緑⊿の短編系
誰かに何かを言われてここから動きたくなんかない。
「………、」
今まで、それは強さの表れだった。
私は自分の意思でここに立つ。
他人の戯言で、その意志を曲げたりしない。
ここに立つ権利は、誰にでも平等だ。
「……、」
そう。平等なのだ。
太陽の日が誰にでも降り注ぐように。
「美波、何か食べる?」
「……うん、」
言葉を発さない私に、理佐は話題を投げてくれる。 それは急かすわけでもなく、遠ざける訳でもなく。ただ、私がいつでも話し出せるように、ぽつぽつとタイミングを落としてくれていっている感覚だった。
「理佐は、誰にでも優しいな」
「え?」
「……ねるは、それにヤキモチ妬いたりせんの?」
「どうだろ。ねるって何でも見透かしてるとこあるから」
「、確かに」
「私の方がヤキモチ妬くこと多いかも。それを言葉にしてってことはないけど、ねる、にやにや擦り寄ってくることあるし」
注文をして、すぐの会話はそれだった。
理佐のタラシをねるは分かってて、でも、理佐が好きなのはねるだって、ねる自身がわかってる。それは、他の人には分からない、理佐のヤキモチを見透かしてるからかもしれない。
「土生ちゃんも、優しいでしょ?」
「……、」
「ヤキモチ妬いたの?」
手を差し伸べられるような、質問の仕方だった。それは、言い方なのか、仕草なのか、纏う空気からなのか、分からなかったけれど
鼻の奥がツンとして、泣きたくなる。
「……そんな、可愛ええもんやあらへん」
「……」
ヤキモチなんて、可愛いものじゃない。
誰が好きなのなんて、問えるわけがない。
彼女の答えは決まっている。
だって、あの人は"太陽"みたいな人だから。
「最近な、」
「うん」
「イカロスの話、読んだんよ」
「……いかろす?」
「知らんの?」
「あー、、聞いたことはあるよ」
イカロスは、蝋の翼で太陽に近づきすぎて、翼が溶けて、落ちて死ぬ。
……太陽に近づきすぎて…死ぬんだ。
「……聞いたことある」
「…土生ちゃんは、誰にでも優しいんよ」
「…、」
「ウチだけやない。誰にでも優しい。好きって言葉も沢山伝えるし、誰か一人を特別なんかにせん。その人がしあわせになれることを全力で考えてる」
「そうだね、」
理佐の同意の言葉が、イラついてしまう。
それは別に否定して欲しかったわけじゃない。否定なんてされたら、この人は何も分かってくれないと苛立ってしまうし、
けれど、その同意に、私の気持ちなんて半分も伝わってないんだと 思ってしまう。そんなのはただの勝手すぎる思考で、受け止めてくれる理佐には理不尽でしかない。
───誰かに何かを言われてここから動きたくなんかない。
背を押してくれていたその言葉は、私に重くのしかかる。
「…みんな、土生ちゃんが好き」
「うん、」
「それは、土生ちゃんが優しくて、本当に相手のことを考えてて、幸せになって欲しいって全力で思ってるからだって分かってる」
「うん」
「……でも、」
でも。
じゃあ、私は?
そんな酷い思考回路が、根を張って、張り巡らされて。
そんな汚いものが、太陽のようなあの人に、気づかれてしまうことが嫌だ。
そして、そうやって。自分の思考を肯定してるくせに、彼女にだけはバレたくないと思う、卑劣な考えに気づいてしまったから
もう、何もかも、感情が負に偏って、嫌で、嫌いで。否定ばかりが私を襲い続けてくる。
あの人の近くにいるのは、もっと綺麗で、蝋の翼なんかじゃない
本当の翼を持たなきゃいけない。
「……別れたいって、思う?」
「……っ、」
誰かに何かを言われてここから動きたくなんかない。
動きたくなんか、ない。
太陽なんて、そんな眩しい存在じゃなかった。私だけの温もりと、優しさと、ぴったりと寄り添える、そんな存在。
隣にいられることが、幸せだった。
でも、もう。彼女は、もう違う。
ちがう。
彼女は何も変わっていない。
太陽のような眩しさは、知っていた。
太陽のような、温もりを知っていた。
照らされる優しさと心地良さを、知っていたんだ。
「別れたくなんかない、。でも、苦しい……」
動かない、強さが欲しい。
芯を通す、曲げられない。そんな強さが欲しい。
だって、私は、土生ちゃんの──。
「………」
「……、うち、もうあかん、」
ねぇ、土生ちゃん。
私と、誰かとの差ってあるんかな。
太陽は誰にでも微笑む。その温もりを与えていく。
時間と、角度と、位置を変えて。
その人に、届けていく。
全力で幸せを望むあなたは、きっと、私だけを特別になんてしない。
それを、悔しいと嫉妬を抱いてしまうのなら私は、あなたの隣にいるべきじゃない。
「……美波」
「、」
「……土生ちゃんは、太陽じゃないよ」
「え?」
顔を上げた先、理佐が、少し言いづらそうに私を見ていた。
