緑⊿の短編系
ーーねぇ、ねるが欲しいって言ったら……どうする?ーーー
さっきまで、スマホをいじる理佐と本を開くねる、だったのに。
今は、寝転がるねると、それに迫る理佐となっていた。
そういう形になってから、さっきの言葉が降ってきて。
欲しいってそういう意味…なのだろうけど、そんなの処理が追いつかない。
想像していない事態っていうのは、本当に予想もしていなかったことで。
だから。
そんな事言われても、ねるには答える余裕なんてなくて…。
でも、
………、なんて甘いこと言ってられんよね。
「………、りさ、あの、」
「……意味、分かるよね?」
ーーああ。
もう。
そんな目で見んで。
いつも身長差で優しく見下ろしてくるその目が、今は下から熱く見上げてくる。
真っ直ぐに刺さる瞳。
意思の込められた、強い瞳。
「…わかる、」
「……」
思った以上に体は緊張していたみたいで、声が小さく掠れてしまう。
なんだかそれがひどく甘くなった気がして恥ずかしくなる。同時に、理佐の眉がぴくりと動いて、反応してくれたんじゃないかと期待と不安が浮かんでは混ざり出した。
けど、互いに共通した言葉が通ってるのに、理佐は一向にそれを確実な形にしてくれない。
逃げる準備をしているんかな。
腕をついて、ねるを逃げられないようにしてるのに。
それでも一線は超えないように、少しだけ距離をとって囲って。
強気に見せているくせに、どこか弱気な理佐が見え隠れして。
強引に見えて、隠しきれない優しさとか。
ああ、理佐だなぁって思って
張り詰めていたものが、安心して緩む。
それは顔に出てしまったみたい。
「なにニヤニヤしてんの」
「えへへ、」
「……、」
どこかムッとして、いつも人に合わせてゆるゆると逃げるねるを逃がさないとでも言うように、ぐっ、と距離を詰める。
「!」
「ねる」
「……っ、」
「……………、」
しばらく、だったのか、
すこし、だったのか。
少し低めの独特な声でねるの名前を呼んでから、理佐は何も言葉を発さなくて。
でも、視線はずっと重なったまま。
そして、
理佐は。
小さくため息をついた。
「………、そんなキラキラした目で見ないで」
「え?」
「恥ずかしい。無理」
「りっちゃん?」
呆気ないほどに、するっと離れてく腕。
寝っ転がるねるが間抜けなほど、理佐はねるの足元に座り込んだ。
なんだか自分がいたたまれなくて起き上がる。
少し乱れた髪を手ぐしで整えていると、反対に理佐は頭をくしゃっと抱え込んだ。
「……その顔は、どうとったらいいの」
ぼそぼそと、小声で訴えてくる。
乱れた髪の間から見える耳や肌は赤く染っていた。
子犬、と称されるその子は、正にご褒美を貰えると思ってるけど貰えないかもしれない数パーセントに尻尾を迷わせる犬みたい。
はい。ってあげてしまいたいけれど、それは悪戯心ってやつで。
「……ふふ、まだわからんよ」
なんて、含みを持たせたかったけれど、
浮き上がる頬が抑えられない。
手で頬を抑えてみるけど、変な顔になるだけだった。
膝を抱えて、それに頭をつけながら顔を隠すように腕をまきつけてこっちを見やるりっちゃん。
見上げてくるそれは同じなのに、さっきの強気な理佐はどこかに行ってしまったみたい。
きっと、がんばってくれたんよね。
うれしかよ、りっちゃん。
やっぱりこぼれる笑みは止められなくて。
恨めしい目が刺さる。
だから。
めいいっぱい両手を広げて、ぜんぶを包み込めるように
しょげて小さくなった理佐を
全身でぎゅーってしてあげました。
「……おも、」
「なに!?」
「何でもないです。」
「よろしい」
「…………」
「…………待っとるけんね、」
「…………うん、」