君は、理性を消し去る。
愛佳「あっつ〜」
理佐「……溶けそう、」
愛佳「うちらは灰だよ、りっちゃん」
理佐「あ、そうかぁー」
何度目かの高校生。何度目かの体育祭。
ため息が出るほどの晴天。
吸血鬼だけじゃない、人間だってダメになりそうだった。
だらー、っと木陰に項垂れる2人を土生は眺める。
土生「大丈夫?」
愛佳「はぶー、なんでそんな涼しい顔してんだよ腹立つな」
理佐「やめて愛佳。暑苦しい」
愛佳「はー、?まじ帰りたい。帰る?」
理佐「帰れないでしょ、やめてそういうの」
暑さのせいか、だらだらと互いに思いのぶつけ合いをしている。
喧嘩にならないのは仲がいいからなのか暑いからなのか。
土生「みいちゃん、大丈夫かなぁ」
理佐「あぁ、チーム違うんだっけ?」
土生「そう。みいちゃんとおだななが一緒。私は鈴本と一緒だよ」
愛佳「うわ、びみょう。」
しかし、暑い。本当に地球はどうなってしまうんだろう。規模の大きすぎる問題に八つ当たりしてしまいそうだった。
理佐「今、なんの競技?」
土生「えっと、借り物競争かな。理佐も愛佳もでないんだね」
愛佳「うちらは最後のリレー組だよ、それまではとりあえず休みかな、たぶん」
パン、とスタートを知らせる音が聞こえて、応援する声が上がる。
何度目かの体育祭なんて、どちらが勝つとか負けるとかあまり気にならなかった。
けれど、そんなこと堂々とは言えないし、言うつもりなんてない。
そんな中、土生が熱心にグラウンドを見つめるのは
小池が、借り物競争に出ているからだ。
「愛佳ー!」
「げ、茜だ」
「ちょっと愛佳!早く来て」
「なんだよ、違うやつでいいじゃん!」
「いーから!」
「はあ!?うわ!」
ギャーギャー騒ぎながら、愛佳は軍曹、元い、茜に引っ張られて行ってしまった。
「大丈夫かな、愛佳。一体なんの借り物だったんだろ」
「愛佳なら上手く逃げてくるよ、たぶん」
サァ、と風が吹く。
その風に、暑さに項垂れていた視界が開ける。
体育祭。ここにいる人間は、人生1度の高校生活を送っている。 理佐は、それがとてつもなく寂しくなった。
「土生ちゃんはさ、」
「うん?」
「小池さんのこと見て、どう思うの?」
「……んー、食べたい。とか?」
素直だね、土生の答えに理佐は笑ってそう返す。
口元を覆って笑ったあと、グラウンドの学生たちを見やった。
あの人たちと、自分たちは違う。
そして、愛佳や土生達とも自分は違う…。
「……私は、そういう欲求があんまりないからさ、番と巡り会うのも正直羨ましいっていうか。…土生ちゃんは苦しいのかもしれないけど、」
「苦しいけど、それ以上になんかこう、心が弾むっていうか。色んなこと吹っ飛ばして、みいちゃんが欲しいって思うよ」
そのためなら、なんでもしたい。
なんとかしたい。
でも、傷つけたくはない。
「………」
「理佐も出会えるよ、きっと」
「え?」
理佐が視線を上げると、柔らかすぎる土生の笑顔が向けられていた。
「難しいこと考えられないくらい、好きな人」
ざわっと、周囲の声色が変わって、
土生は視線をグラウンドに戻す。
順番待ちをしていた小池は、借り物に指名されその列から引っ張りだされていた。
2人が手を繋いで走り出した瞬間、小池の靴が脱げその場に倒れ込んでしまった。
「ッみいちゃん!」
「待って!土生ちゃん、今行ったらダメだよ」
「……っ」
それでも、小池は直ぐに立ち上がり再び走り出す。2着でのゴールだった。
「………血、出てる、」
「……理佐、離して。」
「えっ、ぶわっ!」
腕を掴んでいた理佐の手を、土生は振り払う。抑制が効かないその力に、理佐は軽く体が浮いた、
「理佐!」
「っ、愛佳、?」
「大丈夫か」
「、平気。ありがと」
倒れ込む理佐をどこからか駆けつけた愛佳が受け止める。
倒れた程度じゃ大した怪我もしないのに、理佐の返答に安心した顔をする愛佳にキュンとしてしまった。
