サイドストーリー Re:star's two
NEXT DAYS
2024/11/12 18:19 《世界》と《世界》の接触は、必ずしも良いモノを生むとは限らない。《世界》が無数にあるなら、《世界》に《災厄》の種も尽きること無し。例えば《世界》が異なれば、酸素は病であり、水も滴る毒となる。そして何より……
「や、やめてくれ……どうしてこんな……酷いことを……」
「酷い? ハハッ、どうでもいいね。此処を取るだけ取ったら別のとこにいきゃぁいいだけだ」
「そ、そんなこと……いつまでも続けられる訳が……」
「いや、できるね。何せ、《世界》は無数にあるんだからな!」
異なる《世界》の存在が、人が、別の《世界》にとって味方である保障は何処にもない。現代的で文化的な、そして恐らく治安もよくおおむね平和であっただろう町並みは、一夜にして荒れ果てていた。その《世界》に存在しない武器と兵器、生物を伴って現れた集団。恐らく規模として50名にも満たない彼らによって。決定的な打撃を与えれられないまま、この町の治安を維持する警察、国を守る軍隊は既に何万と消費され、それ以上の数の一般人が手にかけられていた。たった今も、もう一人分がこの《世界》から失われ、そして……
「良い《世界》だなぁここは! 平和ボケして、《可能性》に満ちて、奪いやすく、奪いがいがある! おい見ろよ。ガキが二人もいるぜ! 高く売れるぞ!」
「あんまり浮かれるなよ、ボスは今回の作戦に本気なんだ。しくじると後がねぇからな」
「俺たちみたいな末端にゃ関係ねぇよ。奪って、殺して、稼ぐだけだ。それ以外に何しろってんだ?」
「まぁ……それもそうか。ほら立て、来い!」
更に二人分の《可能性》が、《世界》から奪われようとしていた。異世界から飛来した悪が、《世界》を蝕んでいた。だが、そんな状況でも正義の心は、全く消え去る訳ではなかった。怯える子どもへとゆっくり迫る武装した二人組、その内の1人の頭へ、背後から飛んできた石ころがぶつかった。
「イテッ!」
「馬鹿め……」
「んだと!? ってかなんだよ。まだこんな奴が居たのか? ヒーロー気取りのクソガキが……」
「待て、警戒しろ……バースセイバーかも知れん」
「チッ……」
彼らが振り返ると、そこには鋭い目つきで睨みつける、煤けて髪や顔を黒くさせた少年が立っていた。悪に対して怒りと、正義を燃やしている彼は、何の力もないただの少年だったが、世界を跨いだ悪党たちの悪行を、十数秒だけ遅らせた。
それは結果論に過ぎないのかも知れない。力ない少年が暴力へささやかに抗ったところで、より強く悪意に満ちた暴力が返ってくるだけだ。現に今もその通りであり、数秒の警戒と躊躇いを生じさせた後、少年は二人がかりで痛めつけられ、胸ぐらを掴んで持ち上げられていた。
「やっぱりただのガキじゃねぇか。オマエはビビり過ぎなんだよ」
「うるせぇな、オマエが馬鹿だから代わりに警戒してやってるんだろうが」
「吠えてろ、このガキも俺の取り分だからな。2体も攫えりゃ、そこそこ良い稼ぎに……」
だが殺されはせず、他の子どもたちも傷付けられることなく、更に十数秒の時を稼いだ。
合計で一分にも満たなかったが、少年の行動は確かに、そこにいる怯える子どもと、何より自身の命運を分けたのだ。突然、建物の天井が割れる。その場にいる誰もが驚居た視線を向ける先、立ち昇る埃と砂の奥には、揺れる人影が見えていた。
――――
場所は変わって、その遥か上空……正確にはまだその真上に到達するには、残り37秒ほどかかる場所。高速で移動する航空機の中。軍で使われる無骨で実用的な機体の中に、アンソニーは足を組んで座っていた。
{あと30秒で目的座標だ。アン、準備は良いな?}
「トーゼン。キミこそ準備はできてるのかい?」
{あぁ、配置についてる。こっちはいつでも……}
「クッキー、ボクがそんなつまらないことを確認すると思うのかい?」
{ハハッ、これでも作戦責任者なんで一応な。分かってるさ、できてるよ。カメラの用意もな!}
「OK! さ、残り10秒だよ。Ready?」
