傷つけたくない。続編

 ――ギィー…

音を起てて開く扉。

その先には、大きく広がる青空。


「やっぱり来た」


扉を開けたのは舞美、そのあとに続く愛理。

二人に反応したのは早貴だった。
影を感じるほど明るい笑顔で二人を迎える。


「愛理ちゃんも来たんだね。クスクス、やっぱり舞美ちゃん一人じゃ不安だった?」

「…違います」

「ふーん。そう」


愛理の答えなど期待してなかったと言わんばかりの素振りで早貴は食べ掛けのお弁当を膝から降ろし立ち上がる。

歩みを進めて舞美に近寄る。

距離は手を伸ばせば触れられる程。


「舞美ちゃん、待ってたんだよ」

「……」

「もうさ待ってる間、ずっと舞美ちゃんのこと想ってたの。舞美ちゃんはどう?」

「あたしは…」

 


「その子に触れようとする度、思い出してくれた?」

「――ッ!」


その言葉の瞬間、早貴の笑顔に確実な影が落ちる。

しかしそれはすぐに消された。


「ふふっ、思い出してくれたんだね!私達恋人同士みたいっ」


嬉々として笑顔を咲かせる早貴。対して舞美は苦しそうに息を詰まらせたままだった。


「あのあとすぐ舞美ちゃんが会いに来ようとしたでしょ?」


早貴が言うのは、愛理が舞美と想いを伝えあえたその日のこと。

今まで舞美にしか向けられていなかった早貴の言葉が愛理をも捕らえ始める。

愛理はそれに考えるまでもなく気づいていた。ドクン と、胸が嫌な動きをする。


「正直どうしようかと思ったんだよね。だって

そんなすぐ消化されちゃったら、さみしいじゃない?」

 

早貴が不気味に笑う。明るいほどの笑顔からもう影が消えなかった。
 

愛理に嫌な汗が滲んでいく。胸がドクドクとして落ち着かない。


やはり早貴の狙いは舞美の中に残ることだったのだ。

この数ヵ月、思惑通り愛理といても早貴に悩まされていた。それは、舞美の中に早貴がいて、舞美の心は早貴に所有されていたということだった。


「…やっぱり、愛理ちゃんが止めてくれたのかな?」


いつの間にか、ふわふわ歩いていた早貴が愛理の目の前に立っていた。意識せず俯いていたせいで前に立たれるまで気づかなかった。

愛理は体の異変がどうにも出来ないまま、ゆっくりと顔を上げる。

気を抜けば視界がボヤけそうだった。小さく、呼吸が乱れる。


「感謝しなきゃダメだね、私」

「…」


目と、耳が別のモノを吸収する。


「願いを叶えてくれてありがと」

  『思惑に嵌まったおバカさん』

 

「――っ」


愛理を軽い目眩が襲う。


分かっていた。理解していた。それでも突き付けられた現実が愛理を追い詰める――

 

舞美を苦しめたのは

早貴ではない

 

きっかけを生んだ


   ジブン―――

 
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