緑⊿の短編系


「ねる、おかえり」

「…ただいま、」


帰宅して、先に自宅に来ていた理佐に会ってほっとする。
その存在の大きさを痛感する。

荷物を置いて、振り返ると理佐がそっと抱きしめてくれて、少し泣きたくなった。

理佐の首に手を回して、少しだけ背伸びをする。理佐もねるの背中と腰に腕を回して
顔を傾けて、
触れるだけ、なんてかわいいのじゃ我慢なんて出来ない。

舌を出して、唇に触れる。
すぐに相手の唇が薄く開いて、割り込むように舌を入れる。

なぞるように堪能すれば、躊躇いがちに舌が触れだして絡み合う。

息は上がって、鼻から抜けるような声が漏れる。


どっちの声かも分からない、あまったるい声と息遣いで
互いの熱が上がっていく。



「ん、……んぅ」

「…ちゅ、はぁ、…んっ」



上がった熱をぶつけ合って、ゆっくりと離れる。
それでも、腕は外れなくて近い距離を保っていた。


「……ん、」

「………、」


つう、と混ざりあった唾液が繋がって光る。
理佐とじゃない、そんな時を思い出す………
ここに帰ってくる前に、予想せず出会ってしまった。


「ねる?」

「……、ん?」

「………平手のこと思い出したの?」

「…そんなことなかよ」


否定した言葉を、理佐は信用出来なかったみたい。でも。てちのことを思い出したのは本当だから当たり前、やね。

理佐は眉間に皺を寄せながら、ねるの首元に顔を埋める。

ちゅ、とキスをされて、舌でなぞられて。
無意識に顎が上がって理佐をぎゅっと抱きしめた。


「んっ、りさ、」

「……っ、は、…」


粘着質な音と少しだけ早い呼吸。
背中と腰に回った腕がよりキツくなって
心まで、きゅうって切なくなる。


「……いっ!」

「………、」

「っ!りさ!待って…いた、い!」


甘い、甘ったるいほどの雰囲気に刺さるような痛みが走る。
首に回していた腕を離して、理佐の肩に置くけれど
理佐の腕は緩まなかった。


「んあ!っ!んん、!」

「…………っ、」




露にした首筋を取り戻すことも出来なくて、痛みに耐えるべく理佐の服を握りしめる。
くしゃくしゃにしてしまうけど、気にしていられなかった。



「………はぁ、は、…、」

「っ、りさぁ、なん……?」


しばらくして、理佐がその行為を止めてくれる。それでも何とか顔が見れるくらいの距離だった。


「っ!?」

「ねる、」


ひと言。ねるの名前を呼んで。

理佐はねるの体をベッドに運ぶ。

乱暴ではないけれど、いつもほどの優しさはなくて
服を脱がせて、肌が見える先からキスが落とされる。


「っ、り、さっ…ちょっと、まって…!」

「………、むり。、ちゅ、、」

「んん!、なん、…どう、して、ぁ」



そうしてまた、さっきまで首元に感じていた痛みが走る。
体はビクっとして、強ばり。今度は理佐じゃなくてシーツを握りしめる。

生理的に溢れる涙で視界が滲むけれど、
必死に理佐を追う。


「や、ぁ。…りっ、…!」

「、ねる」


白い歯と、舌が見える。

痕跡を残すようにがぶがぶと噛んでは、労わるように舐めていく。
そして、
印を付けるように、吸って、赤く染まればそれさえも噛んで。


「理佐ぁ、っ、」

「……いっぱい、泣いていいよ」


気づけば、理佐の顔は目の前にあって


「っ、」

「……平手のことも、思い出していい」


零れる涙を、撫でてくれる。
でも、その優しい手つきに、体は少し怖がっていた。



「…………」

「………理佐?」


「ごめんね、ねる」

「………」

「こんな独占欲の塊みたいなことして、」

「…………」

「ねぇ、平手は痕残せなかったでしょ?」

「ん、いっ!」



また、噛んで。

吸って。

舌を這わせていく。


何回も繰り返されるそれは、甘美になっていって。

体は、痛みから刺激へと認識を変えていく。



「あ、ん、……っ、」

「もう痛くない……?」

「ん、ぅん、……!」

「よかった。…ねる、」




身体中至る所に痕を残されて、

でも、1箇所だけは、ずっと触れられすらしなくて。

切なくて仕方がない。



「りっちゃ、」

「感じちゃった?」

「ーーーっ!」




だって、あんな。

胸から、お腹、脇腹、下腹部。

内腿、指先

背中。

お尻、まで。


ずっとずっと。
繰り返されて、

理佐は満足かもしれんけど、ねるはどんどん溜まっていくばかりやったと。


早く触れて欲しくて、
早く、欲しくて。

未だ太ももを撫でるだけの手を捕まえる。


「!」

「っ、…いじわる、せんでよ」


膝を立てて、少し、ほんとに少しだけ足を開く。

理佐の指に、自分の指も絡めて
ソコへ、


理佐の手より、自分の手より
酷く濡れたそこの刺激ばかりが脳を占める。


「ん、んん!」

「ふふ、ねる、淫乱だね」

「あっ、や、ぁ。……っ、理佐ぁ」

「なぁに?ねるちゃん」


理佐の指はそこにあるのに、言葉を投げるばかりで動かしてくれない。

この時ばかりは羞恥心もなくて、頑張って動かすけれど、全然足りなかった。



「触って……、」

「触ってるよ」

「ち、がう。、りっちゃん、なんで、?」

「……腰、揺れてるよ、」

「理佐っ、」


そこに触れる手とは反対の手が、腰を撫でる。
ぞわぞわして、苦しい。



「……ねる、」

「っ、…?」

「好き、だよ」

「ーー………」

「ずっと…、これからも、一緒にいたい」

「……、うん、」




「ねるは……?」




不安げに揺れる瞳に気づく。

そんなの、今更?って思ったけど



身体中に残された痕も、

てちのことも、

……そっか。


不安やったんやね。りっちゃん。

いっぱい、考える人だから
ねるのことも悩んでしまったのかな。

だから、好き。

だから、信頼しとる。



ねるは、

ねるの世界は、変わる。

そして、

理佐とも、少しだけ違う世界になる。



でも、みんな違う世界に生きてて、
でも、みんな、同じ世界にいる。

それが辛くて苦しくなる時もあるけど
それに救われることは、たくさんある。



りっちゃん。

ねるは、



「……理佐のこと、好き」

「………」

「いっぱい、泣いていいんよ。ねる、抱きしめてあげるけん」

「……っ、」

「お別れなんてせん。ねるは、理佐とおる。これからも、」




ずっと。






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