インカムから声が聞こえるのと同時に、アンソニーは立ち上がった。通信先の相手と冗談めいたやり取りを交わした後、航空機の扉を勢いよく開く。機体が高速で飛行する速さと、空に留まる大気のズレが強風となって機内に吹き込んでくる。風で真っ赤なマフラーと、インナーカラーに同じく真紅が混じった青い髪が揺れる。
「5カウントでいくぞ……5、4、3、2、1、ゴー!」
合図と共に飛び出したアンソニーは、ゴーグルは装備していなかったし、パラシュートやバックパックは背負っていなかった。一般人には必須のそれらだが、そうではないアンソニーにとっては不要なのだ。凄まじい速度で地上に迫りながらも、重力に支配されて落ちるなんて不格好なさまではなく、自らの意志によってのみ己の体をコントロールし、宙を泳ぐような優雅さを保っている。
落ち始めて8秒ほど過ぎた頃、地上から幾つもの爆音と閃光が生じ、空へ金属製の塊が煙を伴なって昇ってきていた。幾つも打ちあがってくるそれらは、やや不規則に揺れながらも、おおむねまっすぐに目標めがけ、アンソニーに向かって飛んできていた。つまりそれは、全てミサイルだ。
「迎撃ミサイル? 人間相手に大層だね……だけど」
落下する物体に対して自動で行われるのか、航空機の存在が捉えられ手動で放たれたか定かでない。ただ、最初はややゆっくりだったミサイルが最高速度に達してアンソニーへ迫ってきているのだけは確かだった。普通の人間なら絶望的な状況だが、アンソニーは少し呆れたような感じだけで、諦めは一切見られず、すぐ不敵に笑った。
アンソニーが両手を広げると、指と指の間には、いつの間にかボールプールで使われるようなカラフルなボールが幾つも挟まっていた。それを薙ぎ払うようにしてばらまくと、数フレームの間を開けた後、一つ一つが熱と黒煙を生じさせて炸裂した。次々に煙の中へと群がるミサイルだが、正確さを失ったそれらは、ただ大気をかき混ぜて空を濁らせながら昇っていくだけだ。そして次の瞬間には、胴長の魚めいた胴体を、下から伸びてきた青い光が貫いた。
「ボク相手には足りないな!」
ミサイルの群れが泳ぐ下で、アンソニーは親指を立て、人差し指
と中指を前に伸ばした手の形……指鉄砲を作っている。普通と違うのは、それが銃の真似事ではなく、銃より遥かに強力な武器であることだった。両手の指鉄砲から次々に撃ちだされた青い閃光が、再びターゲットを捉え、Uターンしようとしてきていたミサイルを全て貫き、爆散させていた。バラバラになった鉄の欠片が降り注いでいる中で、アンソニーは地上めがけてニッと笑い、Vサインを作っていた。落ち始めて30秒ほどで起こった出来事だった。
そして更に20秒経つ頃、地上へと到達したアンソニーだが、それは全く偶然だった。一旦身を隠すため、目視を切り、追跡を困難にするためだ。落下先に見えたビルに向かって落下し、天井を壊しながら飛び込んだのは。そこに子どもたちと、彼らを襲う悪漢たちがいたのは、全くの偶然だったのだ。
ここでもし、少年が見せた正義や行動が無ければ、此処には誰もいなかっただろう。無意味に見えた抵抗が、意味あるものに変わった瞬間であった。
経験の差と、雑念の有無。急な事態を呑み込んで先に行動したのはアンソニーだ。子どもを持ち上げたまま固まっている男たち二人に急接近すると、1人を数発の殴打と裏拳で殴り飛ばした。慌てて子どもを投げ捨て、銃を構えたもう一人の方は……一旦無視し、スライディングで子どもを受け止め、そのまま銃撃を躱しながら代わりに指鉄砲からの閃光をお返しする。
「……ヒーロー?」
「ンー? ちょっと違うね。ボクはそんなんじゃないよ。ボクは、“G”さ」
「G?」
「そう。ボクはヒーローじゃない……」
まるでフィクションに登場するような、それらが空想の存在として扱われるこの《世界》において。映画や漫画にしかいない筈の英雄めいた行動と独特な格好に、少年は目に光が宿らせながら、何処か熱っぽさを帯びた声で問い掛けた。だがアンソニーは肩をすくめて笑いながら否定し、少年を降ろしながらそう名乗って、指鉄砲を少年へと向けた。先程の光景を思い出し、少年は咄嗟に腕で自身を庇った。
