家庭教師×生徒
「それはもう遊ばれてんのんちゃう?」
「私も思った」
「……」
学校の放課後。
みいちゃんの少し苛立ちを含んだ言葉に、ふーちゃんが乗っかる。
ねるの恋愛相談は、ほとんど愚痴のようなもので
先生はあんな思わせぶりなことをしたくせに、私の問いを突き放して
ねるが必死になって絞り出したことも、『先生』だからって逃げた。
ねるの予感していた通りの展開だった。
遊ばれてるとは思わない。けれどきっと、テンプレートよろしく、私は振られてしまう。
そんな気持ちの沈んでいく様子を汲んだふーちゃんが、ねるの肩を優しく叩いた。
冬優花「ごめんごめん。あとはそうだねぇ……すごいヘタレとかじゃない?自信がなくて手が出せない、とかさ」
小池「そういう人なん?」
ねる「そんな風に思ったことはなかけど…ねるに彼氏いるって思ってたくらいやけん」
冬優花「まぁ家庭教師で来て、自分のこと好きかもなんて思う人もアレだけどね」
確かに。なんて相槌をして。
私たちしかいない教室は、その相槌を最後に静かになる。
ねるが何かを言うべきなんだろうな、なんて思うけれど何も思いつかなくて。
何となく居心地が悪くなって、窓を見やる。陽は段々と落ちていって、教室の明かりは夕日に負けてオレンジ色になる。
先生に教えてもらったあの広いラウンジも、夕日に染っているんだろう。
先生は、今この瞬間あの階段から眺めていたりするかもしれない。
……会いたいな
冬優花「え?」
ねる「え?」
小池「!、土生ちゃんおつかれー」
土生「お待たせ」
部活を終えた土生ちゃんがジャージ姿のまま現れて、いち早く反応したみいちゃんの声にねるの独り言はかき消された。
椅子にカバンを置いて、『何話してたの?』と土生ちゃんが座る。
ねるが話すのをうんうんと聞きながら、土生ちゃんはゆっくりとペットボトルを傾けて水分を摂る。
話終える頃、ペットボトルの中身は半分を切る程になっていた。
土生「ふーん」
小池「どう思う?土生ちゃん」
いつもよく分からないことを発信しているけど、土生ちゃんは視点が違うだけですごく的を得ていることが多い気がする。
……本気で分からないことも多いけど。
そんな土生ちゃんの意見にねるは緊張した。
土生「そういうプレイとか、?」
ねる「────」
冬優花「………ぁー、……なるほど!」
ふーちゃんはソレな!と言わんばかりに土生ちゃんに人差し指を立てる。
いや、何がなるほど??
ソレな!やなかばい。
小池「ねるの好きな人がそういうタイプやったなんて知らんかったわ」
ねる「いやいや、なかよ!」
小池「わからんやーん。大学生やろ?ヤっとる人はヤっとるで」
ねる「先生はそんな人やなか!」
小池「ねるちゃん。大丈夫やで」
ねる「!?」
小池「せんせーやから、きっと優しく教えてくれるで」
ねる「そんなこと言ってなかったい!」
冬優花「まさかエロ教師だったなんて。ねるが大人の階段登ってたなんて知らなかったわー」
小池「分からんなら体に教えるしかないね、なんて言われてベッドに引きずり込まれるんや!」
冬優花「AVか!そこは『この答え、私の気持ちだよ』って優しくキスでしょ!」
小池「それは普通に意味わからん」
冬優花「え!!」
ねる「………」
夕日に染る教室が、はっちゃけとる…。
なんか、楽しそうやけんもうよか。
ねる「……はぁ、」
火種を打った土生ちゃんは、ふたりの話に混ざることはなく、いつもの笑顔を咲かせていた。
プレイ……、。
そんなことないとは分かっているけれど、先生のそれをそんなこと考えたこともなかったから、なんだか恥ずかしくなる。
先生は誰かと経験あるんかな、。聞いたことない。そう思って、当たり前か、とも思う。
デートした時、聞いてみればよかった。
もっと、先生のプライベートなことしれたら良かった。
先生の肩書きが外れたあの時しか出来なかったことが、ポツポツと浮かんできてしまう。
あれから、関係性はどこか変わったはずなのに
どこにもたどり着ける気がしない。
土生「でもさ、ねるのことちゃんと守ろうと思ってるんじゃないの?」
ねる「、」
土生「私たちってよく分からない時期だから。大事にしなきゃならないって言うじゃん」
そういえば、そんなことを先生とも話した気がする。
あのデートの日、優しい顔をした先生に照れて茶化してしまった記憶がある。あの時、先生はねるのことどう思っていてくれたんだろう。
「いや、ちゃうな」
顔の前で手を組んだみいちゃんはキラーんと目を光らせた。
「え?」
「エロい話は置いといて。そんなあやふやな態度とる先生信用ならん。その人も家庭教師クビにならんようにうやむやに逃げとるんちゃう?」
「みいちゃんどうしたの」
「ねるがそんな大人に振り回されんの黙ってられへん」
「……」
「土生ちゃん行こう!」
「え?」
え?
