緑⊿の短編系




「ここに、救いなんてないよ」



触れる程度の優しいキス。
ねるの反応を最後の最後まで伺って、逃げれるように触れた。
それがもどかしくて苦しくて。
抱きしめて欲しくて力を込めれば、堰を切ったようにその力を強くしてくれた。それは、キスだったり、繋いだ手だったり、ねるの中に押し入る時の迷いのなさに現われて。それが心地よくて、快感へと押し上げた。


……あの夜から、どれだけ経ったんだろう。


「、ねるどうしたの?」

「……ううん。なんもなか」


リビングでくつろぐてちに寄りかかってみる。
決して大きくない体に寄りかかるのは、別にその頼りなさを否定したかった訳じゃない。
背中にじんわり伝わる熱が心地いい。
少ない会話の空間が辛くない、その居心地のよさは誰にも代われない。


てちのことは好き。


「甘えてるの?」

「うーん、そうなんかなぁ」

「いや、知らないけど」


てちのことが好き。


そうやって私は、18の時
理佐に別れを突きつけた。


「……ねる、お風呂はいろ」

「、うん」


てちは読んでいた雑誌を閉じて立ち上がる。ねるの手を引いて、お風呂を沸かして。その間、キスをしながら互いに服を脱がせ合う。

てちの、白い肌。小柄なのに、ねるはてちの強さに適うことがない。
強い目に、胸が締め付けられて
重なる肌に、体の奥が疼いてくる。


『……こうやって、平手にも濡らしてるの?』


「──っ、」

「凄い、垂れそうだよ」

「、」

「興奮してたんだ。こんなんじゃお風呂どころじゃないね、1回イっとこ」

「あっ!」


てちの指が、ねるの気持ちいいところを擦りあげる。ねるの全部を知ってる、どこを触れば達してしまうかも分かってる。

腰が痺れて、足先に力が入って
身体が震え上がるのは、やらしいほどにあっという間だった。














「生理前なの?」

「てち最低」

「だってあんなになるの久しぶりじゃん」

「そういう日やってあるったい!」


そういう日やってある。
きっと、今日はそういう日。


「ごめんごめん」

「……、」

「ねるからも誘ってよ」

「っ、てち、」

「ほら、どうしたい?」


湯船に浸かって、後ろから抱きしめられる。
濡れたそこは先に洗い流したのに、てちが触れる頃には、またぬるぬるになっていて
お湯とは違うその愛液に、てちは後ろで呼吸を浅くする。


「ここ、やだ。のぼせちゃう…っ、」

「じゃあ立って」

「!」


暑い。
熱い。

びくつく身体を、てちに立たせられる。
でも力が入らなくて、壁に着いていた手はてちの攻めにどんどん落ちていって
ねるはいつの間にか、お風呂の縁を必死に捕まっていた。


「ねる、頑張って。力入れて」

「むり、ぁ、っ!」

「……っ、」

「あ!」


───────



あの夜。
理佐と会ったのは本当に偶然だった。

てちが泊まりの仕事で居なくて、ねるは何となくお酒を飲みたくて外に出た。
ほど良く酔って『そろそろ帰りな』って店子さんに言われて。ふわふわした感じに心地よく浮かれて、
そうして、隣に座った人が、理佐だった。

高校時代の話に盛り上がって、理佐を振ったことに話が転がる。
今もてっちゃんと暮らしていると話したことは覚えているけれど
ホテルで理佐を求めるまでの経緯を、ねるは覚えていない。



