Succubus


触れる肌が熱くて、見つめる瞳が熱くて
頭が沸騰するかと思うくらい心臓が血液を掻き乱していく。

自分の心臓の音で、周りの音がかき消されるのに、なぜかねるの声だけは
何にも紛れずに、何にも汚れずに。私の耳を伝って脳を揺さぶってくる。


柔らかい肌が、汗で手に張り付く。

気持ちのいいところに触れれば、少し震えて、色づいた声といっしょに
私をどんどん追い詰める。

追い詰めていく行為のはずが、それは逆にわたしを追い詰めてきていた。








ねるの体が一際大きく震えて、私をぎゅうぎゅうと締め付ける。
ふたりでゆっくりと脱力した。



少しして、弱々しく腕が伸びてきて
ねるが私を抱きしめる。

首元に顔を埋めて、力なくしがみついてくるねるに


私はまた、



欲情していたーーー







◇◇◇◇◇◇◇◇



ーーーー、、、



『おーい、理佐ぁ?』


「……、……………まじか、」



ドアの向こうから愛佳の声が聞こえる。

カーテンの向こうから陽が差し込んでいて部屋が明るい。


朝、だ。






アレは、ゆめ。

ゆめ。

夢。


……………。



「っ、思春期かよぉおおっ!」



うずくまって布団を被る。なるべく声が響かないように枕に顔を埋めて叫んだ。



血が昇って頭が痛い。
心臓がバクバクして、頭が混乱してしまいそうだった。


(あれは夢。あれは夢。あれは夢…夢ゆめゆめ……)



ーーーりさ、


「ーーーー!!!」





ねるの声が、反響する。
いつまでも出ていかない。

片思いって、こんなに辛かっただろうか。
それとも、ねるを下心でしか見れていないのか。
もしくは、そんなことばかり求めてしまってたのか。



答えなんて、見つからなかった。


愛佳の声が聞こえるけれど、それよりもねるの声が世界を揺さぶってくる。

もう、どうしたらいいんだ、、、



少し泣きそうになって、私は部屋を飛び出す。いつかの日のようにシャワーを被った。


雑念を追い出すように、
自分の世界を埋めていくことに必死になる。


「あーもう、マジ最低なんだけど。ありえないんだけど。いやねるはかわいいけどそうじゃなくて私が最低すぎるでしょ、だってそういうことじゃん、そういう目で見てるってことじゃん。そういう目で見てないわけじゃないけどそうじゃなくて、うおぁああ、、、」






悶々と自問自答を繰り返して、やっと水が体の熱を冷ましてくれたころ、
見かねた愛佳に腕を引っ張られてふろ場から引きずり出されてしまった。


「なにしてんの、」



ガシガシと頭を拭かれて、ボサボサ頭のままの私に愛佳の呆れた声が降ってくる。
あまりにやましくて、目を合わせられなかった。



「ごめんなさい。水道代は払います」

「ちげーよ!」

「………」



エロい夢見てたなんて言えない、。
しかも友達のねる相手なんて。

どこからどう考えても、最低すぎる。。。



「………、大学は?」

「え?あ。行く」

「じゃあ、ほれ。行くよ」


ぽいっと渡されたのはいつも持って行く鞄で。
時間を確認すればもう2時限目も始まっていた。


……待っててくれたんだ、愛佳。



どっかで何か食べて行こー、と言われて愛佳を追いかける。
そういえば、今日も私が朝当番だったんだ……。













「まあ、そうなるよな」

「………、」


体調が悪くて熱を測ると、38℃の発熱。所謂、風邪をひいた。
風邪をひくなんて何年ぶりだろう。

体かしんどくてたまらなかった。

朝から起きれない私の横で、支度を済ませた愛佳が頭を悩ませる。




「うーん。私も今日は休めないし下手したら帰って来れないんだよな、」

「…大丈夫だよ、。子供じゃないんだし。ひとりでへいき。」

「……そうは見えないし、そうは思えないよりっちゃん。ごはん食べる気もないでしょ」



………だって食欲無い。。。


黙っていたら、愛佳のため息が聞こえてきてバレてしまったと分かる。
でもこれ以上迷惑かけるわけにいかなかった。


「だいじょうぶ。たべる。」

「ほんとに?」

「……うん。」

「………。まあ、でも。悪いけど私も行かなきゃだし。誰かしら寄越すから。誰か来るだろうけどいいよね?」

「……ぅん、」



じゃあ、行ってくるから。ちゃんと寝とけよ。
そう言って愛佳はドアを閉める。少しして玄関の音がして、一気に音が消えた。


ぼー、とする頭で考えてみる。

だれが来るんだろ。
美波かな、あぁ、でもそしたら土生ちゃんも来るだろうし2人に移ったら大変だから
違うか。

そう考えていくと、みんなペアで来てしまいそうで案が消えていく。

ひとり、、、そう考えて思いついたのはねる、だった。


別に友達はいっぱいいるんだろうけど、なんだか、今1人なのかなとか思ってしまう。



ひとり、ならいいのに。


きっと、淋しくて私のこと心配してくれる。

待っててくれたり、する。





好きな人に必要とされたいからって孤独を願うなんて、自己中心的な考え。



「はは、さいてー。」




その言葉は、誰もいない空間に響いて私の耳にだけ届いた。




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