緑⊿の短編系
みぃちゃんは最近、かっこいい顔をするようになった。
以前ならロックな曲にも、可愛らしさが抜けなくて
どうしても『みいちゃん』って感じだったのに
なのに。
「うーーん」
「なに、土生ちゃん。なにか悩んでるの?」
「……うん、でも悪いことじゃないし頑張ってる証拠だし」
「……ぁあ、美波?最近かっこいいよね。金髪にした時はびっくりしたけど」
「!」
理佐はジュースを飲みながら、さらっとそんなとこを口にした。
やっぱりそうなんだ。かっこいい理佐から見ても、みいちゃんは『かっこいい』んだ。
……みいちゃんはずっと、可愛いんじゃなく、かっこいいになりたいって言っていた。
それがどんどん形になっていく。
それはみいちゃんの努力の結果で。
みいちゃんが目指すものへの姿勢の証。
なのに。
「……面白くないの?土生ちゃんだってイケメンじゃん。関ちゃんからも、松田ちゃんからも尊敬されてるしさ」
「……そういうことじゃないの、」
「………、」
理佐からズズーっと音がする。
飲み物が空になったのだと分かったけれど、自分のグラスに半分以上残るそれを飲みきる気にはなれなかった。
「あ、理佐ー」
「!ねる、終わったの?」
「うん。お待たせ。あれ?土生ちゃんどうしたん?」
「……ねるぅ」
「最近の美波に凹んでるみたい」
「凹んどる、の?」
「……、だってみいちゃん、最近かっこいいんだよ。すごく頑張ってるの」
「うん」
「なのに……」
言葉が思いつかなくて、ちらっと視線をあげる。
そこには、たった1年離れていたねるがひどく大人っぽくなって
ねるらしさを残したまま、女性として成長を見せつける姿があった。
理佐だって、どんどん綺麗になっていく。
どこか強さと凛とした雰囲気を纏って、その瞳と立ち姿は、私もしっかり立たなくちゃと思わせてくれる。
「ねるも理佐もすごいよ」
「え?」
「近くにいるのに、進んでくのが分かる。私も1日1日積み重ねて、ちゃんと前に進んでいくって分かってる」
「……。」
「なのに、みいちゃんのことは…」
「土生ちゃん、」
「、」
「土生ちゃんもみいちゃんにかっこよかー!って思わせたらよかばい!」
「え?」
「ねる?」
「みいちゃんがどっか行きよう気がして不安なんよね?なら、みいちゃんにかっこいいとこ見せて振り向かせるったい」
「………」
不安……。
そっか、先に進むみいちゃんが離れていってしまいそうで怖いのかもしれない。
応援したくないとか
面白くないとかじゃなくて。
ただ……、
「ありがとう、ねる。私もっと頑張る!」
「うん」
「……ねる、わざとでしょ」
「んんー?なんの事かわかりませんなぁ」
「あ、土生さ──?、!!?」
次の日私は、ねるの助言を実行すべく少女漫画然りなかっこいい行動を仕掛ける。
有美子にも声をかけ、松田ちゃんとも話をした。いつの間にか真剣な話になって、土生ワールドを展開してしまったけれど
2人とも笑ってくれて安心した。
ゆっかーが来て、イヤホンを2人で使う。肩の触れ方はいつの間にか壁が無くなったな、と肩にかかる重さに感じる。
お互いが頼りにしあえてるということが、形としてなっている気がした。
「土生ちゃん…」
「!、みいちゃん…?」
今日初めてみいちゃんが話しかけてくれて。
それに舞い上がって、みいちゃんの不穏な空気に気づかなかった。
私はへらへらとして、周りからしたらあまりに平和ボケした人間だったと思う。
みいちゃんは、綺麗な前髪から、鋭い目を見せると
何かを振り切った。
────!!!
「───…、え?」
「……土生のアホ!キラキライケメン振りかざしおって!!もう知らんわ!!」
「………っ!??は、え?みいちゃん!?」
「来んで!変態!」
「……えぇ、???」
理佐「それで?美波と仲直り出来たの?」
土生「たくさん謝ってなんとか。でもイケメンすんなって言われてさ、」
理佐「絶対出来ないでしょ」
ねる「りっちゃんに言われたくなかよねぇ。でも土生ちゃんは狙ってやってそうやけん…自覚あると?」
土生「えー?んー、彼氏っぽくしようとすることはあるけど…。あとかっこいいって言われるとカッコつけたくなる」
ねる「それやね、」
理佐「……ねぇ、私には言われたくないってなに。イケメンなんてしてないじゃん」
ねる「理佐はまず自覚するところから始めてください。頭ポンポンとか、その笑顔に何人やられとると思っとるんよ。知っとるけんね」
理佐「はあ?笑わないとかないじゃん」
ねる「そういうことやなかったい!」
土生「ねえ、私どうしたらいいの?」
ねる「うーん、土生ちゃんはみいちゃんにだけかっこよく見せれば良か…」
理佐「ねるだって大学でにこにこしちゃってめちゃくちゃ声掛けられてるくせに……(ぼそ)」
ねる「そんなん社交辞令やろ」
理佐「社交辞令だけでこんな声掛けられないでしょ!ほぼ飲み会じゃん!ねるこそ自覚してよ」
ねる「りっちゃんほど無自覚にやっとらん!」
理佐「なにそれ、わざとやってんの。そっちの方がタチ悪いじゃん」
ねる「そういう所が自覚ないっていいようと!」
理佐「はあ?」
土生「ねー、みいちゃんだけってなにー?みいちゃん以外にカッコつけたことないよー」
「うるせぇーー!!外行けそと!」
「!!!」
私と、理佐とねると。
由依の怒号で、ピタリと止まる。
「……ゆいさん、」
由依の隣で苦笑いするひかるちゃんを見て、何故かみいちゃんに会いたくなった。
かっこよくなるみいちゃんに、落ち着かないのも
理想に手を伸ばし、先に進むみいちゃんにまっすぐ『すごいね!』が言えないのも
ただ、寂しくて怖いだけ。
感情の名前が見つけられなくて怖かったけど、答えが分かれば簡単だった。
なら、私も1歩1歩を進んでく。
みいちゃんに『土生ちゃんの全部が好き』って、また言ってもらえるように、私は私の道を。
君のとなりで歩いてく。
「土生さん、頬の腫れ引かんなぁ」
「どんだけの力で引っぱたかれてん」
「部屋に響いとったで、パァああん!!て!」
「……みいさん怖いなぁ」
「ちゃうで、天ちゃん。女の嫉妬が怖いんやで。天ちゃんもあんまりかっこええことしとると後ろからさされ──」
「こら!天ちゃんに変なこと教えないの!」