「愛佳イケメンすぎ、」
「…はいはい」
理佐を下ろして立ち上がる。
既に土生はいなくて、グラウンドにいたはずの小池すら姿を消していた。
「てかもういねえし、大丈夫かよ土生」
「追おう、愛佳」
「ったく。あれは?おだななは?」
「だに?小池さんと同じだったよね?」
「…っ、土生ちゃん…?」
「大丈夫?みいちゃん」
「そんな血相変えてこんでも、こんなんかすり傷やで」
「……」
「てかここどこ?早いなぁ土生ちゃん瞬間移動みたいや」
誰もいない教室。使う予定のないそこは、外からの陽の光だけで照らされていた。普段見る教室よりなんとなく薄暗い。
土生は怪我をした小池を、こんなところではなく救護室に連れていく、つもりだった。
「あかんなぁ、外戻らんと。いてて」
「………、」
小池の幼いあまい声が響く。
正気に戻ろうと引っ張る理性を隅に、土生の目は、血を滲ませる手のひらに吸い込まれてしまう。
冗談めかした『食べたい』は、本心だ。
その肌に、その血に。
爪を、牙を、立てて。
全てを、貪り尽くしたいーーー。
「っ!?土生ちゃん!なにして、?」
あぁ、ぐらぐらする世界。
脳の八割が本能で埋め尽くされる。
残りの2割が、小池の声を理性に届けてくれる。
目の前には、しゃがみこむ小池。
まるで、性行為のように、土生は小池の足の間に体を入れ込み、
戸惑う小池の手を取った。
頭の隅の2割が、小池の手の震えを伝えてきていた。
ーーーだめ、、だめだ。
みいちゃんが、怖がってる。止めなきゃ、止まらなきゃーーー
警告を鳴らす自我はなんの役にも立たなくて、その赤い血に、舌先を伸ばす。
その血を微塵にでも感じられたなら、、、
ーーーーー!!!!
「ってー。」
「だに!?」
小池が恐怖に目を閉じた瞬間、重い音が響き渡り、身近にあった体温が消えた。
そして、間延びした声が届いて、目を開く。
「大丈夫?美波」
「だにぃ、、」
敢えて明るい声と笑顔を見せる織田に、小池はわけも分からず泣きそうになった。
頭を撫でられて、手を引かれる。
ゆっくりと立たされた視界の先には、土生が崩れた机たちの中から立ち上がる姿があった。
土生「………、」
織田「怖いよ、土生ちゃん」
土生「ーー、おだなな、邪魔するの」
織田「……する。こんなやり方、邪魔するしかないでしょ」
土生「ちがう、こんなつもりじゃなかっタ、から」
1人で来るんじゃなかった、と織田は心の中で舌打ちをする。しかし、呼んでくる余裕もなかった。競技中じゃなきゃ、携帯だって持っていたのに。
「……美波。鈴本美愉、分かるよね?」
「うん、」
「走って、呼んできて。土生ちゃんは私が止めるから」
出来れば、愛佳と理佐も呼びたいところだけどそんないくつも要求している場合じゃない。
ぐらぐらと体を揺らす土生は、いつ小池を襲いに飛んできてもおかしくない。
ギリギリの理性が踏みとどまらせているだけだ。
小池がドアに走り出すと同時。土生が動き出す。
織田は小池を守るように正面から止めにかかった。純粋な力勝負。
本能に駆られた吸血鬼に勝てる確信など、なかった。
「……っぐぅ」
「ジャマしないで、」
「はは、邪魔ぁ?…ッしないわけないだろって!!」
ぐん、と力を流して土生を横へ投げる。
しかし、そんな動作は土生にはなんの意味もなさなかった。
「ああ、くそ。もう。ほんとヤバいなのに手ぇ出しちゃったなぁ、」
「はぁ、はぁっ、」
廊下を走る。けれど、足は止まりキョロキョロと周りを見渡した。
「、ここ、どこ?」
もともと、迷子気質な小池。加えて転校して間もない、どう運ばれてきたかも分からない一室からどうすればグラウンドに迎えるのかパニックになっていた。
「だにが死んでまうっ」
とりあえず下に降りようと、目の前の階段を駆け下りる。学校の生徒はみんな体育祭で外だ。
