傷つけたくない。

今、桃子は教室いる。
窓際にある1つの席の真横。今は休み時間だ、立っているとはいえそこまで目立つものではないのに、教室いる生徒のほとんどが桃子に視線を向けている。


「どういうつもり?」


しんと鎮まっているのは、いつも纏っている柔らかい空気が感じられないから。

その対象は、桃子だけではない。

「……」

桃子の目の前にいる人物。いつもはふわふわして、ふにゃふにゃな笑顔を見せる。なのに最近は親しくないクラスメートでさえ分かるほど変わってしまっていた。


「あのあと舞美と話したんじゃないの?」

「……」


桃子の問いに答えは返ってこない。俯いたまま反応を示さないことに、一種の恐怖まで感じてしまう。


『あのあと』とは既に数日前のことになる。
以前から変に感じていた舞美の変化を目の当たりにした。なのにひと撫でするしか出来なかったあの日、廊下にいた愛理と桃子は話をしたのだ。

そして愛理が屋上に向かったのを見て話をしたものだと思っていた。 しかし今日、休み時間始まってすぐ偶然舞美を見かけたことでその考えは間違いだったと理解した。


だから今、桃子は愛理と対峙する。

変な注目を集める下級生の教室に来たのも、『今』じゃなきゃ気がすまないから。

――あんなの、舞美じゃない。――


「愛理。このままじゃ舞美が壊れちゃうよ」

「……」

「わかるでしょ。舞美をみてれば」


怒っている様にも見えていた桃子の顔が苦しげに歪む、愛理の表情は伺いしれない。


「っ愛理、舞美を戻し――」ガタンッ


言葉に重なるように音が響く。

無意識の内に足元まで下がっていた目線を戻す。でも、足りなくて見上げる。
さっきの音は愛理が立ち上がったことで生じたものだったのだ。


「――っ」


瞬間、桃子は頭で考えていたものが飛んだ。

驚く程に愛理の眼が強いものだったから。 


しかし、無言のまま視線をずらされる。その先は桃子の後ろ。何時からいたのか、振り返れば斜め後ろに栞菜が立っていた。


「今日で終わりにします。絶対」


今日、いや、数日振りに聞く愛理の声に桃子はすぐ視線を戻す。


「嗣永先輩。協力してください」


すぐ後ろで栞菜が動いた気配がした…




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