緑⊿の短編系




まただ。


「ねぇ」

「ん?」

「あいつ、また理佐と同じの持ってる。絶対確信犯だよ」

「……あぁ、」


何となく気になったのはもっと前だった。それでも、流行りとか、その時期の欲しいものが重なることなんてあるだろうから、ただの小石だと思ってたのに。


「ヤバいって。なんか言い寄られたりしてないの?」

「大丈夫だよ、何もされてないし、してきてない」

「でも、」


それは小物から始まった。
旅行で買った記念のラバーキーホルダーが同じで、それをこの人も行ったのかと気に留めたのがきっかけ。

ファッションや好みが違うのなんて明らかだったのに、スマホケースはいつの間にかお揃い、パソコンの買い替えられて同じのになった、使う眼鏡が同じブランドになった。

そんなの、気づく方がおかしいと言われるかもしれないけれど、気にし始めたら全て理佐と同じ。


「…小林とか、大丈夫なの」

「それは大丈夫」

「え?」


小林は、理佐の恋人だ。
もうすぐ半年くらいになるはず。
そういうヤバいやつが静かに手を出すのは、本命じゃなくて、本命の相手…。

だから、ただの心配と不安だった。
それが、即座に否定されて驚く。あまりに強い返事だったから。
ついさっきまで、適当に、気にもしていないとでも言うようだったのに。


「愛佳が心配することないよ。由依には何も起きてないし、私も何もされてない」

「………そ、か」


理佐は何かを誤魔化すように、いつもみたいに柔らかく笑う。
それでも否定の言葉は固くて、冗談でもそれ以上言うのを許さないみたいだった。


行こ。
そう言って、理佐は講義室を出た。

『あいつ』は私の視界ギリギリで、理佐の近くに居る。



「あ、小林」

「……愛佳。理佐一緒じゃないの?」

「なんか用事あるからって。むしろ小林聞いてないの?」

「私はこれからバイトだから。夜会う約束はしてるけど」

「…そう、相変わらず仲良いね」

「なに、気持ち悪い」


小林は何も気にしてないようで、それこそ理佐と付き合う前と何も変わらない。


「最近、、その、変わったことない、?」

「は?」

「いや。ちょっと気になることがあって。小林とか、理佐に何も起きてなきゃいいんだけど」

「気になるって?」

「………いや、ほんと、大したことじゃないんだけど」

「……、別になにもないけど。理佐も、変わった感じないよ。愛佳の方が理佐の変化には気づくんじゃないの?」

「そんなことないよ、」


そんなことない。
あの『大丈夫』だと断言されたことを、本来なら安心要素にすべきなのに
安心できないどころか、不安が増してしまう。

でも、小林が顔を曇らせることも無く、本当に何を言ってるんだという顔が、少しだけ安堵させてくれた。








そうして、数日が経ち。
本人たちが大丈夫だというなら、自分が口を出すべきじゃないし、何も起きていないならいいかと落ち着いてきた頃
目の前に心臓を締め付ける光景が現れた。



「──……は、?おま、、」

「、あ、愛佳。この方、今度同じサークルに入る──」





「長濱ねるです。よろしくお願いします。志田さん」





頭が混乱する。

面と向かうのは初めてだけど、間違いない。
こいつ──


「今サークルの活動案内してるところなんだよ、また改めて──」

「小林!」

「うわ、なに」

「───わたしが、案内代わる」

「え?なんで」

「いいから。小林もなんかあるでしょ」


なんかってなんだよ。自分でもそう思うけど、何も思い浮かばない。
ただただ、小林からこいつを離さなければと思ってしまう。


「どうしたの?話途中のことだってあるし、そんな急に──」


「何してるの?」


「え、!?」


ドカドカした頭の中、事態が変わり続ける。
目の前には、理佐。


小林「あぁ、理佐。会えてよかった。長濱ねるさん、サークル参加してくれるって」

ねる「………よろしくお願いします」

理佐「よろしくね。で?愛佳は何怖い顔してんの」

「──……、、いや、」


なにも、やましいことは無いのに。
ストーカーの様に、理佐とのお揃いを増やしていく長濱ねるは、今度は同じサークルに入るという。

その現実を、理佐は平然と受け入れていた。

この違和感が、気持ち悪くて、怖い。


私が、おかしいんだろうか。



理佐「……由依、そのまま長濱さんの案内お願いしていい?私、愛佳と話してるから」

「は!?そんなことより──!」

理佐「ごめんね、長濱さん。また改めて」

ねる「はい。よろしくお願いします」

小林「愛佳大丈夫そう?何かあったら連絡してね」

「──………、、な、…」


気持ち悪い。

きもちわるい。


なんだお前ら。そいつがおかしいと分からないのか。私が、気にしすぎなの、、??



