あなたの犠牲になる。


「あの子にする」


それは別に、すごく魅入られたとかあの目が好きだったとか、雰囲気が好みだったとかそういうんじゃない。

あの"売り物"の中で
魅入られる子も、心惹かれる子も、もっと別にいた。
雰囲気や目は、みんな死んでいたからそんなものに引かれることは無かったけれど。

ただ、なんとなく。
心の隅に引っかかるような感覚。
それを誰かが、『それを魅入られると言うんだ』というなら私は受け入れたと思う。
それくらい、小さな違和感だった。


「ほんとにあれにするんですか?」

「だめ?」

「ダメじゃないですけど、もっといるじゃないですか。アレ、目は死んでるしただ座ってるだけだし、売り物としちゃ底辺だしそれに……」

「……」

「……はぁ。別に反対するわけじゃないですよ。同情とか適当に選んでんじゃないのってこと」


付き添いできたその人の心配は最もだった。私はここに来ることに反対だったし、その行先も納得できるものじゃない。
救済だと銘打って、私は人を買い、人を使おうとしてる。

それは、国に認められていたとしても、人として、───でも、ここに来て選別している時点で、私も同じ…。

奴隷として買う人もいる。
使用人として買う人もいる。
ただの養子として買う人もいる。

……私は、私の代わりを買おうとしてる…。


「……あぁ、そういうこと?」

「え?」


何か気づいたようにその人が顔を閃かせる。さっきの怪訝な顔とは違う、分かった、って言う顔。
いやな、予感。


「底辺だから──!」

「……最低」

「……なに、違うの」


その先に気づいて、付き添いのその人を腕を叩く。睨みあげる私に、また怪訝な顔に戻った。



「早く手続き済ませて。もう帰る」

「…かしこまりました」


手続きに行った後ろ姿を見る。少しして、私の指名したその子は後ろに下げられた。
"売り場"に残るその人たちを見るのが辛くて、私はその場を逃げるように離れる。

手続きには拒否ができる、と聞いたことがある。
それはただ、私みたいに良心を痛める人間の戯言かもしれないけれど
それが可能だったらいい。私の買う行為も、同意があれば、許される気がしてる。














「あ、いた。全くどこ行ったかと思った」

「…早く帰ろ」

「待ってよ。私はまだしもこっちはそんなに体力ないんだから。選んだ以上、それなりに対応してやってよ」

「……」

『…………』


飢餓までいかないけれど痩せた身体。力なんて私より弱いだろう。
服はボロボロで、売り物としてはなりそこないとも言える。


「名前は?」

『……』

「お嬢様、この子達に名前聞くのは酷ですよ」

「なんで?」

「……売り物として並べられた時点で、この子達にそう言った権利はない。ぬいぐるみだって、買った子供が名前をつける」

「この子達はぬいぐるみじゃない」

「でも売り物です」

『……』

「………」


長い前髪に隠れて表情が読めない。
でもきっと、髪の毛が整えられていたってこの子の感情は読めない気がした。


車に乗って、足を進めないその子の手を引く。隣に座らせれば私よりも背が高くて驚いた。
小さくなっていたけれど、小さい訳じゃないんだ。


「……さっきはごめんね」

『……』

「………私、長濱ねるっていうの。よろしくね」

『…………』

「お嬢様」

「なに」


ガタガタ揺れながら車が移動する。
私の家に着いたら、お風呂に入れて身なりを整えよう。
そんなことを考えていたのに、さっきから邪魔するように入ってくるその人に、流石にため息が出た。
今度はなんだっていうの。挨拶もしちゃいけないの?



「その子、たぶん喋れないですよ」



「───え?」

『…………、』





──だから選んだんじゃないの?



そう言った付き添いのその人は、呆れ顔で私を見る。


そんなこと、知らなかった。分からなかった。

物言えぬその子に、私は"私の代わり"を押し付けようとしているのか。
否定も肯定も言葉に出来ず、受け入れることだけが選択肢のこの子に
私は───




『私の買う行為も、同意があれば、許される気がしてる。』




許されないこの行為を、私はこの子を犠牲にして、背負い生きなければならない。

売り物にされたのは、この子か、私の人生か、どっちなんだろう。



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