緑⊿の短編系


やってしまった。

そう思った後に思い浮かんだのは、これからどうしようっていう不安感だった。



「………、」


とりあえず、そろっとベッドから出てみる。
服を拾って脱衣所に入った。

裸。
散乱した服。

肌に残された痕。


ヤったことは明確。
そもそも記憶はハッキリしてる。


違うんだよ。そんな下心でここ(ホテル)に来たわけじゃない。
ほんとに、ほんっとに。ただ酔いつぶれを置いて行けなくて、ただ一晩寝かせて朝にはコーヒー飲んで帰そうと思っただけで。
確かに可愛かったし、好みだったけど
そんな手を出そうなんて思ってなかった。

なのに、
抱きついてくるから。
うつろな意識で細い声を出すから。
無防備に転がって肌を見せて。
熱い肌で、触れてきたから。



「………最低」



分かってる。
相手が酔ってるのに手を出した時点で私が悪い。

だって。
可愛かったんだ。
垂れた目元も、白い肌も
笑った時の照れたような仕草も。
見上げてくる瞳に胸が締め付けられて


可愛い!!!ってなった。
めっちゃ好み!!!ってなった。
いくつの矢が心臓に刺さったか分からないくらい。

初めて会った人にそんななるなんてチョロいなって思ったりしたけど、でも。
そんな好みの人に会えるなんてもう二度とないかもしれないとも思った。

…………下心あったかもしれない、な。

でも下心って言っても、連絡先交換したいとか、少しでも接点欲しいとかであって、決してヤリたかったわけでは───



「おはよう」

「!!!あ、え!!??」

「えへへ、どっか行っちゃったかと思って慌てちゃった」


振り向いた先で、彼女は服を着ていなくて。シーツを肩から巻き付けて、でも歩いたせいで太ももからシーツは分かれていて、足が露出されている。


「ふ、服。いま持ってくるよ」

「ううん、よか。自分で取ってくるけん」

「そう、?」

「……」


……早く服を着て欲しい。
なのに、彼女は。身にまとったシーツを整えるだけでまた私を見つめてくる。

巻きついたシーツ。
少し乱れた長い髪を手櫛で整えると、また私を見上げる。

怒ってるかな、ってドキドキする。
それそのものに怒ってるかもしれないし
気持ちよくなかったかもしれない。
下手だと言われたことはないし、彼女に触れた時にすごく濡れていたことは覚えている………


「ねえ」

「!!」

「緊張しとる?」

「……まぁ、少し」

めちゃくちゃ緊張してます。


「こういうことするの、いつもやなかと?」

「いつもじゃないよ。むしろ、、」

「むしろ?」

「……なんでもない」


初めてです、なんて。なんとなく言えない。


「ねぇ、服着なよ。風邪ひくよ」

「そんな簡単にひかんよ」

「わかんないじゃん」


入口に立っているから私は行く先がない。
出ていけない。
……逃げ場がない。

何から逃げるのって?
ただシーツを纏っただけのめちゃくちゃ好みな相手の、誘惑から。




「むらむらする?」

「は!?」

「昨日はしてくれたばい」

「……誘ってんの?」

「朝のエッチって、意外と燃えるんよ?」


知ってる。したことないけど。


「だから服着ないの?」

「ねるのこと、好みやろ?」

「……ねるだって、私の事好きでしょ?」

「理佐のエッチは好き」

「─セフレってこと?」

「それは理佐次第ったい」


そう言って、彼女は私の手を取る。
上がった先は、彼女の頬。

擦り寄って、手のひらにキスをして。
そのまま、指の付け根に舌を当てた。


「──」

あ、かっこわるい。
生唾のんじゃった。


「とりあえず、お風呂入ろ?」


そう言って、彼女は


ねるは、シーツを落として
私の手を引いて


浴室へと足を進めた。




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