Unforgettable.
そのあとの記憶は曖昧で、皮膚が破かれたと共に身体が熱くなって。その熱に溶かされるように意識は遠ざかったように思う。
ブツっと破かれた後の、耳の奥に残る音は形容し難いけれどハッキリと残っている。なのに、形として残っていないからかその記憶さえ現実だったのか疑ってしまう。現実なのか夢なのか、首元の痕跡が消えてしまった以上確証が持てなくなってしまっていた。
ーーー疲れとるんかな。
その記憶が夢ならば、特に何があった訳では無いのだけれど、あまりにも現実離れしたそれにそう思うしか気持ちの逃げ場がないように思えた。
「ーーねる」
「!てち」
図書室のドアから顔を出したのは、幼なじみの平手友梨奈だった。その見慣れた存在にねるは少しほっとする。
「今日、一緒に帰ろ。部活休みなんだ」
部活動に参加している友梨奈とは、家の方向が同じでも時間が違う。そのため約束がないとなかなか一緒には帰れない。
「……?」
「ねる?」
ーーなにか、忘れてる気がする。
「なんか用事あった?」
「あ、ううん。うん。帰ろ、てっちゃん。待っとるけん」
「よかった。じゃあまた放課後ね」
そういって友梨奈と別れる。
友梨奈はクラスも学年も違う。自分を追うように同じ学校に入ってきたと思ってるのはたぶん自惚れではない。
そうしてまた図書室にひとりになる。何か忘れてると思ったあの違和感はなんだったのか、ねるは再度思い返すけれど答えは見つからなかった。
「…やっぱり疲れとるんかな」
きっと疲れているんだ。心当たりはないけれど、塵も積もれば山となるとも言う。知らず知らずに溜まっているのかもしれない。今日はゆっくりとお風呂に浸かって早めに寝ようと決めた。
◇◇◇◇
何となく予感はしていたけれど、やはり頭がぼーっとしたまま1日の授業が終わってしまった。隣の席の子が教員の目を盗んでつついてきてくれて、その度に気を引き締めていたけれど同じことの繰り返し。ねるにとってこんなことは初めてだった。
ーーーダメだ、休もう。
友梨奈と帰る約束をしたけれど、行かなければきっと教室まで来てくれるだろう。相手に求めてしまうのは申し訳なかったけれどその気持ちとは裏腹に、ボヤけていた意識は机に突っ伏すると同時に完全に途絶えた。
『ーーねる、』
……?
『理佐』
理佐とてちだ。
ねるのこと見えてないみたい…
ちがう。
ゆめやけん、ねるが2人のこと見てるだけなんだ
『…平手、もう止めたほうがいいよ』
『なんでそんなこと言うの。私は私の役を全うしてるんだよ。理佐に止められることじゃない。そんなの知ってるじゃん』
『でも、…壊れるよ……ーー、も』
なんだろう、なんの話しとるんやろ
ふたりとも悲しそう…
『ーーは……がまも、、。理佐は理佐をーでしょ』
『………わたしは』
あっ、
ふたりが消えちゃう
待って。
『……ねるが大切なんだーーー』
ーーービクッ
身体が跳ねて、さっきまでの世界と目の前の現実との差についていけなかった。
「……教室、、?あれ?」
ここは、どこだっけ。教室だ。なんで、教室にいるんだろう、今何時?授業はーー?
そうだ、理佐は?あれも夢?
「ーーねる?」
「!」
後ろから声が聞こえて振り返ると、友梨奈が座っていた。
「大丈夫?」
「…てち、?」
「いっしょに帰ろうって約束してたんだよ。覚えてる?」
「あ、、、っうん。ごめんね、てっちゃん。なんか疲れてるのかぼーっとしてて」
慌てて謝るねるに友梨奈は笑顔を返す。
「いいよ、大丈夫だから帰ろ?心配だから家まで送るし」
「…うん。ごめんね」
家の方向は同じで比較的近い。しかしそうは言っても学校からは友梨奈の家の方が近かった。ねるの家まで回るのは友梨奈にとって遠回りだということは分かっていたけれど、いつもと違う自分についていけなくて友梨奈の好意に甘えるしかないと思った。
まだ、頭はぼやけているけれど、これ以上待たせるのは悪いし待たせたところで改善するとは思えず、立ち上がって荷物を持つ。それに合わせて友梨奈もカバンを背負い、教室のドアを開けた。
友梨奈が先に出て道を開けてくれる。友梨奈はそういう気遣いが上手い。さりげなくエスコートしてくれる。
それなのに時折子供らしさがでるものだから、同級生や先輩にもファンが多い。本人はそれをあまり喜んではいないようだけれど。
そんなことを考えながら、友梨奈の譲ってくれた道を抜け廊下を歩く。
友梨奈を挟んだ反対側の廊下に理佐がいたなんて、ぼやけた頭のねるには気づけなかった。
「分かってるでしょ、理佐」
「………」
