸ポケットに入っていたメモを取り出してマオに食材の名前を書いてもらうよう頼んだ。
その間にも苦しそうに顔を歪めるサナを見ていると、居ても立ってもいられなくなってくる。
一刻を争う事態だと判断した俺は聴診器を取り出すと、耳元に装着してゆっくりと服の中に手を入れる。
すると、すぐに異変に気付いた。
心臓の動きが異様に早いのだ。
しかも通常ではありえない速度で脈打っている。
原因はわからないがこのままじゃサナの心臓に負担がかかってしまう。それだけは避けなければならない。
引き出しの中からアレルギー反応を抑える塗り薬を取り出すと急いで自室に戻り、赤くなっている腕や胸に塗り込んだ。続けてその上からタオルに包んだ保冷剤を押し当てる。これで少しは楽になるはずだ。
「とりあえずこれで少し様子を見てみよう…マオ、食材は書けたか?」
「はい!こんな感じだったと思います…!」
マオから紙を受け取るとそこに書いてあるものを確認していく。
「…もしかすると料理酒のせいかもしれないな」
「料理酒?」
マオの言葉にコクリと首を縦に振る。
「ああ。おそらくだがマオが使った料理酒のアルコールによってアレルギー反応が出てしまったのかもしれない。」
赤い頬、まだらに赤い肌、異常な心拍数……全て説明がつく。
「そっか……だからサナの具合があんなに悪かったんだ……」
マオの言葉にもう一度うなずいてみせる。
「じゃあサナの病気が悪化したわけじゃないんだな?」
ずっと隣で話を聞いていたカキが確認するように問いかけてきた。
それにもう1度同じ返事をする。
「ただ、この症状がいつまで続くか分からない。今は安静にして様子見するしかないだろう。念の為明日は学校を休ませるよ。もう遅いし君達は帰りなさい。」
「でも……サナが心配です……」
料理人の卵として人一倍責任感のあるマオはまだここに残ると言って聞かないようだが、カキの方は素直に帰ってくれるようだった。
「マオ、今日は帰ろう。俺達がいたんじゃサナもゆっくり休めないだろう。ククイ博士、サナのことよろしく頼みます。何かあったらすぐ連絡してください」
「わかった。2人ともありがとう。気をつけて帰るんだぞ」
2人は一度俺に礼を言うと静かに部屋から出て行った。