家庭教師×生徒
好きになっちゃう、?
彼女になったら自慢しちゃう、、??
「───」
誰だよ、このかっこいい人。
そう思ってすぐ思い出す。いつか見た、ねると買い物していた高校生だ。
背が高くて、かっこいい。きっとモテるんだろうなってすぐ分かる。
目の前の現実が押し出してくる答えを否定する材料が見当たらない。
え、しつれん、、ってやつ?
ねるへ抱えているこの想いが果たして恋心だったのか分からないけどなんて、バカみたいな思考が走り出すけど
この胸の痛みは、この蒼白感は、
私はショックを受けていて、それは確実にねるへ特別な思いがあったからで。
でも、ねるだって私に
なにか想ってくれていたんじゃなかったの、なんて。
どうにかして身を守ろうと最低な思考が回る。回る。
かっこ悪い。ちゃんと悲しんだらいいのに。
理性は目の前の現実を素直に受け入れろって言うのに、本能は防衛に走ってしまう。
「……えっと、」
「先生、なんでここに……」
「……あはは」
ここに、いちゃいけなかったの?
『邪魔してごめん、ほんと偶然だから』
『ねるの彼氏さん?家庭教師してる渡邉です。こんな子が彼女で羨ましいな』
『彼氏いるなんて知らなかったよ、教えてくれたら良かったのに』
そうしたら、こんな勘違いしないで済んだのに。
「───……、」
口に出しちゃいけない。
出た言葉は消せない。
ねるを傷つけるってわかってる。
後戻りは出来ないんだ。
分かってるのに今にも言葉が飛び出してしまいそうで、必死の抵抗に喉が痛くなる。
誰も、何も、悪くない。
強いて言うなら、私が勝手に浮かれて、喜んで、ねるへ触れようと思ってしまったことがいけなかった。私が勝手に、君への想いを分かってると思っていたから。
高校生だから、先生だから
そう言って逃げてる奴が何かを口にすることなんて出来ないだろうに。
ねるは、私を好きだなんて1度だって言ってないんだから──
「………」
ねる「…せんせい、あの…?」
理佐「──っその子…かれ「こんにちは」「ねるじゃん!何してんの!?」
ねる「!!」
声と同時、首から肩にかけて衝撃が走る。
愛佳が肩組するように体重をかけてきていた。
…そういえば、愛佳達と歩いてたんだった。愛佳がどこかに先走って、由依が手を焼いて、私はぼんやりとねるの高校近いなって思ってたんだ。
愛佳「久しぶりだね。ここの高校だったんだ」
由依「ねるちゃんの制服姿新鮮。かわいいね」
ねる「…、まなか、由依さん…」
土生「?ねるの知り合い?」
愛佳「お、イケメンだね」
ねる「えっと、家庭教師で来てくれてる先生と、その友人さん。こっちは土生瑞穂っていってクラスメイトです」
土生「初めまして。土生瑞穂です。ねるのクラスメイトです」
愛佳「へぇ。モテそうだね、経験人数何人?」
土生「え?」
由依「初対面でその質問最低」
土生「あは。こう見えて私一筋ですよ。みいちゃん以外に経験ないんです」
愛佳「………………?」
由依「……えーっと」
ねる「あ、土生ちゃんは女の子です。みいちゃんは土生ちゃんの彼女さん」
愛佳「…イケメンだね!!!?」
由依「うるさい」
土生「あはは」
女の子。
『みいちゃん一筋』
そっか。
ねるの彼氏じゃなかったんだ。
その事実に安心してしまう現金な私に呆れる。
愛佳は肩の力が抜けた私から腕を外すと自己紹介を改めた。
愛佳「志田です。家庭教師してるのはこっちの渡邉ね」
由依「小林由依です、初めまして。ほんとかっこいいね」
土生「私なんて子どもですよぉ。先輩たちのほうがかっこいいです」
理佐「………」
ねる「…先生、大丈夫ですか?」
理佐「、うん。ごめん、変なとこ見せて」
愛佳「ぁー、ごめん。大学から呼び出されててさもう行かなきゃ」
理佐「!」
愛佳はねるとの間に入ってきて、そのまま私の腕を引く。
合わせて由依もねるたちに背を向けた。
ねる「え?」
由依「また理佐から連絡させるから。またね」
ねる「………」
土生「ねるの先生、大丈夫かな」
ねる「………」
理佐「呼び出しって?」
愛佳「嘘に決まってんでしょ。ウチらが来なきゃ何言うつもりだったの」
理佐「……ごめん」
愛佳「……まぁ、土生ちゃんは彼女別にいるみたいだし、理佐が考えてるようなことはないみたいだし良かったね」
理佐「……、」
由依「でもほんと間に合ってよかった」
理佐「……ごめん。ありがとう」
愛佳「あとでなんか奢ってね」
由依「愛佳はほんと、そういう所だよ」
理佐「……」
あのまま口からこぼれていたらどうなっていたんだろう。
心臓が、冷えたまま、締め付けられて苦しい。
ねるが、誰かと並んで歩いている。たったそれだけに、私はこんなに苦しんで。
なら。もっと強く、ねるに手を伸ばして引き寄せていれば良かったんだろうか。
でも、……でも。
それは違うと思う。
けど、ねるが私以外の誰かを想い、誰かと歩くことがないなんてことは、ありえない。
理佐「……ねるが、ずっと私を想ってくれるなんてこと、ないんだよね」
愛佳「……」
由依「そうだね。誰かに取られるなんてことはあるかもしれないね」
理佐「……」
愛佳「高校生ってギリ犯罪だからなぁ。手ぇ出しちゃえとも言えないし」
由依「この間襲えって言ってた癖に」
愛佳「え?小林ってそういう趣味あったの?ひかるちゃん大好きだもんね、捕まらないよう気をつけて」
由依「お前がその記憶力で捕まらないことが奇跡だよ。ひかるの名前も呼ばないで、警察呼ぶよ」
愛佳「ひかるへの愛情馬鹿すぎるだろ」
理佐「そういえばひかるちゃん元気?会ってないな」
由依「元気だよ、変わりない。今後一緒にご飯いこう、理佐ならいいよ」
愛佳「私も行く!」
由依「愛佳はだめ。視線が犯罪。来たら警察呼ぶ」
ねる。
私も、由依みたいに、君を独占したいほどに愛情があればもっと……、、。
そう思って、何か違うなと思考を捨てる。
私と、ねるとの在り方は、誰かに寄せるものじゃない。
逃げて。
手を伸ばして。
また逃げて。
でも、手が届かないかもしれないことに酷く怖がって。
かっこ悪い。
私は、ねると。
長濱ねるという存在と、どうなりたいんだろう。
明確な答えなんてまだないのに
ねるが誰かに触れるとか想像もしたくない。
私がされたような、抱きしめたり、耳元で声を聞いたり、
あの、”熱”を
誰かが感じることが起こりうるなんて、許せない。
怒り、嫉妬、独占欲。
それが、何の感情の副産物かなんてきっと子どもだってわかる事だ。