「イカロスの話みたいに、近づいた誰かを傷つけたりしない」
その分、近づく人を遠ざけることも出来ない。
……けど。
「……おバカなことも言うし、けど、すごく真面目だし、その人を想うこともする」
「……うん、」
「美波が、苦しいって思うことも否定なんか出来ない。それを汚いとも思わないよ」
「っ、」
「だから、美波は自分のこと、嫌わないでいいんだよ」
……ねるが、理佐を好きな理由が分かる。
理佐は、傷つけることを言わない。けど、そんなことじゃない。
理佐は、目の前にいるその人の心を撫でてくれる。
事柄だけに苦しんでるんじゃないって、気づいてるんだ。
その事に、責めて、傷付けて、嫌いになる。そんな心の内を気づいてる。
……うらやましいなぁ。 理佐の静かに包み込むそれは、全ての人にじゃない。
目の前にいる、その人だけに注がれるんだ。
そしてそれは、理佐を信頼してる人だけしか、受けられない。
「──……え?」
「ごめん、土生ちゃん」
目の前には、目を開いて、眉間に皺を寄せて。信じられないと見せる、そんな表情。
「……私、みいちゃんのこと傷つけた?」
「ううん、ちゃうよ」
土生ちゃんが傷つけたんじゃない。
私が、勝手に傷ついただけ。
「っ、でも…そういうことじゃないの?違うなら、なんで……」
「……ごめんね、土生ちゃん」
「なんで謝るの、?」
どんよりとした、雲が、隔たる。
でも、あなたはきっと、私の望みにゆっくりと微笑むんだ。
「メンバーとして、これからもよろしくね」
「……うん」
あなたがそこにいるだけで、救われる。
隣にいられなくていい。
全ての人を平等に愛して、幸せを与えられるあなたは
別れを選んだ私でさえ、幸せにしてくれる。
太陽は、見上げる人を選ばない。
平等に。残酷に、。
その愛を与えてくれるから。
つづく?
「………、」
今まで、それは強さの表れだった。
私は自分の意思でここに立つ。
他人の戯言で、その意志を曲げたりしない。
ここに立つ権利は、誰にでも平等だ。
「……、」
そう。平等なのだ。
太陽の日が誰にでも降り注ぐように。
「美波、何か食べる?」
「……うん、」
言葉を発さない私に、理佐は話題を投げてくれる。 それは急かすわけでもなく、遠ざける訳でもなく。ただ、私がいつでも話し出せるように、ぽつぽつとタイミングを落としてくれていっている感覚だった。
「理佐は、誰にでも優しいな」
「え?」
「……ねるは、それにヤキモチ妬いたりせんの?」
「どうだろ。ねるって何でも見透かしてるとこあるから」
「、確かに」
「私の方がヤキモチ妬くこと多いかも。それを言葉にしてってことはないけど、ねる、にやにや擦り寄ってくることあるし」
注文をして、すぐの会話はそれだった。
理佐のタラシをねるは分かってて、でも、理佐が好きなのはねるだって、ねる自身がわかってる。それは、他の人には分からない、理佐のヤキモチを見透かしてるからかもしれない。
「土生ちゃんも、優しいでしょ?」
「……、」
「ヤキモチ妬いたの?」
手を差し伸べられるような、質問の仕方だった。それは、言い方なのか、仕草なのか、纏う空気からなのか、分からなかったけれど
鼻の奥がツンとして、泣きたくなる。
「……そんな、可愛ええもんやあらへん」
「……」
ヤキモチなんて、可愛いものじゃない。
誰が好きなのなんて、問えるわけがない。
彼女の答えは決まっている。
だって、あの人は"太陽"みたいな人だから。
「最近な、」
「うん」
「イカロスの話、読んだんよ」
「……いかろす?」
「知らんの?」
「あー、、聞いたことはあるよ」
イカロスは、蝋の翼で太陽に近づきすぎて、翼が溶けて、落ちて死ぬ。
……太陽に近づきすぎて…死ぬんだ。
「……聞いたことある」
「…土生ちゃんは、誰にでも優しいんよ」
「…、」
「ウチだけやない。誰にでも優しい。好きって言葉も沢山伝えるし、誰か一人を特別なんかにせん。その人がしあわせになれることを全力で考えてる」
「そうだね、」
理佐の同意の言葉が、イラついてしまう。
それは別に否定して欲しかったわけじゃない。否定なんてされたら、この人は何も分かってくれないと苛立ってしまうし、
けれど、その同意に、私の気持ちなんて半分も伝わってないんだと 思ってしまう。そんなのはただの勝手すぎる思考で、受け止めてくれる理佐には理不尽でしかない。
───誰かに何かを言われてここから動きたくなんかない。
背を押してくれていたその言葉は、私に重くのしかかる。
「…みんな、土生ちゃんが好き」
「うん、」
「それは、土生ちゃんが優しくて、本当に相手のことを考えてて、幸せになって欲しいって全力で思ってるからだって分かってる」
「うん」
「……でも、」
でも。
じゃあ、私は?