閃光が放たれ、今度こそ貫いた。「死ね」と叫びながら立ち上がり、銃を撃とうとしていた男を。驚き、怯え、困惑。何が起こったか分からないという様子の少年に、アンソニー、もとい“G”はウィンクしながら言った。
「ボクは“G”、“ABC” と“DEF” ……その“過ぎさった痕” さ」
――――
それから暫く、夜が明けきるよりはまだ早い頃。内部に飛び込んだ“G”によって世界を跨ぐ悪党である、界賊たちの防御網が乱され、そこへなだれ込んだ仲間たちによって、事態は無事に収束した。最初に出会った悪党二人組が武装者に収容される様を眺めつつ、助けた子どもたちには手を振っていた“G”のもとへ、仲間の一人が近付いた。
「次は奴らのアジトに行くんだろ。再確認だけど、残りも派手にやって良いんだよね?」
「つまらない確認はいらないんじゃなかったのか?」
「始末書はごめんだよ、ボクに届くのはファンレターだけで十分さ」
「あとで一枚は間違いなく届くぞ。俺からだけどな」
「クッキーが書いたのって長文だからなぁ……」
傍に来た仲間と冗談めかしたやり取りを交わし、彼と共に“G”はその場を後にする。だがふと、荒れ果てたビル群の向こうで星々が見えたのに、“G”は――アンソニーは立ち止まった。ステラボードでの旅をふいに思い出したのだ。あれから色々と変わったのは確かだ。分かりやすいところなら見た目も活動名も変えたし、戦い方も変えた。分かりにくいところでは、考え方というか、根本的な哲学のような部分も変わっただろう。
「……チョット、一緒に呆けてどうするのさ」
「ハハハ、少しぐらいは良いかと思ってな。んじゃ、そろそろ行こうぜ」
だがヒーローへの想いも、こういう時、一緒に立ち止まって星を見てくれる仲間がいるのは変わらなかった。呆れた様子でたしなめながらも、笑っている目の前の仲間と、奥で自分たちを待っている他の仲間たちを見て、アンソニーはふふっと笑った。
(ヒーロー。オマエはもういないけれど……)
歩きながらもう一度だけ振り返り、星々に向かって微笑み、納得行く様子で呟いた。
「それなりに楽しくやってるよ、僕は」
Re:star's twoFin
「や、やめてくれ……どうしてこんな……酷いことを……」
「酷い? ハハッ、どうでもいいね。此処を取るだけ取ったら別のとこにいきゃぁいいだけだ」
「そ、そんなこと……いつまでも続けられる訳が……」
「いや、できるね。何せ、《世界》は無数にあるんだからな!」
異なる《世界》の存在が、人が、別の《世界》にとって味方である保障は何処にもない。現代的で文化的な、そして恐らく治安もよくおおむね平和であっただろう町並みは、一夜にして荒れ果てていた。その《世界》に存在しない武器と兵器、生物を伴って現れた集団。恐らく規模として50名にも満たない彼らによって。決定的な打撃を与えれられないまま、この町の治安を維持する警察、国を守る軍隊は既に何万と消費され、それ以上の数の一般人が手にかけられていた。たった今も、もう一人分がこの《世界》から失われ、そして……
「良い《世界》だなぁここは! 平和ボケして、《可能性》に満ちて、奪いやすく、奪いがいがある! おい見ろよ。ガキが二人もいるぜ! 高く売れるぞ!」
「あんまり浮かれるなよ、ボスは今回の作戦に本気なんだ。しくじると後がねぇからな」
「俺たちみたいな末端にゃ関係ねぇよ。奪って、殺して、稼ぐだけだ。それ以外に何しろってんだ?」
「まぁ……それもそうか。ほら立て、来い!」
更に二人分の《可能性》が、《世界》から奪われようとしていた。異世界から飛来した悪が、《世界》を蝕んでいた。だが、そんな状況でも正義の心は、全く消え去る訳ではなかった。怯える子どもへとゆっくり迫る武装した二人組、その内の1人の頭へ、背後から飛んできた石ころがぶつかった。
「イテッ!」
「馬鹿め……」
「んだと!? ってかなんだよ。まだこんな奴が居たのか? ヒーロー気取りのクソガキが……」
