傷つけたくない。

「舞美ちゃん、午前の授業全然出なかったの?」

屋上、舞美と早貴はベンチに腰を下ろし昼食を摂っていた。舞美の手には、早貴が作ったお弁当。しかし本人は料理が苦手らしく、ちょっと…いっぱいお母さんに手伝ってもらったらしい。


――こうやってお昼や少しの休み時間を一緒に過ごすようになってどれくらい経つのかな


「うん。ほら、良い天気じゃない?なんかもったいなくてさ」


――青い空が澄みきって見えないのはいつからだったっけ…


「うーん、確かに!あたしも午後は一緒に居ようかなぁ」


早貴は授業で固まった身体を少し伸ばすようにして舞美へ笑顔を向ける。

弾けるような笑顔に舞美は落ち着いた笑みを返す。


「駄目だよ、あたしのせいでなっきぃまでサボらせるなんて。それにあたし午後までサボったら学校に来た意味ないし5限目からは出るよ?」


「えーっ。舞美ちゃん冷たいー」

「先輩として当然です。後輩の非行は止めないとね」
「本人がやってちゃダメじゃん」


―――まじないをするようになって、もう何日目…


指折り数える気さえしない。現実の時間は自身の時間と大きくズレていた。
両手で間に合う数なんて舞美の中では既に過ぎ去っているのに、現実はまだ十分そこに収まっているのだ。


「…舞美ちゃん。」

「えっ」


さっきまでの高い声から一転、早貴の低い声が自身の名前を紡ぐ。それに振り返ると同時に早貴の両腕が舞美をフェンスと早貴の間に閉じ込めた。
いつの間に立ち上がったのかいつもは下にある早貴の顔を見上げる形になる。


「ぇっ…と、」

「何考えてたの?」

「何…って」

「…ぅうん、何でもない」


なんでもない、と言うのに早貴は距離を変えない。

「…っ」

逆だ。近づいている。
 ゆっくりと
   確実に…


すぐに舞美と早貴の距離がゼロになりすぐに離れた。
舞美を閉じ込めていた腕も解かれる。


「急にしたくなっちゃった。えへへ」

困ったように笑う早貴。 舞美は何も言えずに早貴を見る。


…見ていたはず。
なのに、早貴を見ることが出来ない。


頭は混乱し、理解が追いつけない。早貴とキスするのは
初めてではないのに――


それでもやはり、身体は脳より先に反応する。


締め直した襟元を、舞美の両手はしっかりと押さえていた――




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