そんな酷い思考回路が、根を張って、張り巡らされて。
そんな汚いものが、太陽のようなあの人に、気づかれてしまうことが嫌だ。
そして、そうやって。自分の思考を肯定してるくせに、彼女にだけはバレたくないと思う、卑劣な考えに気づいてしまったから
もう、何もかも、感情が負に偏って、嫌で、嫌いで。否定ばかりが私を襲い続けてくる。
あの人の近くにいるのは、もっと綺麗で、蝋の翼なんかじゃない
本当の翼を持たなきゃいけない。
「……別れたいって、思う?」
「……っ、」
誰かに何かを言われてここから動きたくなんかない。
動きたくなんか、ない。
太陽なんて、そんな眩しい存在じゃなかった。私だけの温もりと、優しさと、ぴったりと寄り添える、そんな存在。
隣にいられることが、幸せだった。
でも、もう。彼女は、もう違う。
ちがう。
彼女は何も変わっていない。
太陽のような眩しさは、知っていた。
太陽のような、温もりを知っていた。
照らされる優しさと心地良さを、知っていたんだ。
「別れたくなんかない、。でも、苦しい……」
動かない、強さが欲しい。
芯を通す、曲げられない。そんな強さが欲しい。
だって、私は、土生ちゃんの──。
「………」
「……、うち、もうあかん、」
ねぇ、土生ちゃん。
私と、誰かとの差ってあるんかな。
太陽は誰にでも微笑む。その温もりを与えていく。
時間と、角度と、位置を変えて。
その人に、届けていく。
全力で幸せを望むあなたは、きっと、私だけを特別になんてしない。
それを、悔しいと嫉妬を抱いてしまうのなら私は、あなたの隣にいるべきじゃない。
「……美波」
「、」
「……土生ちゃんは、太陽じゃないよ」
「え?」
顔を上げた先、理佐が、少し言いづらそうに私を見ていた。
「イカロスの話みたいに、近づいた誰かを傷つけたりしない」
その分、近づく人を遠ざけることも出来ない。
……けど。
「……おバカなことも言うし、けど、すごく真面目だし、その人を想うこともする」
「……うん、」
「美波が、苦しいって思うことも否定なんか出来ない。それを汚いとも思わないよ」
「っ、」
「だから、美波は自分のこと、嫌わないでいいんだよ」
……ねるが、理佐を好きな理由が分かる。
理佐は、傷つけることを言わない。けど、そんなことじゃない。
理佐は、目の前にいるその人の心を撫でてくれる。
事柄だけに苦しんでるんじゃないって、気づいてるんだ。
その事に、責めて、傷付けて、嫌いになる。そんな心の内を気づいてる。
……うらやましいなぁ。 理佐の静かに包み込むそれは、全ての人にじゃない。
目の前にいる、その人だけに注がれるんだ。
そしてそれは、理佐を信頼してる人だけしか、受けられない。
「──……え?」
「ごめん、土生ちゃん」
目の前には、目を開いて、眉間に皺を寄せて。信じられないと見せる、そんな表情。
「……私、みいちゃんのこと傷つけた?」
「ううん、ちゃうよ」
土生ちゃんが傷つけたんじゃない。
私が、勝手に傷ついただけ。
「っ、でも…そういうことじゃないの?違うなら、なんで……」
「……ごめんね、土生ちゃん」
「なんで謝るの、?」
どんよりとした、雲が、隔たる。
でも、あなたはきっと、私の望みにゆっくりと微笑むんだ。
「メンバーとして、これからもよろしくね」
「……うん」
あなたがそこにいるだけで、救われる。
隣にいられなくていい。
全ての人を平等に愛して、幸せを与えられるあなたは
別れを選んだ私でさえ、幸せにしてくれる。
太陽は、見上げる人を選ばない。
平等に。残酷に、。
その愛を与えてくれるから。
つづく?