「久しぶり」

「───ぇ?」

平手「びっくりするよね、今日たまたま会ってさ。ご飯食べよって話になったんだ」

理佐「最近こっちに戻ってきたんだよ。”久しぶり”だね、ねる」

ねる「──久しぶり、理佐」


頭が、真っ白になる。

”あの夜”から、どれだけ経っただろう。
決して遠い昔じゃない。

久しぶり、なんて交わす程では無い。


分かってる。
知ってる。

理佐は、。


理佐「食事とお酒買ってきたんだ。みんなで飲もう」


そう掲げたのは、色んな種類のお酒で。
てちも、理佐も、ねるも、何かしらは飲める。きっと、逃げ道のない選択肢。


平手「理佐はさぁ、高校出て急にどっか行っちゃったからみんなびっくりしてたんだよ。理佐っぽかったけどさぁ」

理佐「なに、平手。寂しかった?」

平手「んー、別にそんなことはないけど、びっくりした」

理佐「ふふ。なんか、飛び出したくなってさ、誰にも言わないで決めたんだよ。若かったんだろうね」

ねる「……」

理佐「戻ってきたのも、偶然」


偶然。

ぐうぜん。

てちと会ったことも、

ねるとあの夜を過ごしたのも


今こうして、ねると再会していることも?



理佐「………平手は相変わらずお酒に弱いんだね」

ねる「……」


大した量を飲んだ訳でもないのに、てちは寝落ちしてしまって。ねるたちの会話にも反応せず、子供みたいに寝息を立てていた。


理佐「………ねる」

ねる「……なに?」

理佐「トイレ貸して」

ねる「……よかよ、」


2人きりの空間に身構えてしまったけど、理佐はそう言って立ち上がる。


「どこ?」

「、こっち」


ねるも立ち上がって、ついでに少し片付けでもしようかなと思って、てちに毛布をかけてから
トイレまで理佐を案内する。

けど、そのままー


「!」

「へぇ、ここ寝室なんだ。広いね」

「っ、なに」


ねるの手を引いて、トイレよりも奥にあるドアを開ける。
そのまま、強引に中へと入った。


「あれから、平手とシた?」

「っ、そんなの、理佐に言わん」

「……私の事思い出した?」

「!」

「あ、思い出したんだ。嬉しい」

「……っ、」


その顔は、本当に嬉しそうで。
安心したような顔にねるは胸が苦しくなる。


「私も、ねるのこと思い出してたよ」

「っ理佐、」

「高校の時は、無理だったけど」


理佐の手が、ねるの頬を撫でる。
喉がひきつって、苦しくなる。

でも、その手に不快感はなくて
あの夜を思い出して、本能が何かを期待してしまう。


「今なら、ねるとの関係を切らないで済むと思う」

「…それ、って」


「あの日、気持ちよかったでしょ?」

「──」


さっきまでの子供みたいな顔から一転する。

ねるの反応に、理佐は勝ち誇ったように口角を上げて
ねるの身体を押し倒す。


「っ、理佐…!」

「平手と寝てるベッドでするなんて、興奮するよね」

「待って、だめ…っ、」


言葉は否定するのに、理佐を押し返す力は弱い。お酒のせいになんて出来ないほど、ねるの頭は冴えているし
なんなら、背徳感に濡れる自分も分かる。

理佐は、ねるの手を掴むと
誘うように舌を這わせる。


「り、さ…っ」

「私のも舐めて」

「んっ!」


ベッドに横たわるねるに馬乗りになった理佐は、キスとか、肌に触れるとか、撫でるとか、そういうことは一切無しにねるの口に指を押し入れる。

口の中を弄ばれて、息が切れる。
声が漏れる。

てちに聞こえたら、どうしよう。


「エロいよ、ねる。気持ちいい」

「っ、えぅ、ん……」

「平手としたことないこと、しよ?」

「──っ」



最低。

てちのこと、好きなのに。


でも、確かに

強気に、意地悪に、
最低に。
攻めてくる理佐に、身体は敏感に反応する。




いつの間にか、服は乱されて、少しの刺激に震える身体が出来上がる。

ねるの足の間に、理佐は体を入れ込んで
ねるのナカを押し広げる。

ねるの身体は悦んで。
理佐が興奮するのが分かる。




関係を持ってしまった、その先の答えなんて知らない。

この先の泥沼さえ、想像したくない。
叶うなら、この快感も愛おしさも夢であって欲しい。

でも、同時に。
理佐へ手を伸ばし、締め付けた、その瞬間の心地良さを手離したくないと思ってしまった。



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