「待て、警戒しろ……バースセイバーかも知れん」
「チッ……」
彼らが振り返ると、そこには鋭い目つきで睨みつける、煤けて髪や顔を黒くさせた少年が立っていた。悪に対して怒りと、正義を燃やしている彼は、何の力もないただの少年だったが、世界を跨いだ悪党たちの悪行を、十数秒だけ遅らせた。
それは結果論に過ぎないのかも知れない。力ない少年が暴力へささやかに抗ったところで、より強く悪意に満ちた暴力が返ってくるだけだ。現に今もその通りであり、数秒の警戒と躊躇いを生じさせた後、少年は二人がかりで痛めつけられ、胸ぐらを掴んで持ち上げられていた。
「やっぱりただのガキじゃねぇか。オマエはビビり過ぎなんだよ」
「うるせぇな、オマエが馬鹿だから代わりに警戒してやってるんだろうが」
「吠えてろ、このガキも俺の取り分だからな。2体も攫えりゃ、そこそこ良い稼ぎに……」
だが殺されはせず、他の子どもたちも傷付けられることなく、更に十数秒の時を稼いだ。
合計で一分にも満たなかったが、少年の行動は確かに、そこにいる怯える子どもと、何より自身の命運を分けたのだ。突然、建物の天井が割れる。その場にいる誰もが驚居た視線を向ける先、立ち昇る埃と砂の奥には、揺れる人影が見えていた。
――――
場所は変わって、その遥か上空……正確にはまだその真上に到達するには、残り37秒ほどかかる場所。高速で移動する航空機の中。軍で使われる無骨で実用的な機体の中に、アンソニーは足を組んで座っていた。
{あと30秒で目的座標だ。アン、準備は良いな?}
「トーゼン。キミこそ準備はできてるのかい?」
{あぁ、配置についてる。こっちはいつでも……}
「クッキー、ボクがそんなつまらないことを確認すると思うのかい?」
{ハハッ、これでも作戦責任者なんで一応な。分かってるさ、できてるよ。カメラの用意もな!}
「OK! さ、残り10秒だよ。Ready?」
インカムから声が聞こえるのと同時に、アンソニーは立ち上がった。通信先の相手と冗談めいたやり取りを交わした後、航空機の扉を勢いよく開く。機体が高速で飛行する速さと、空に留まる大気のズレが強風となって機内に吹き込んでくる。風で真っ赤なマフラーと、インナーカラーに同じく真紅が混じった青い髪が揺れる。
「5カウントでいくぞ……5、4、3、2、1、ゴー!」
合図と共に飛び出したアンソニーは、ゴーグルは装備していなかったし、パラシュートやバックパックは背負っていなかった。一般人には必須のそれらだが、そうではないアンソニーにとっては不要なのだ。凄まじい速度で地上に迫りながらも、重力に支配されて落ちるなんて不格好なさまではなく、自らの意志によってのみ己の体をコントロールし、宙を泳ぐような優雅さを保っている。
落ち始めて8秒ほど過ぎた頃、地上から幾つもの爆音と閃光が生じ、空へ金属製の塊が煙を伴なって昇ってきていた。幾つも打ちあがってくるそれらは、やや不規則に揺れながらも、おおむねまっすぐに目標めがけ、アンソニーに向かって飛んできていた。つまりそれは、全てミサイルだ。
「迎撃ミサイル? 人間相手に大層だね……だけど」
落下する物体に対して自動で行われるのか、航空機の存在が捉えられ手動で放たれたか定かでない。ただ、最初はややゆっくりだったミサイルが最高速度に達してアンソニーへ迫ってきているのだけは確かだった。普通の人間なら絶望的な状況だが、アンソニーは少し呆れたような感じだけで、諦めは一切見られず、すぐ不敵に笑った。
アンソニーが両手を広げると、指と指の間には、いつの間にかボールプールで使われるようなカラフルなボールが幾つも挟まっていた。それを薙ぎ払うようにしてばらまくと、数フレームの間を開けた後、一つ一つが熱と黒煙を生じさせて炸裂した。次々に煙の中へと群がるミサイルだが、正確さを失ったそれらは、ただ大気をかき混ぜて空を濁らせながら昇っていくだけだ。そして次の瞬間には、胴長の魚めいた胴体を、下から伸びてきた青い光が貫いた。
「ボク相手には足りないな!」
ミサイルの群れが泳ぐ下で、アンソニーは親指を立て、人差し指