ねるの反応が出る前に、みいちゃんは勢いよく立ち上がり土生ちゃんの手を引いて教室から出ようとする。
え、待って待って。
行こうってまさか、先生のところ!?
「みいちゃん、待って!何する気?」
「その先生を確かめに行くんや。ねるんことどう思っとるか確認する」
「へえっ!そんなんいいけん!」
「このまま相手にされんで振られてええの?」
「!」
そりゃ、。
振られたくないけど、でも、
「みいちゃん駄目だよ」
「!」
「これはねるの問題。私たちが暴走しちゃ駄目」
「せやけど」
「ねるが助けてって言ったら、その時はその先生やっつけに行こ?今はまだ、ねるが頑張ってる時だよ」
「………、、」
土生ちゃんの言葉に、みいちゃんの勢いが止まる。
「───、、」
そっか。
ねるの、問題。
このまま振られるなんてやだ。
なら、ねるまで逃げて、下を向いてちゃダメなんだ。
先生が、どう思ってるのか
例え、先生だからダメだって断られても、それは先生の都合であって
ねるが諦めなきゃならない理由にならない。
ねる「ありがとう、土生ちゃん」
土生「ううん。みいちゃん落ち着いて良かった。あのまま突撃しちゃう勢いだったもん」
ねる「あはは、あれはびっくりした」
みいちゃんとふーちゃんは塾があるから、学校からの帰り道は土生ちゃんと2人になった。
みいちゃん塾サボる気やったんかな、それほど友達を思えるのはさすがばい。
土生「この間、ありがとうね」
ねる「ん?なんやっけ?」
土生「買い物。一緒に付き合ってくれたでしょ?」
ねる「あ!あの時ね」
土生「そう。みいちゃんのプレゼント買えたから、助かった 」
ねる「ふふ。よかよ、でも土生ちゃんズボンやったけん彼氏みたいやった」
土生「男子高校生のコスプレだったね」
ねる「うん。かっこよくてニヤニヤしちゃった」
あの日は土生ちゃんかっこよくて。
ズボンで現れた時は、無意識にかっこいいって言葉が漏れてて
たぶん、惚れかけてたと思う。
「……」
今だってスポーツバッグを肩からかけて、ジャージ姿で。
長身で、綺麗で、かっこよくて。
中性的な姿は、どこか心が浮き立つ。
「なぁに?」
「えへへ、土生ちゃんかっこいいけん。好きになっちゃう」
「ふふ。両思いだね。かわいいねるが彼女になってくれるなら、みんなに自慢しちゃうよ」
土生ちゃんにはみいちゃんがいるのに、そんな思わせぶりなこといって
みいちゃんも大変ばい。
そんなことを笑って話していた。
「──……え?」
「───」
頬が上がったまま、
顔がひきつる。
目の前には、先生がいた。
「私も思った」
「……」
学校の放課後。
みいちゃんの少し苛立ちを含んだ言葉に、ふーちゃんが乗っかる。
ねるの恋愛相談は、ほとんど愚痴のようなもので
先生はあんな思わせぶりなことをしたくせに、私の問いを突き放して
ねるが必死になって絞り出したことも、『先生』だからって逃げた。
ねるの予感していた通りの展開だった。
遊ばれてるとは思わない。けれどきっと、テンプレートよろしく、私は振られてしまう。
そんな気持ちの沈んでいく様子を汲んだふーちゃんが、ねるの肩を優しく叩いた。
冬優花「ごめんごめん。あとはそうだねぇ……すごいヘタレとかじゃない?自信がなくて手が出せない、とかさ」
小池「そういう人なん?」
ねる「そんな風に思ったことはなかけど…ねるに彼氏いるって思ってたくらいやけん」
冬優花「まぁ家庭教師で来て、自分のこと好きかもなんて思う人もアレだけどね」
確かに。なんて相槌をして。
私たちしかいない教室は、その相槌を最後に静かになる。
ねるが何かを言うべきなんだろうな、なんて思うけれど何も思いつかなくて。
