延命治療
そこからはむしろ呆気なかった。
市場へ向かっている途中でロトムから着信が入りサナが戻ったことを告げられた。
画面の奥に青白い顔色の彼女を見つけて思わず安堵の声が出る。
「よかった……」
すぐに戻る旨を伝え、足早に家路につく。
「ただいま」
玄関を開けるとロトム図鑑が出迎えてくれた。しきりに俺の周りをぐるぐる回って落ち着かない様子だ。
「博士〜!お願いロト…サナを怒らないで欲しいロト…」
「……怒ってないさ、安心しろ」
帽子を脱ぎながら答える。その言葉にほっとしたのか、ロトムもようやくいつも通りの調子に戻った。
「でもどうして急に外出したんだ…」
ふと思い浮かべたのは昨日の晩のこと。
その日は以前彼女の主治医だったカントーの医者と彼女の今後について話をしていた。まさかとは思うがその時の会話を聞いて何か思うところがあったのだろうか…
キッチンにたどり着くとそこには沢山の木の実が置いてあった。
どれも俺と一緒にいる時に強請ったことのないものだ。
「……これ全部買ってきたのか」
彼女は一体どんな想いでこれを眺めていたんだろうか……。
想像すると胸が締め付けられるようだった。
簡単に軽食を用意してハシゴに手をかける。
登りきるとベッドで横になっている彼女を視界に捉えた。
「サナ、入るぞ」
軽くノックをして部屋に入ると彼女は寝返りを打った。
ロトムから薬を飲んだことは聞いたが、まだ少し苦しそうだ。額に触れると案の定熱があるようで、汗で前髪が張り付いていた。
「はかせ…」小さな声で彼女が呟く。
その声はあまりに弱々しくて、今にも消えてしまいそうなほどだった。
「……心配した」
思わず本音が漏れる。
「えっ」
「本当に……心配したんだ……」
気がつけば目元から涙が溢れ出していた。情けない話だが、今の今まで我慢してきたものが決壊してしまったようだ。
「……ごめんなさい、ごめんなさい……ごめ……なさ……」
サナの目からも大粒の雫が流れ落ちる。
しゃくりあげているせいか上手く喋れないようだったが、それでも懸命に謝っているのがわかった。
そっと頭を撫でて抱き締めてやると彼女の震えが伝わってくる。
「…………」
俺は何も言わずにただ泣き止むまでずっと背中をさすってやった。