緑⊿の短編系



「私が理佐さんのこと好きって知ってますよね?」

「うん。私も天ちゃんのこと好きだよ」

「………」


いつも、、いっつも!
全く話が進まない。
私の熱が伝わらない。

私は、理佐さんが、好きなのに。

理佐さんは、夏鈴ちゃん可愛いー、とか最近は綺良ちゃんかわいいーとか
私以外の子に惚れすぎている!

ずっと前から好きだって言ってるのに、全然振り向いてくれない。
ヘラヘラ笑って、ちゃんと好きだよーとかムカついて仕方ない。



「──んですけど、どうしたらいいですか!」

「………それ、ねるに聞くと?」

「だってねるさん付き合ってるじゃないですか。どうやって理佐さん振り向かせたんですか?」

「………なんか、根本的に間違ってると思うけど」


菅井さんからねるさんの連絡先を聞き出し、無理やり予定に組み込ませて作ったランチ時間。

ねるさんは、初めて会った頃より、すごく綺麗になっていて。女の子から、大人の女性になった。
私もそうなれば、理佐さんに見てもらえるんだろうか。

でも、ねるさんとはもっと前から付き合ってたって聞いたし、きっと見かけとかそういう話じゃないんだと思う。


「りっちゃんは、天ちゃんのこと好きだよ」

「そういうんじゃなくて、」

「分かっとる。でも、理佐も分かっとると思う」

「………それこそ、タチ悪いじゃないですか。なんで、」


なんで、ちゃんと向き合ってくれないの。
なんで、ちゃんと振ってくれないの。


「理佐は臆病者やけん、」

「……」

「相手が傷つくんも自分が傷つくんも嫌なんよ」


でも、理佐のそれは誰にでも向くものじゃなくて
大事な人であればあるほど臆病者になって逃げてしまうんだと、ねるさんは教えてくれた。


「……ねるさんは、どうやって理佐さんと付き合ったんですか?」

「ふふ。内緒ったい」

「む。」

「そうやねぇ。ライバル応援したくなかけど、1個だけ」

「え?」

「ねるとデートしよっか」

「………はい?」













「ねるー、どこまで行くの?」

「理佐は待っとって。天ちゃんと見とるけん」

「……今日そればっかりじゃん、」

「ほら、行こ。天ちゃん」

「、はい」


ねるさんとのランチから数日後。私たちは海に来ていた。昼間に暑さの残るけれど潮風は冷たくて。この時期はまばらに人がいる程度だった。

午前中から待ち合わせて、理佐さんの運転する車にねるさんと私が乗る。ねるさんの指示するところに着けば、ねるさんは理佐さんをそっちのけで私の手を引いて遊んでいて
別に話しかけないとかではないけど、さっきみたいに距離をとって。その繰り返し。

理佐さんは耳の垂れた犬よろしく、唇を小さく尖らせていた。

……うん。かわいい。


「りっちゃんとおれんでごめんね」

「、いえ。ねるさんとこんな遊べることもないので…」

「ふふ、いい子やね」

「ちょ、恥ずかしい!」


ねるさんがふにゃ、と笑って私の頭をよしよしする。
高校生になって頭を撫でられることなんてないから、すごく恥ずかしい。

けど、愛を注がれるみたいなねるさんの笑顔に
私はなんだか心が満たされるみたいだった。


海辺で遊ぶ私たちを、理佐さんは駐車場の柵に寄りかかりながら眺めていた。







──────

────


ねる「理佐、天ちゃんのこと送ってきて」

理佐「え?ねるは?」

ねる「ねるはこれから仕事入っとるけん、ここでバイバイ」

理佐「は?嘘でしょ。今から?」

ねる「ほんと。そこで収録あるけん。理佐はちゃんと天ちゃんのこと家まで送るんよ」


ねるさんのスケジュールは完璧だった。
ねるさんが指さした先には歩いて行ける距離に収録スタジオがあって
そのまま仕事に行くらしい。

そうして私を、理佐さんとの時間にたどり着かせる。


ねる「じやあね、天ちゃん。また遊ぼうね」

天「ぁ、はい。ありがとうございました」

理佐「………。じゃあ、行こっか。助手席乗っていいからね」

天「はい、」


ねるさんと別れて、理佐さんの車に乗る。
座った助手席は、なんだか特別感があった。2人きりの狭い空間にドキドキする。
シートベルトをすれば、理佐さんはエンジンがかけて、ゆっくりと走り出す。
ここから私の家まで、だいたい30分くらい。


「どうだった?今日」

「楽しかったです。ねるさん、すごく優しくて」

「なら良かった」

「運転ばかりさせてしまってすみません」

「気にしないでいいよ。運転のルート考えてきたのはねるだしね。今日絶対、仕事までの時間調整に使われたよ。時間完璧だったじゃん」

「あはは、完璧でした」


景色が流れる。
車の波に乗って、緩やかなアクセルに車は速度を上げ、車の走る音が、心地よい雑音になる。




「理佐さん。私の気持ち、伝わってますか?」



緊張したけれど、言葉は意外とスムーズで。
私はなるべく、視線をまっすぐ前に据えたまま、家まであと何分だろうと考えてみたりした。

だって、早すぎても遅すぎても、きっと苦しい。
そんなこと、分かってる。


「………うん、」

「好きなんです」

「…私も天ちゃんのこと好きだよ。でも、天ちゃんの想う形とは、違う」

「………、」

「逃げてたの、バレてたよね。ごめん」


理佐さんの声、好きだな。
優しい。
でも、決して弱くない。


「いいんです。理佐さんへたれって知ってるから」

「え?」

「ねるさんに、言われました。理佐さんは、臆病者で、相手のことも自分のことも傷つけたくない…」


だから、優しい。

だから、好きって気持ちを伝えてくれる。


強い瞳を持っていてかっこよくて、
でも、包むみたいに優しい。
時々イタズラに笑って。

決して人を傷つけないその優しさを、私は好きになった。

好きだと想いをぶつける私をあしらっていたのも、優しさだったと
振られたこの心を知って気づく。


「………っ、、」

「ごめん、天ちゃん」

「いいんです、!、理佐さん、ありがとう、ございます」


これからも、好きでいていいですか

そんなワガママな願いを、理佐さんは頭を撫でながら受け入れてくれた。




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