何となく居心地が悪くなって、窓を見やる。陽は段々と落ちていって、教室の明かりは夕日に負けてオレンジ色になる。
先生に教えてもらったあの広いラウンジも、夕日に染っているんだろう。
先生は、今この瞬間あの階段から眺めていたりするかもしれない。
……会いたいな
冬優花「え?」
ねる「え?」
小池「!、土生ちゃんおつかれー」
土生「お待たせ」
部活を終えた土生ちゃんがジャージ姿のまま現れて、いち早く反応したみいちゃんの声にねるの独り言はかき消された。
椅子にカバンを置いて、『何話してたの?』と土生ちゃんが座る。
ねるが話すのをうんうんと聞きながら、土生ちゃんはゆっくりとペットボトルを傾けて水分を摂る。
話終える頃、ペットボトルの中身は半分を切る程になっていた。
土生「ふーん」
小池「どう思う?土生ちゃん」
いつもよく分からないことを発信しているけど、土生ちゃんは視点が違うだけですごく的を得ていることが多い気がする。
……本気で分からないことも多いけど。
そんな土生ちゃんの意見にねるは緊張した。
土生「そういうプレイとか、?」
ねる「────」
冬優花「………ぁー、……なるほど!」
ふーちゃんはソレな!と言わんばかりに土生ちゃんに人差し指を立てる。
いや、何がなるほど??
ソレな!やなかばい。
小池「ねるの好きな人がそういうタイプやったなんて知らんかったわ」
ねる「いやいや、なかよ!」
小池「わからんやーん。大学生やろ?ヤっとる人はヤっとるで」
ねる「先生はそんな人やなか!」
小池「ねるちゃん。大丈夫やで」
ねる「!?」
小池「せんせーやから、きっと優しく教えてくれるで」
ねる「そんなこと言ってなかったい!」
冬優花「まさかエロ教師だったなんて。ねるが大人の階段登ってたなんて知らなかったわー」
小池「分からんなら体に教えるしかないね、なんて言われてベッドに引きずり込まれるんや!」
冬優花「AVか!そこは『この答え、私の気持ちだよ』って優しくキスでしょ!」
小池「それは普通に意味わからん」
冬優花「え!!」
ねる「………」
夕日に染る教室が、はっちゃけとる…。
なんか、楽しそうやけんもうよか。
ねる「……はぁ、」
火種を打った土生ちゃんは、ふたりの話に混ざることはなく、いつもの笑顔を咲かせていた。
プレイ……、。
そんなことないとは分かっているけれど、先生のそれをそんなこと考えたこともなかったから、なんだか恥ずかしくなる。
先生は誰かと経験あるんかな、。聞いたことない。そう思って、当たり前か、とも思う。
デートした時、聞いてみればよかった。
もっと、先生のプライベートなことしれたら良かった。
先生の肩書きが外れたあの時しか出来なかったことが、ポツポツと浮かんできてしまう。
あれから、関係性はどこか変わったはずなのに
どこにもたどり着ける気がしない。
土生「でもさ、ねるのことちゃんと守ろうと思ってるんじゃないの?」
ねる「、」
土生「私たちってよく分からない時期だから。大事にしなきゃならないって言うじゃん」
そういえば、そんなことを先生とも話した気がする。
あのデートの日、優しい顔をした先生に照れて茶化してしまった記憶がある。あの時、先生はねるのことどう思っていてくれたんだろう。
「いや、ちゃうな」
顔の前で手を組んだみいちゃんはキラーんと目を光らせた。
「え?」
「エロい話は置いといて。そんなあやふやな態度とる先生信用ならん。その人も家庭教師クビにならんようにうやむやに逃げとるんちゃう?」
「みいちゃんどうしたの」
「ねるがそんな大人に振り回されんの黙ってられへん」
「……」
「土生ちゃん行こう!」
「え?」
え?
