Succubus
最近、理佐はふらっと姿を消してしまう。
それはカフェだったり、ラウンジだったり、気づけば教室で呆けていたりする。
話しかければ返事はくる。笑顔も見せる。なのにどこか、虚ろで。
「ねぇ、愛佳。理佐大丈夫なの?」
「あー、やっぱ変?」
「なにがってわけじゃないけど、最近ほら。いい噂も聞かないしさ」
「……そうだね、」
そんなのは、数日経てば気づくやつも増える。
噂は噂だ。 けど、それは多くの人に影響するし、理佐への関わりも変わるだろう。
ねると同じ。
噂を本当だと鵜呑みにして、近づくやつだっている。
「………。あれ、てか理佐どこだ、」
友人と話をしている間に、理佐は講義を受けた教室から出ていってしまったようで迎えに来た愛佳から理佐の姿は見当たらなかった。
「うそだろ、待ってろって言ったのに」
終了の鐘から、そう時間は経っていない。
愛佳は小走りで理佐を探しに回った。
「っ!」
『、あ?なんだ、お前か』
「え?あ、すみません!」
キョロキョロと見渡していたせいで目の前を横切った人にぶつかる。
その人に目を向ければ、いつかの先輩2人組だった。
『あ、理佐ちゃんと一緒にいた子だ。愛佳ちゃんだっけ?』
「あ、はい。あの時はありがとうございました」
『別に大したことしてねぇよ』
『お友だちとは会えたの?』
「はい、あ、私じゃなくて理佐が会えたんですけど」
『あいつが探してたんだろ?良かったじゃん』
「……はい」
『あ、でもその子が今度色んな子と遊んでるみたいだね、いだっ!』
いくおの肘がかずやの脇腹に刺さる。
痛がる姿に目もくれずに、いくおは呆れた声を漏らした。
『あんな湿気た顔したやつの何がいいんだか。』
『あの顔がいいんじゃない?やっぱ女の子にしか分からないこともあるだろうし、その辺は俺ら適わないよねー』
『はあ?女が俺で満足しねぇわけねえだろ』
抱く、抱かれる。
理佐はきっと、どっちにもなれるんだろうな…なんて、他人事のように感じてしまう。
ぼやっと眺めていたら、先輩2人は『マイ』という人のことを思い出したようで慌てたように去っていった。
「うーん。やっぱりっちゃんは攻めかなぁ。受けもありだけど……」
「何言ってんの」
「うわ!りっちゃん!?」
急に近くで声が聞こえて体が跳ねる。探していたその人が真後ろに立っていた。
「…さっきの、いくお先輩?」
「え?あ、うん。そうそうそう」
「?、なに慌ててんの?」
理佐の反応から、独り言は聞こえてなかったようにも思えて少しだけ安心する。
友人を受けだの攻めだの言うのは、あまり良くなかったと心の中で反省した。
「ど、どこいってたの?探してたんだけど」
「え?ああ、ごめん。なんだっけな、なんか女の子に呼ばれて…」
よく知らない子だったんだけど誘われてさ……と理佐の言葉が続く。その言葉に、愛佳はドキリとする。
ーー噂は噂。そんなこと、あるはずがない……
ボヤけた意識が浮上するとともに、ズキズキと重い痛みが頭を襲う。
「……っ、いた、」
「ーーりさ」
、誰…?
「好き、なの。りっちゃん、」
「ーーー、」
ボヤけた頭が、相手の声を拾う。
あまい声と酷い頭痛で、頭は混乱していた。
馬乗りになっている相手の手に腕を取られる。
引かれた先で柔らかい肌に触れて、その、柔らかさに経験の乏しい私でもそれが普段隠された部分であることは分かった。
「……っ、んん!」
「ふ、んぅ…」
そうしてそのまま、唇を塞がれる。
粘着質な音が漏れて、背筋が痺れた。
ーーー違う。
あの、求めてやまないソレとは違う。
ーーーこのひとは、だれだ、?
視界は、天井とその人で埋められるけれど、顔はよく認識できなかった。
「ねぇ、抱いて…?」
「ーー…、……うん、」
涙を浮かべた必死な姿が自分のようだった。
部屋を覆うのは
気持ち悪いほどの、性に埋められた空気。
「あぁ、りさ…!」
酷い頭痛を押しのけるように
その肌を貪り、
感情を置き去りにして、行為を進める。
ナくそれは、満たされていたようだったけれど
理佐を埋めるのは、ただの行為に伴う生理現象だけだった。
ーーしばらく前に、夢で、君を抱いていた。
行為が同じでも、全然違う。
君の中で、大多数の中のひとりなら
それを否定することなんて出来ない。
それがどんなに悲しくても、事実なのだから。
でも、頭から、
君の声も、肌も、熱も、……君の全てが離れない。
大切な記憶なのだと思う。
でも、もう。
蓋をした心を、空っぽにした心を、こじ開けて満たそうとするから
離れないなら、上から塗り潰そうーーー。