緑⊿の短編系
黒服ってのは割と、私の性分に合っていると思う。
けどまぁ、クレームもトラブルもないに越したことはない。
「みぃちゃん、今日も可愛い。ポニーテール似合ってる」
「えへへ。ありがとー!土生ちゃん!でもそれ何人目?」
「10人目?」
「そうやと思ったー」
1番テーブル。
土生瑞穂。
ウチでは売上1位の人気者。
しかし、戦略性のない、そのバカ正直な性格がたまに世界を凍らせる。
……自覚ないんだよなぁ。
「でもみぃちゃんが可愛いって思ったの本当。似合ってるよ」
「──もう!土生ちゃん好き!」
「ふふ、両思いだね」
バッチーんってウインクして。
それに反応して小池美波は土生の腕に抱きつく。
そして流れるように小池を抱きしめる土生。
………天然か、バカなのか。
「理佐さん!そうやって夏鈴ばっかり構うのやめてください!」
うお。
1番テーブルを呆れながら見ていたら、3番テーブルから声が上がって視線を移す。
でも、その先の世界に私はため息をついた。
3番テーブル。
渡邉理佐。
売上2位。私の推しメン。
土生とは違う、誰にでも愛を振りまく訳では無いけど、気に入った相手への愛嬌が半端ない。
いつも思うけど、初めて会ったころはもっとクールだったのになぁ。
顔好みだからなんでもいいけど。
「だって夏鈴ちゃん可愛い。ね、何飲む?」
「あ、えっと…」
「照れてるー!可愛い!」
「理佐さん!指名は私ですよ!」
「えー?天ちゃんも可愛いよ。はい、ここおいで」
「”も”ってなんですか。ついで感すごくやだ!」
理佐を指名したのは山﨑天。
けど、一緒に連れてきた藤吉夏鈴を理佐は気に入ってしまったらしい。
こうなったら手をつけられない。
理佐は、お気に入りは手放さないのだ。
「理佐、天ちゃんに可哀想なことしないんだよ」
あまりに夏鈴に熱心な様子に声をかけようか迷っていたら、スマートに声をかける小林。
そして、さり気なくそのテーブルへと混ざった。
そういえばまだ指名入ってなかったな。
理佐から奪うつもりか?
「、してないよ。これが私の愛情表現」
「天ちゃん怒ってるし、夏鈴ちゃん困ってるでしょ。ねぇ?」
「そうです!」
「……」
「初めまして。夏鈴ちゃん?」
「……初めまして、」
お。
照れてばかりで、受けかと思ったのに
これはこれは。
小林と理佐で客の取り合いかな。
「志田さん」
「ん?」
声に振り返るけど、そこには誰もいなくて一瞬ハテナが浮かぶ。そうして、この展開に見に覚えがある私は下へと視線を向けた。
「あ、森田」
「いい加減、すぐ気づいてくださいよ」
「他の奴ら背でかいんだもん。つい視線上になっちゃうんだよね。どうしたの?」
「保乃ちゃん来てないですか?」
「そういえば今日はまだ来てないね。暇?ヘルプ入る?」
「……そうですね」
森田ひかる。
今のメンバーでは新人、ではないけどっていう立ち位置。
田村保乃はひかるの固定されてきた指名客のひとり。
「来たらすぐ呼んでください」
「はいよ」
───カランカラン
土生のところにでも入れようと思っていたら、ドアが鳴る。
田村保乃が来たかと出迎えに行けば、最低な展開が襲ってきていた。
「ーーいらっしゃいませ、、菅井様…」
「こんばんは。土生ちゃんいる?」
「はい」
ヤバいヤバい。
一気に土生へと殺意が湧く。
あいつ!あれほどスケジュール調整しろって言ったのに!
「ふふ、愛佳のその反応。みぃちゃん来てるのかな?」
「……えぇ、まぁ」
「大変だね、愛佳も」
「………-」
あぁぁぁあぁ、寒い!