「愛佳、大丈夫?顔色悪いよ」

「………、、」


座らされたのは、大学の屋外ラウンジ。
目の前のテーブルには、私の好きなココアが置かれた。


「……、」

「体調悪い?」

「……悪い」

「………」

「くそ気持ち悪いんだよ。あいつが小林の隣に立って、なに手放してんだよ。あいつが異常なの分かってるでしょ。理佐の真似、理佐のお揃い!今度はサークルまで!」

「……」


ぼこぼことした感情が口から吹き出していく。私がおかしいみたいに扱うけど、どう考えてもずっと理佐の近くにいて、あいつの違和感は誰よりも気づいている。

なんで、不安や、恐怖を覚えないんだ。
なんで、小林の隣に立つことを許すんだ。


「……相変わらず、由依が好きなんだね」

「──は!??」

「知ってるよ、愛佳は由依が好きなんだよね。だから、私が由依を優先しないことが許せないんでしょ」

「そんな話してない」


なにを、馬鹿な。そんな呑気な話──



「私が持っているものを、ほかの誰が持っていたっておかしくないよ。旅行だって、有名な場所だった」

「……っけど、」

「ブランドだって、誰だって立ち寄るお店のものだよ。人が付けてて、いい感じだからって同じブランドの買うことは普通でしょ」

「………、、そんな、そんなんじゃない、あいつは、」

「同じ大学で、講義が被るのなんて珍しいことじゃない」

「………っ、」


勘違い、過剰反応、
酷く言うなら被害妄想のようなものだったんだろうか。


あまりに、私を見る理佐の目が、まっすぐで。少しだけ悲しそうで。

だから、焦りや不安より、申し訳なさが立って
私の感情が間違いだと認識する。


「…ごめん、1人で暴走してたみたい」

「……ううん、私も。由依のことは、ちゃんと大事にするから」

「いや…ほんと、私の事は気にしないで。2人のことはふたりが良いならそれでいいから」

「……うん」


理佐の声は優しくて。
小林に対しての感情が、恋愛感情なのかは別として、理佐の言葉に何となく、肩の力が抜けた。

やっぱり、勘違いだったんだ。
私が心配することなんてなくて、きっと、理佐と趣味が合う、ただの女性なんだろう。



















パンッ!



「……ごめんなさい、」

「勝手に何してんの。サークルに入るなんて許可してないよ」

「だって、理佐、私の話聞いてくれないから、!」

──バシッ!

「許可してないって言ってるんだけど」

「、ッ、、、ごめんなさい、」


長濱ねるの頬が、理佐の手によって赤く腫れる。
理佐の声は冷たく、圧が含まれ
長濱ねるの声は、縋るようにベタついていた。


「……ん!」

「──、、」


理佐が、長濱ねるの顎を少し乱暴に掴んで、キスをする。
触れるだけだったのに、理佐から舌が挿入されると、長濱ねるは最初こそ控えめにして、徐々に歓喜とともに濃厚さを増した。


「り、ちゃ、、!」

「─……、、ふ、はぁ、、」


濃く、深い。
長濱ねるが求めるように理佐の首に腕を回すと、それを合図にするようにキスは終わりを迎えた。


「ねる、」

「……、」

「これ以上由依には近づかないで」

「………っ、」

「私の事、好きでしょ?」



圧。

躾。


飴と鞭。


言葉と合わせて降るのは、優しい声と、微笑み。
そして──


「………好き、理佐…っ、」



理佐の、指先──。



歓喜に鳴く長濱ねるは、遊ぶように愛を囁く理佐に溺れていく。




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