ねるの反応が出る前に、みいちゃんは勢いよく立ち上がり土生ちゃんの手を引いて教室から出ようとする。
え、待って待って。
行こうってまさか、先生のところ!?
「みいちゃん、待って!何する気?」
「その先生を確かめに行くんや。ねるんことどう思っとるか確認する」
「へえっ!そんなんいいけん!」
「このまま相手にされんで振られてええの?」
「!」
そりゃ、。
振られたくないけど、でも、
「みいちゃん駄目だよ」
「!」
「これはねるの問題。私たちが暴走しちゃ駄目」
「せやけど」
「ねるが助けてって言ったら、その時はその先生やっつけに行こ?今はまだ、ねるが頑張ってる時だよ」
「………、、」
土生ちゃんの言葉に、みいちゃんの勢いが止まる。
「───、、」
そっか。
ねるの、問題。
このまま振られるなんてやだ。
なら、ねるまで逃げて、下を向いてちゃダメなんだ。
先生が、どう思ってるのか
例え、先生だからダメだって断られても、それは先生の都合であって
ねるが諦めなきゃならない理由にならない。
ねる「ありがとう、土生ちゃん」
土生「ううん。みいちゃん落ち着いて良かった。あのまま突撃しちゃう勢いだったもん」
ねる「あはは、あれはびっくりした」
みいちゃんとふーちゃんは塾があるから、学校からの帰り道は土生ちゃんと2人になった。
みいちゃん塾サボる気やったんかな、それほど友達を思えるのはさすがばい。
土生「この間、ありがとうね」
ねる「ん?なんやっけ?」
土生「買い物。一緒に付き合ってくれたでしょ?」
ねる「あ!あの時ね」
土生「そう。みいちゃんのプレゼント買えたから、助かった 」
ねる「ふふ。よかよ、でも土生ちゃんズボンやったけん彼氏みたいやった」
土生「男子高校生のコスプレだったね」
ねる「うん。かっこよくてニヤニヤしちゃった」
あの日は土生ちゃんかっこよくて。
ズボンで現れた時は、無意識にかっこいいって言葉が漏れてて
たぶん、惚れかけてたと思う。
「……」
今だってスポーツバッグを肩からかけて、ジャージ姿で。
長身で、綺麗で、かっこよくて。
中性的な姿は、どこか心が浮き立つ。
「なぁに?」
「えへへ、土生ちゃんかっこいいけん。好きになっちゃう」
「ふふ。両思いだね。かわいいねるが彼女になってくれるなら、みんなに自慢しちゃうよ」
土生ちゃんにはみいちゃんがいるのに、そんな思わせぶりなこといって
みいちゃんも大変ばい。
そんなことを笑って話していた。
「──……え?」
「───」
頬が上がったまま、
顔がひきつる。
目の前には、先生がいた。