屋内に助けを求められる人なんていなかった。
理佐「……溶けそう、」
愛佳「うちらは灰だよ、りっちゃん」
理佐「あ、そうかぁー」
何度目かの高校生。何度目かの体育祭。
ため息が出るほどの晴天。
吸血鬼だけじゃない、人間だってダメになりそうだった。
だらー、っと木陰に項垂れる2人を土生は眺める。
土生「大丈夫?」
愛佳「はぶー、なんでそんな涼しい顔してんだよ腹立つな」
理佐「やめて愛佳。暑苦しい」
愛佳「はー、?まじ帰りたい。帰る?」
理佐「帰れないでしょ、やめてそういうの」
暑さのせいか、だらだらと互いに思いのぶつけ合いをしている。
喧嘩にならないのは仲がいいからなのか暑いからなのか。
土生「みいちゃん、大丈夫かなぁ」
理佐「あぁ、チーム違うんだっけ?」
土生「そう。みいちゃんとおだななが一緒。私は鈴本と一緒だよ」
愛佳「うわ、びみょう。」
しかし、暑い。本当に地球はどうなってしまうんだろう。規模の大きすぎる問題に八つ当たりしてしまいそうだった。
理佐「今、なんの競技?」
土生「えっと、借り物競争かな。理佐も愛佳もでないんだね」
愛佳「うちらは最後のリレー組だよ、それまではとりあえず休みかな、たぶん」
パン、とスタートを知らせる音が聞こえて、応援する声が上がる。
何度目かの体育祭なんて、どちらが勝つとか負けるとかあまり気にならなかった。
けれど、そんなこと堂々とは言えないし、言うつもりなんてない。
そんな中、土生が熱心にグラウンドを見つめるのは
小池が、借り物競争に出ているからだ。
「愛佳ー!」
「げ、茜だ」
「ちょっと愛佳!早く来て」
「なんだよ、違うやつでいいじゃん!」
「いーから!」
「はあ!?うわ!」
ギャーギャー騒ぎながら、愛佳は軍曹、元い、茜に引っ張られて行ってしまった。
「大丈夫かな、愛佳。一体なんの借り物だったんだろ」
「愛佳なら上手く逃げてくるよ、たぶん」
サァ、と風が吹く。
その風に、暑さに項垂れていた視界が開ける。
体育祭。ここにいる人間は、人生1度の高校生活を送っている。 理佐は、それがとてつもなく寂しくなった。
「土生ちゃんはさ、」
「うん?」
「小池さんのこと見て、どう思うの?」
「……んー、食べたい。とか?」
素直だね、土生の答えに理佐は笑ってそう返す。
口元を覆って笑ったあと、グラウンドの学生たちを見やった。
あの人たちと、自分たちは違う。
そして、愛佳や土生達とも自分は違う…。
「……私は、そういう欲求があんまりないからさ、番と巡り会うのも正直羨ましいっていうか。…土生ちゃんは苦しいのかもしれないけど、」
「苦しいけど、それ以上になんかこう、心が弾むっていうか。色んなこと吹っ飛ばして、みいちゃんが欲しいって思うよ」
そのためなら、なんでもしたい。
なんとかしたい。
でも、傷つけたくはない。
「………」
「理佐も出会えるよ、きっと」
「え?」
理佐が視線を上げると、柔らかすぎる土生の笑顔が向けられていた。
「難しいこと考えられないくらい、好きな人」
ざわっと、周囲の声色が変わって、
土生は視線をグラウンドに戻す。
順番待ちをしていた小池は、借り物に指名されその列から引っ張りだされていた。
2人が手を繋いで走り出した瞬間、小池の靴が脱げその場に倒れ込んでしまった。
「ッみいちゃん!」
「待って!土生ちゃん、今行ったらダメだよ」
「……っ」
それでも、小池は直ぐに立ち上がり再び走り出す。2着でのゴールだった。
「………血、出てる、」
「……理佐、離して。」
「えっ、ぶわっ!」
腕を掴んでいた理佐の手を、土生は振り払う。抑制が効かないその力に、理佐は軽く体が浮いた、
「理佐!」
「っ、愛佳、?」
「大丈夫か」
「、平気。ありがと」
倒れ込む理佐をどこからか駆けつけた愛佳が受け止める。
倒れた程度じゃ大した怪我もしないのに、理佐の返答に安心した顔をする愛佳にキュンとしてしまった。
