緑⊿の短編系

「あ、お子やー。かわいい」


出かけた先でどこにでもいる家族が目に入って、ねるの言葉に日常はつんざかれる。
何気ない一言に心はブスブスと焦げて
どうすることも出来ない、そんな現実に、君は離れていってしまうと不安になる。


「……かわいいね。握り」

「いけんよ理佐」

「かわいいじゃん!」

「理佐の激しい愛情はお子つぶてしまうったい!」

「…ぎゅーってするだけだよ」

「はぁ。ねるがついとらんとりっちゃん危なかー」

「!」

「?」


たった一言に傷つくくせに、
さり気ない一言にすぐ癒される。
本当、めんどくさいやつだ。


「なん、ニヤケとるの?」

「なんでもなーい」

「えー!なにー!バカにしとるやろ」

「してないよ」


何が出来なくても、不可能でも
君の未来に、私が離れる選択肢がない。

少なくとも今は。
それだけで救われるんだ。


これから先、どこかで別れる選択肢が現れたとしても仕方ないと思ってる。
それが、自分に叶えられないことなら尚更。


「ねえ、ねる」

「んー?」

「………」

「りっちゃん?」


それでも。ねるがいて、笑い合える今があって
お互いが共にいることを当然とできている今は、限りなく幸せだと思う。


「赤ちゃんを守れるのはねるだけだからね」

「……ふふ。りっちゃんどついてでも守るけんね」


言葉とは裏腹に、ねるは私にそっと寄り添って手を握る。
包むようなその優しさに、ねるの手に、安心感に包まれた。


ありえない未来かもしれないけど、それに絶望せず一緒にいられるのは

君が好きだからだ。





力いっぱい抱きしめたい衝動が、体の奥からせり上がってきて必死に我慢する。

今夜はねるを抱き潰してしまいそうで
心の中で、ねるに謝罪の言葉を唱えた。





10/43ページ
スキ