と中指を前に伸ばした手の形……指鉄砲を作っている。普通と違うのは、それが銃の真似事ではなく、銃より遥かに強力な武器であることだった。両手の指鉄砲から次々に撃ちだされた青い閃光が、再びターゲットを捉え、Uターンしようとしてきていたミサイルを全て貫き、爆散させていた。バラバラになった鉄の欠片が降り注いでいる中で、アンソニーは地上めがけてニッと笑い、Vサインを作っていた。落ち始めて30秒ほどで起こった出来事だった。
そして更に20秒経つ頃、地上へと到達したアンソニーだが、それは全く偶然だった。一旦身を隠すため、目視を切り、追跡を困難にするためだ。落下先に見えたビルに向かって落下し、天井を壊しながら飛び込んだのは。そこに子どもたちと、彼らを襲う悪漢たちがいたのは、全くの偶然だったのだ。
ここでもし、少年が見せた正義や行動が無ければ、此処には誰もいなかっただろう。無意味に見えた抵抗が、意味あるものに変わった瞬間であった。
経験の差と、雑念の有無。急な事態を呑み込んで先に行動したのはアンソニーだ。子どもを持ち上げたまま固まっている男たち二人に急接近すると、1人を数発の殴打と裏拳で殴り飛ばした。慌てて子どもを投げ捨て、銃を構えたもう一人の方は……一旦無視し、スライディングで子どもを受け止め、そのまま銃撃を躱しながら代わりに指鉄砲からの閃光をお返しする。
「……ヒーロー?」
「ンー? ちょっと違うね。ボクはそんなんじゃないよ。ボクは、“G”さ」
「G?」
「そう。ボクはヒーローじゃない……」
まるでフィクションに登場するような、それらが空想の存在として扱われるこの《世界》において。映画や漫画にしかいない筈の英雄めいた行動と独特な格好に、少年は目に光が宿らせながら、何処か熱っぽさを帯びた声で問い掛けた。だがアンソニーは肩をすくめて笑いながら否定し、少年を降ろしながらそう名乗って、指鉄砲を少年へと向けた。先程の光景を思い出し、少年は咄嗟に腕で自身を庇った。
閃光が放たれ、今度こそ貫いた。「死ね」と叫びながら立ち上がり、銃を撃とうとしていた男を。驚き、怯え、困惑。何が起こったか分からないという様子の少年に、アンソニー、もとい“G”はウィンクしながら言った。
「ボクは“G”、
――――
それから暫く、夜が明けきるよりはまだ早い頃。内部に飛び込んだ“G”によって世界を跨ぐ悪党である、界賊たちの防御網が乱され、そこへなだれ込んだ仲間たちによって、事態は無事に収束した。最初に出会った悪党二人組が武装者に収容される様を眺めつつ、助けた子どもたちには手を振っていた“G”のもとへ、仲間の一人が近付いた。
「次は奴らのアジトに行くんだろ。再確認だけど、残りも派手にやって良いんだよね?」
「つまらない確認はいらないんじゃなかったのか?」
「始末書はごめんだよ、ボクに届くのはファンレターだけで十分さ」
「あとで一枚は間違いなく届くぞ。俺からだけどな」
「クッキーが書いたのって長文だからなぁ……」
傍に来た仲間と冗談めかしたやり取りを交わし、彼と共に“G”はその場を後にする。だがふと、荒れ果てたビル群の向こうで星々が見えたのに、“G”は――アンソニーは立ち止まった。ステラボードでの旅をふいに思い出したのだ。あれから色々と変わったのは確かだ。分かりやすいところなら見た目も活動名も変えたし、戦い方も変えた。分かりにくいところでは、考え方というか、根本的な哲学のような部分も変わっただろう。
「……チョット、一緒に呆けてどうするのさ」
「ハハハ、少しぐらいは良いかと思ってな。んじゃ、そろそろ行こうぜ」
だがヒーローへの想いも、こういう時、一緒に立ち止まって星を見てくれる仲間がいるのは変わらなかった。呆れた様子でたしなめながらも、笑っている目の前の仲間と、奥で自分たちを待っている他の仲間たちを見て、アンソニーはふふっと笑った。
(ヒーロー。オマエはもういないけれど……)
歩きながらもう一度だけ振り返り、星々に向かって微笑み、納得行く様子で呟いた。
「それなりに楽しくやってるよ、僕は」
Re:star's two