Unforgettable.


『なにしてんの』



気持ちが負けてしまいそうなくらいに澄んだ空と日常の雑音だけの世界に、声が響く。

主語はない。それでも、自分に向けられていることも何に対して発されたのかも分かっている。



『……別に。見たらわかるじゃん』

『理佐が今屋上で寝っ転がってることなんて見りゃ分かるけど、そんなこと聞いてないことも分かってんでしょ』

『…………』




わかってる。
分かっては、いる。

それでも、答えたくない。




『ねる、怖がってたじゃん』

『そうだね』

『………理佐がやったの?』

『…………、、、』




理佐の心と、目の前に広がる空はあまりにも違いすぎて
夕立ちでも来たらいいと思う。



『ねえ、愛佳』

『………なに』

『夕立ち、来ないかな』

『…………うちはゴメンだね』

『ふふ、そうだよね』


問いには答えなかったけれど、愛佳はさして気にしていないようだった。
答えなんか期待してなかったと言うよりも、答えなんてわかりきっているかの様で。



理佐は上体を起こし、愛佳へ振り返る。



『大丈夫だよ、愛佳』

『あっそ。まぁ、なんかあれば言いに来なよ』

『……うん』


笑顔にはなれなかったけど、それを追求してこない距離感はとてもありがたかった。









愛佳は好んで日に当たりに来ない。しかもこんな晴れた日に。

それなのに屋上まで来たのは、自分を探しに来たのだと分かっている。

立場としてだけでなく、友達として。




『…………』



昨夜のねるを思い出す。

血に濡れたねるを抱えた時には、自分の決心が揺らいでいた。

固く固く、心を閉じたはずだったのに。

もっと強く、もっと固く、、、
そんなこと分かっているけど、これ以上心を閉ざす方法なんて今の理佐には分からなかった。


グラグラ揺れる心をどうするべきなのだろう。



その答えも分からないままに、離れていくねるが哀しくて
朝は追いかけて捕まえてしまった。

放課後まで、約束を取り付けてしまった。



ーーーあんなの、約束にもならないか…



返事もなかった。

昨夜の記憶があのままなら、自分との約束なんて無くしてしまいたいだろう。





『理佐』


愛佳の声が響いて、ハッとする。


『………なに』

『平手は、ねるにするつもりだよ』

『……分かってる』

『覚悟つかないんなら、ウチも行くから』

『………』




ーーーー多くを望むつもりは無いのに、

たったそれだけが手に入らない。



だから、

君の一部にでも残れたらいい。



それの価値は、私が決めるーーー

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