傷つけたくない。続編

響いた声に、願望と不安が入り交じる。
会いたい。話がしたい。しかしまた拒絶されることを考えたらどうすればいいか分からない。

そんな愛理を他所に呼び止めた当人の見慣れた姿が現した。身につけた首輪から続くリードを引くのは、思考を占領する愛しい人。


「ワンっ」

「愛理…?」

「……」


予期してなかった事態に愛理は何も言えずただ俯いてしまう。そんな愛理に舞美は自宅の庭へと続く戸を開いた。


「上がって」

「…ぇ、でも」

「いいから」


昨日とは逆に有無を言わさない態度で愛犬を引き、進んでいく。
戸をそのままに先を行く背中に、ふいに舞美の温もりに恋しさが溢れる。以前は手を引いて一緒に歩いてくれた、そんな記憶に胸が苦しかった。

引かれなかった自身の腕に不安が募り、昨日は入れた空間に足が踏み出せない。舞美が見てない今なら、このまま逃げられるとまで考えが巡る。


――きっと追いかけて来てくれない。昨日だって、来てくれなかった……

 

「愛理」


急に声が近くなり顔を上げると、先にいたハズの舞美が目の前に来ていた。


「入って」

「……」


無視したいわけじゃない。なのに、喉に詰まって声が出せなかった。いつもは前向きな自分が影も見せないほど、今の愛理には嫌な展開ばかりが浮かんでしまう。
なんとか首を横に振り意思を示す。しかしそれに反して足が敷地内へ進んだ。驚きと同時に手から伝わったのは愛理が求めていた温もり。


「先にあたしの部屋行ってて。すぐ行くから」


声が出せないまま頷くと、舞美は手を離す。


ゆっくりと温もりが逃げていく。

悲しくも、それを止めることは叶わないかった。


 
いつもと、…昨日と変わらない部屋。愛理は座る気にもなれず上着もそのままに考えを巡らせる。

昨日無理を強いて迫ったことは自分にも非があったと思う。しかしそれと同時にこぼれるのは『仕方なかった』という本音。


満たされない欲。
膨らむ不安。
溜まり混む我慢。


自分で感じる程、愛理は限界に追い込まれていたのだ。

今だって主の居ない部屋は自身を拒絶しているように感じてしまう。昨日のことを鮮明に映すこの空間が招き入れてくれるとは思えなかった。


こんな状態で舞美と話しても、きっと何にもならない、悪ければ終わりを迎えることになる。

行き着いたのはそんな考え。愛理は来たばかりの部屋に背を向けてドアを引いた――

 
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