緑⊿の短編系

「……、」

「………また?」

「………言わないで…」


呆れたような声と、私に反応してこぼれた溜息に苦しくなる。
優しい理佐は、ゆっくりと私の隣に座ってくれる。


「……」

「……分かってるの」

「うん」

「でも、楽しくなっちゃって…」

「…茜も乙女だからね」


そんな茜が好きで
誰よりも努力家で、負けず嫌い。


「どうしたらいいんだろう、」

「…わかんないよ、茜を分かってるのは友香でしょ?」

「理佐は、どうしてるの?」


比べるべきではないと分かっているけれど、誰かに縋りたくて。模範でいいから、方法を教えて欲しかった。


「……私は、ねるのことしか分からないから」

「、」


理佐の言葉に、反応できなるなる。
そんな私に、理佐のまっすぐで優しい瞳が向けられる。

ふたりきりのこんな見つめ合うところ、ねるに見られたら怒られちゃうかもなんて
場違いなことを考えてしまう。


「茜のことは、友香が答えを出すしかないよ。私より、誰より、友香しか分からないから」


そのタイミングで、理佐のスマホが着信を知らせる。
ごめん、と私に声をかけてから迷いなくその着信を受ける。 会話中、柔らかい理佐の表情が見れて茜に会いたくなった。
あんなに、どうしようって悩んでいたのが馬鹿みたいに。


「ねるに浮気してない?って言われたんだけど。電話の第一声がそれってどう思う?」

「ふふ。かわいいね」


なにそれって理佐が笑う。
でもあまりにタイミングが良くて、ねるはどこかで見てたんじゃないかなって、草むらからひょっこり顔を出すねるを想像しておかしくなった。



ねるは、理佐の恋人。
茜は…私の恋人。

たまたま食堂で席が隣になった、土生ちゃんという人の空気感があまりに楽しくて
色んな話を始めたのは最近のこと。

土生ちゃんへの好意と、茜への感情は全然違うけれど
土生ちゃんのことを楽しげに、時々みいちゃんとのやり取りに嫉妬して……それを茜はあまりよく思わない。

何回か、あかねを怒らせてしまって
今回も……。
理佐に『また?』と言われても仕方がない。


「……もしもし、茜?今どこ?」


幸いにも対応してくれた通話で、会う約束をする。
逃げることをしない、真っ直ぐな茜に。いつも救われている。






その日の夕方、茜の家に訪れる。
もらっていた合鍵で玄関を開けて入れば、茜は2人がけのソファに腰掛けていた。


「……」

「………あの、ごめんね。」

「それ、何回目?」

「……、ごめん」


茜の雰囲気に近寄れなくて、立った位置から足が進められない。
この繰り返しで、茜に嫌な思いをさせている。恋人として、もっと気をつけるべきだった。


「…私が勝手に嫉妬して拗ねて。だから、私、頑張ってた」

「、」

「友香に見てもらえるように。」


それは、日々努力を続ける茜が私のためにもっと努力を積み上げてたってこと。
私はそれに気づけていただろうか。


「土生ちゃんにも会ったよ」

「え?」

「友香が好きな人って、本当にどんな人なんだろって」

「……好きなんて……」

「好きじゃないの?」


茜は私をよく見てくれている。苦しい時には隣にいてくれて、手を握ってくれて。
一緒に苦痛を背負ってくれる。

それに比べて、私は茜に何かをしてあげれているのだろうか。


『茜のことは、友香が答えを出すしかないよ。私より、誰より、友香しか分からないから』


理佐の声が思い出される。
私しか分からないこと。それは、茜が私にだけ教えてくれていること。


「……、」


真っ直ぐで、努力家で。
きっと誰もよりも自分と向き合っていて、

私とも、向き合ってくれている。


私は、茜の横に座って向き合うように体を横に向けた。
横顔しか見れないけれど、それでも、立ったまま、あの距離のままで話なんてしても向き合えない気がした。


「土生ちゃんのことは好きだよ」

「、」

「でも、茜に想ってる形とは違うの。土生ちゃんは友達で、茜は恋人だから」

「あっちの彼女にまで嫉妬してるのに?」

「それでも、違う。土生ちゃんとはその時が楽しくて、それは嘘になんて出来ないけど」


嘘も誤魔化しも、真っ直ぐな彼女にしちゃいけない。例えばそれで茜が許してくれたとして、私は一生、彼女の隣にいることは出来なくなる。


「茜とは、これから先を一緒に考えて過ごしていきたいの」

「……、」

「不安にさせて、ごめん」

「……っ、」


私の言葉に、茜からはぽろぽろと涙が零れて、綺麗な顔が感情を露わにする。

そうして、それとともに溢れた茜の心が私にだけぶつけられる。


「土生ちゃん、綺麗っだし!友香、と、趣味合うだろうし!」

「……」

「私よりも、楽しいんじゃっ、ないかって!」

「……うん、」

「なら!一緒になんてっ」

「……私は、茜が好き」

「──っ!」

「茜と、一緒にいたいよ」

「うん、!」


体を小さくする茜の背に、腕を回す。
普段力強く立つ彼女からは感じさせない、私の知る彼女の本質、。
私は、そんな茜が、とても愛おしくなる。

だから、これから先も一緒にいたいと、思わされるんだ。


「きゃあ!?」


瞬間、茜らしい力強さで抱きしめられる。
苦しいくらいの抱擁に、私も腕を回して抱きしめ返す。

茜の温もりが、じわじわと伝わってきて
体の中心から絆されていく感じがする。その度にいつも思う。
茜がいなければ、この存在がいなければ、私は固まったままどんどん渇いて、いつかボロボロに砕けるんじゃないかって。


「っ、許してあげる、」

「…ありがとう」

「次は許さないからね」

「ふふ。うん」







どさ。




「ん?」

「じゃ、おしおきね」

「え?」


抱きしめていた体はいつの間にか押し倒されていて。
茜は涙を拭いながら私を見下ろす。


「怒られないと、信用されてないって思うんでしょ?ちゃんと、もう二度と忘れないように教えてあげるから」

「───っ!?」



怖いくらいの、満面の笑み。

怖いと、感じたはずなのに。
笑顔の奥に潜む怒りに、私はどこかよろこんでいた。

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