一瞬で鳥肌が立つ。笑顔に空気が凍る!
隣にいた森田も、通り過ぎるその人に頭を下げるので精一杯な様子で、顔が引きつっている。……ま、まだまだだな、森田。ホストはいつだって笑顔でいなきゃならないんだぞ!!
「愛佳、歩きおかしいよ」
「……」
私はほら。黒服だからね。
「土生ちゃん来る?」
テーブルに案内してすぐ、菅井様の圧。
……そーですよね、!
「少々お待ちください」
そう言って席を外す。
とにかく、土生が行くまで菅井様を一人にするわけにいかない。
「森田」
「やです」
…分かる。わかるよ、。
しかし、人間。逃げてばかりはいられない。
「…お願い。土生が行くまででいいから」
「土生さんが来てからが問題なんです!」
「すぐ!すぐ逃げてきていいから!タッチ&リリース!」
「志田さんダサい!」
「うるせえ!」
何が大変って、小池と菅井の来店が被ったときの空気。
小池はバチバチだし、菅井は笑顔で吹雪を起こす。店の売上は上がるけど、周りの客が引くからやめて欲しい。
そんなこれから地獄になるテーブルへ森田を行かせて、すぐ1番テーブルに入る。
愛佳「土生さん、ご指名です」
土生「ダメだよ、みぃちゃんと話してるもん」
愛佳「お前がミスったんだろ!」
土生「え?もしかしてゆっかー?」
小池「え?」
あ。
最悪。
───あ、なんかやな事起きてそう。
ふと見やった先、愛佳と土生ちゃんの顔にそんなことを思う。
「理佐さん、聞いてますか!」
「聞いてる聞いてる」
「適当!」
「天ちゃんは理佐が好きだね。私の相手してくれないの?」
「、へ?いや、由依さん私のこと知らないし、」
「今から知ったらいいじゃん。相手してよ」
「ちょっと由依。天ちゃん取らないでよ」
「いいじゃん、」
「良くない。夏鈴ちゃんも返して」
「お気に入りだからって独り占めは良くないよ。ね、夏鈴ちゃん」
───!
「!、」
少し空気が慌ただしくなって、由依と視線を向ける。
1番テーブルと5番テーブルで、物凄い注文の嵐が吹いていた。
由依「…久々だね」
理佐「また土生ちゃんやっちゃったんだね」
由依「店的にはいいけど、荒れるね」
理佐「うちらは穏やかに行こ。ね、夏鈴ちゃん。あ、目合ったー」
夏鈴「っ、」
天「理佐さん、私も注文します!!」
理佐「もー、天ちゃんはいいの、無理しない。来てくれるだけで嬉しいよ」
天「──、、」
理佐「可愛いねぇ、天ちゃん」
私のセリフに、天ちゃんは顔を覆いながら隣に座る。
顔を赤くしてる姿がかわいい。
バレないようにしてるつもりだろうけど、ニヤニヤしてるのはバレバレだった。
由依「……、大丈夫?夏鈴ちゃん」
夏鈴「だ、大丈夫です……」
───うわ。今日の売上やばい。
「今日の羽振りいいね、土生ちゃん?」
愛佳「、平手」
平手「コレ。また菅井さんでしょ?それとも関会長?」
愛佳「今日は小池さんと菅井様だよ。土生が被らせちゃってさぁ」
平手「他のお客さん大丈夫だった?」
愛佳「一応フォローはしたけど、、どうかな」
平手「そこは大丈夫って言ってよ」
愛佳「女の戦いなんて見たかないでしょ。女だらけなのに」
平手「まぁね。だからスケジュール調整するよう指導してるんだけどなぁ。みんなで心地よく。穏やかにね」
愛佳「平手が来たらすぐでしょ。もう来ないの、店」
平手「店長は裏方だよ、愛佳」
愛佳「まぁね」
保乃「るんちゃんどうしたん?顔やつれてんで」
森田「保乃ちゃん、、、怖かったぁ……」