友梨奈が理佐にだけ届くような声で呟く。
理佐はそれに答えずに、視線だけをねるに向けていた。
ブツっと破かれた後の、耳の奥に残る音は形容し難いけれどハッキリと残っている。なのに、形として残っていないからかその記憶さえ現実だったのか疑ってしまう。現実なのか夢なのか、首元の痕跡が消えてしまった以上確証が持てなくなってしまっていた。
ーーー疲れとるんかな。
その記憶が夢ならば、特に何があった訳では無いのだけれど、あまりにも現実離れしたそれにそう思うしか気持ちの逃げ場がないように思えた。
「ーーねる」
「!てち」
図書室のドアから顔を出したのは、幼なじみの平手友梨奈だった。その見慣れた存在にねるは少しほっとする。
「今日、一緒に帰ろ。部活休みなんだ」
部活動に参加している友梨奈とは、家の方向が同じでも時間が違う。そのため約束がないとなかなか一緒には帰れない。
「……?」
「ねる?」
ーーなにか、忘れてる気がする。
「なんか用事あった?」
「あ、ううん。うん。帰ろ、てっちゃん。待っとるけん」
「よかった。じゃあまた放課後ね」
そういって友梨奈と別れる。
友梨奈はクラスも学年も違う。自分を追うように同じ学校に入ってきたと思ってるのはたぶん自惚れではない。
そうしてまた図書室にひとりになる。何か忘れてると思ったあの違和感はなんだったのか、ねるは再度思い返すけれど答えは見つからなかった。
「…やっぱり疲れとるんかな」
きっと疲れているんだ。心当たりはないけれど、塵も積もれば山となるとも言う。知らず知らずに溜まっているのかもしれない。今日はゆっくりとお風呂に浸かって早めに寝ようと決めた。
◇◇◇◇
何となく予感はしていたけれど、やはり頭がぼーっとしたまま1日の授業が終わってしまった。隣の席の子が教員の目を盗んでつついてきてくれて、その度に気を引き締めていたけれど同じことの繰り返し。ねるにとってこんなことは初めてだった。
ーーーダメだ、休もう。
友梨奈と帰る約束をしたけれど、行かなければきっと教室まで来てくれるだろう。相手に求めてしまうのは申し訳なかったけれどその気持ちとは裏腹に、ボヤけていた意識は机に突っ伏すると同時に完全に途絶えた。
『ーーねる、』
……?
『理佐』
理佐とてちだ。
ねるのこと見えてないみたい…
ちがう。
ゆめやけん、ねるが2人のこと見てるだけなんだ
『…平手、もう止めたほうがいいよ』
『なんでそんなこと言うの。私は私の役を全うしてるんだよ。理佐に止められることじゃない。そんなの知ってるじゃん』
『でも、…壊れるよ……ーー、も』
なんだろう、なんの話しとるんやろ
ふたりとも悲しそう…
『ーーは……がまも、、。理佐は理佐をーでしょ』
『………わたしは』
あっ、
ふたりが消えちゃう
待って。
『……ねるが大切なんだーーー』
ーーービクッ
身体が跳ねて、さっきまでの世界と目の前の現実との差についていけなかった。
「……教室、、?あれ?」
ここは、どこだっけ。教室だ。なんで、教室にいるんだろう、今何時?授業はーー?
そうだ、理佐は?あれも夢?
「ーーねる?」
「!」
後ろから声が聞こえて振り返ると、友梨奈が座っていた。
「大丈夫?」
「…てち、?」
「いっしょに帰ろうって約束してたんだよ。覚えてる?」
「あ、、、っうん。ごめんね、てっちゃん。なんか疲れてるのかぼーっとしてて」
慌てて謝るねるに友梨奈は笑顔を返す。
「いいよ、大丈夫だから帰ろ?心配だから家まで送るし」
「…うん。ごめんね」
家の方向は同じで比較的近い。しかしそうは言っても学校からは友梨奈の家の方が近かった。ねるの家まで回るのは友梨奈にとって遠回りだということは分かっていたけれど、いつもと違う自分についていけなくて友梨奈の好意に甘えるしかないと思った。
まだ、頭はぼやけているけれど、これ以上待たせるのは悪いし待たせたところで改善するとは思えず、立ち上がって荷物を持つ。それに合わせて友梨奈もカバンを背負い、教室のドアを開けた。
友梨奈が先に出て道を開けてくれる。友梨奈はそういう気遣いが上手い。さりげなくエスコートしてくれる。
それなのに時折子供らしさがでるものだから、同級生や先輩にもファンが多い。本人はそれをあまり喜んではいないようだけれど。
そんなことを考えながら、友梨奈の譲ってくれた道を抜け廊下を歩く。
友梨奈を挟んだ反対側の廊下に理佐がいたなんて、ぼやけた頭のねるには気づけなかった。
「分かってるでしょ、理佐」
「………」
友梨奈が理佐にだけ届くような声で呟く。
理佐はそれに答えずに、視線だけをねるに向けていた。