家庭教師×生徒
「あ、」
「、こんにちは」
「こんにちは。お疲れ様、部活帰り?」
「はい」
ねるとの相合傘から数日後。みぃちゃんは今日も塾かぁなんて考えながら帰っていた途中で出会ったのは、先日初対面をした先輩だった。
「、小林さん」
「よく覚えてるね、若い」
「変わらないじゃないですか」
「高校生の若さは特別だよ、高校生ってだけで特別」
「あはは」
分かる。って思う。
誰かも言っていたし、客観的に見て、本当私たちってすごく大事な時期と特別感を持っている。
「土生ちゃんだよね?」
「小林さんだって覚えてるじゃないですか」
「あの状況じゃ覚えるよ。背の高い、イケメンがいるなって思ったしね」
「ふふ。小林さんもモテそうですよね」
「土生ちゃんに彼女がいなきゃ遊んであげたのにな」
「あはぁ、残念です」
いつか、それが終わって。
小林さんみたいに、『特別だから』って言う時が来るんだろうか。
それは大人になるということだけど寂しいとも思う。
「ねるちゃん元気?」
「凹んでましたよ、渡邉先生と少し拗れてるみたいで」
「ふうん、」
「子供って言ったの、小林さんですか?」
「……、ねるちゃんが言ってた?」
「いいえ、誰とも言ってないです。でもすごく悲しんでたから。そういうこと言えるのって身近な先輩じゃないですか」
「…そうだね」
「ねるはもう帰っちゃいましたけど、心配で来たんですか?」
「心配……かぁ」
「……」
「まぁたしかに、君たちが下手なことして減点されないかは心配」
ねるは、大学に嘘の理由で忍び込んだ。
それは嘘だとバレれば。
もしくは不正だと思われたなら。
学力的に難しくない大学にも、何らかの支障が出る。そうなったら、確実さは薄れてしまう。
「それを忠告してくれたんですね」
「ていうか、ガキがウロチョロしてるの好きじゃないんだよね、ガキは自分をガキだと思ってない。あの時のねるちゃんも、自分のこと子どもだって分かってなかった」
急な毒舌。
でも小林さんは、本当に嫌そうで。友人がバカにされた気がして私も眉間に皺を寄せた。
「……私たち、子どもじゃないですよ」
「…ふふ、土生ちゃんもそうなんだ?」
「大人になったら、好きな人のことで夢中になったりしないんですか?」
「……」
「仕事とか他人のこと気にして、子供じゃないからって身動き取れないのが、大人なんですか?」
ねるは、間違ってるのかな。
私も、みいちゃんのことになったら、部活も進路も手放して走っていける自信があるけど
それは大人になったらしちゃいけないことなのだろうか。
少しムキになる私に、小林さんは近づいて手を伸ばす。
頭を掴まれて少し引かれる。気づけば眼前に、自信満々に勝ち誇った、とんでもない美人が微笑んでいた。
「そういうこと言うのがガキなんだよ」
「──……」
にっこり口角を上げ、私を真っ直ぐに見る。
たった数年、高校生と大学生の差。
ねるちゃんには来たこと言わないでね。
そう言って背を向けた小林さん。
私はあと数年のうちに、この意味を理解できるんだろうか。
高校生は特別だと理解していたつもりなのに、結局その特別さにあぐらをかいていただけだったんだ。特別は、大人が付けた都合のいい名称で、つまりは大人になれないただのガキなんだと、嫌気がさした瞬間だった。
机の上に広げたテキストたち。
床に落ちたシャーペン。
しわくちゃになる服。
肌を流れる雫は透明で、少し浅くなる呼吸が耳に触れる。
君は鼻先を赤くして、下唇を噛む。
ねぇ。
触れたいんだ。
先生なんて肩書きぶん投げて、
高校生なんて忘れ去って。
触れて、撫でて、キスがしたい。
そんな欲望を、必死に隠して、
高校生の君が、下手なことをしてしまわないように道を示す。
私がしたいことと、すべきことは真逆。
欲と役があまりに違いすぎて、少しでも引き戻されたなら
私は、すぐ君に手を伸ばしてしまうのに。
「………理佐、触って」
音を立てて、崩れ去る。
「抱きしめてよ」
理性が、ねるに剥ぎ取られる。