「愛佳イケメンすぎ、」
「…はいはい」
理佐を下ろして立ち上がる。
既に土生はいなくて、グラウンドにいたはずの小池すら姿を消していた。
「てかもういねえし、大丈夫かよ土生」
「追おう、愛佳」
「ったく。あれは?おだななは?」
「だに?小池さんと同じだったよね?」
「…っ、土生ちゃん…?」
「大丈夫?みいちゃん」
「そんな血相変えてこんでも、こんなんかすり傷やで」
「……」
「てかここどこ?早いなぁ土生ちゃん瞬間移動みたいや」
誰もいない教室。使う予定のないそこは、外からの陽の光だけで照らされていた。普段見る教室よりなんとなく薄暗い。
土生は怪我をした小池を、こんなところではなく救護室に連れていく、つもりだった。
「あかんなぁ、外戻らんと。いてて」
「………、」
小池の幼いあまい声が響く。
正気に戻ろうと引っ張る理性を隅に、土生の目は、血を滲ませる手のひらに吸い込まれてしまう。
冗談めかした『食べたい』は、本心だ。
その肌に、その血に。
爪を、牙を、立てて。
全てを、貪り尽くしたいーーー。
「っ!?土生ちゃん!なにして、?」
あぁ、ぐらぐらする世界。
脳の八割が本能で埋め尽くされる。
残りの2割が、小池の声を理性に届けてくれる。
目の前には、しゃがみこむ小池。
まるで、性行為のように、土生は小池の足の間に体を入れ込み、
戸惑う小池の手を取った。
頭の隅の2割が、小池の手の震えを伝えてきていた。
ーーーだめ、、だめだ。
みいちゃんが、怖がってる。止めなきゃ、止まらなきゃーーー
警告を鳴らす自我はなんの役にも立たなくて、その赤い血に、舌先を伸ばす。
その血を微塵にでも感じられたなら、、、
ーーーーー!!!!
「ってー。」
「だに!?」
小池が恐怖に目を閉じた瞬間、重い音が響き渡り、身近にあった体温が消えた。
そして、間延びした声が届いて、目を開く。
「大丈夫?美波」
「だにぃ、、」
敢えて明るい声と笑顔を見せる織田に、小池はわけも分からず泣きそうになった。
頭を撫でられて、手を引かれる。
ゆっくりと立たされた視界の先には、土生が崩れた机たちの中から立ち上がる姿があった。
土生「………、」
織田「怖いよ、土生ちゃん」
土生「ーー、おだなな、邪魔するの」
織田「……する。こんなやり方、邪魔するしかないでしょ」
土生「ちがう、こんなつもりじゃなかっタ、から」
1人で来るんじゃなかった、と織田は心の中で舌打ちをする。しかし、呼んでくる余裕もなかった。競技中じゃなきゃ、携帯だって持っていたのに。
「……美波。鈴本美愉、分かるよね?」
「うん、」
「走って、呼んできて。土生ちゃんは私が止めるから」
出来れば、愛佳と理佐も呼びたいところだけどそんないくつも要求している場合じゃない。
ぐらぐらと体を揺らす土生は、いつ小池を襲いに飛んできてもおかしくない。
ギリギリの理性が踏みとどまらせているだけだ。
小池がドアに走り出すと同時。土生が動き出す。
織田は小池を守るように正面から止めにかかった。純粋な力勝負。
本能に駆られた吸血鬼に勝てる確信など、なかった。
「……っぐぅ」
「ジャマしないで、」
「はは、邪魔ぁ?…ッしないわけないだろって!!」
ぐん、と力を流して土生を横へ投げる。
しかし、そんな動作は土生にはなんの意味もなさなかった。
「ああ、くそ。もう。ほんとヤバいなのに手ぇ出しちゃったなぁ、」
「はぁ、はぁっ、」
廊下を走る。けれど、足は止まりキョロキョロと周りを見渡した。
「、ここ、どこ?」
もともと、迷子気質な小池。加えて転校して間もない、どう運ばれてきたかも分からない一室からどうすればグラウンドに迎えるのかパニックになっていた。
「だにが死んでまうっ」
とりあえず下に降りようと、目の前の階段を駆け下りる。学校の生徒はみんな体育祭で外だ。
屋内に助けを求められる人なんていなかった。