「、こんにちは」
「こんにちは。お疲れ様、部活帰り?」
「はい」
ねるとの相合傘から数日後。みぃちゃんは今日も塾かぁなんて考えながら帰っていた途中で出会ったのは、先日初対面をした先輩だった。
「、小林さん」
「よく覚えてるね、若い」
「変わらないじゃないですか」
「高校生の若さは特別だよ、高校生ってだけで特別」
「あはは」
分かる。って思う。
誰かも言っていたし、客観的に見て、本当私たちってすごく大事な時期と特別感を持っている。
「土生ちゃんだよね?」
「小林さんだって覚えてるじゃないですか」
「あの状況じゃ覚えるよ。背の高い、イケメンがいるなって思ったしね」
「ふふ。小林さんもモテそうですよね」
「土生ちゃんに彼女がいなきゃ遊んであげたのにな」
「あはぁ、残念です」
いつか、それが終わって。
小林さんみたいに、『特別だから』って言う時が来るんだろうか。
それは大人になるということだけど寂しいとも思う。
「ねるちゃん元気?」
「凹んでましたよ、渡邉先生と少し拗れてるみたいで」
「ふうん、」
「子供って言ったの、小林さんですか?」
「……、ねるちゃんが言ってた?」
「いいえ、誰とも言ってないです。でもすごく悲しんでたから。そういうこと言えるのって身近な先輩じゃないですか」
「…そうだね」
「ねるはもう帰っちゃいましたけど、心配で来たんですか?」
「心配……かぁ」
「……」
「まぁたしかに、君たちが下手なことして減点されないかは心配」
ねるは、大学に嘘の理由で忍び込んだ。
それは嘘だとバレれば。
もしくは不正だと思われたなら。
学力的に難しくない大学にも、何らかの支障が出る。そうなったら、確実さは薄れてしまう。
「それを忠告してくれたんですね」
「ていうか、ガキがウロチョロしてるの好きじゃないんだよね、ガキは自分をガキだと思ってない。あの時のねるちゃんも、自分のこと子どもだって分かってなかった」
急な毒舌。
でも小林さんは、本当に嫌そうで。友人がバカにされた気がして私も眉間に皺を寄せた。
「……私たち、子どもじゃないですよ」
「…ふふ、土生ちゃんもそうなんだ?」
「大人になったら、好きな人のことで夢中になったりしないんですか?」
「……」
「仕事とか他人のこと気にして、子供じゃないからって身動き取れないのが、大人なんですか?」
ねるは、間違ってるのかな。
私も、みいちゃんのことになったら、部活も進路も手放して走っていける自信があるけど
それは大人になったらしちゃいけないことなのだろうか。
少しムキになる私に、小林さんは近づいて手を伸ばす。
頭を掴まれて少し引かれる。気づけば眼前に、自信満々に勝ち誇った、とんでもない美人が微笑んでいた。
「そういうこと言うのがガキなんだよ」
「──……」
にっこり口角を上げ、私を真っ直ぐに見る。
たった数年、高校生と大学生の差。
ねるちゃんには来たこと言わないでね。
そう言って背を向けた小林さん。
私はあと数年のうちに、この意味を理解できるんだろうか。
高校生は特別だと理解していたつもりなのに、結局その特別さにあぐらをかいていただけだったんだ。特別は、大人が付けた都合のいい名称で、つまりは大人になれないただのガキなんだと、嫌気がさした瞬間だった。
机の上に広げたテキストたち。
床に落ちたシャーペン。
しわくちゃになる服。
肌を流れる雫は透明で、少し浅くなる呼吸が耳に触れる。
君は鼻先を赤くして、下唇を噛む。
ねぇ。
触れたいんだ。
先生なんて肩書きぶん投げて、
高校生なんて忘れ去って。
触れて、撫でて、キスがしたい。
そんな欲望を、必死に隠して、
高校生の君が、下手なことをしてしまわないように道を示す。
私がしたいことと、すべきことは真逆。
欲と役があまりに違いすぎて、少しでも引き戻されたなら
私は、すぐ君に手を伸ばしてしまうのに。
「………理佐、触って」
音を立てて、崩れ去る。
「抱きしめてよ」
理性が、ねるに剥ぎ取られる。