Unforgettable.
あの後、小池達の協力もあってねるは自宅に帰った。
その青白い顔は、理佐に笑顔を送ったけれど、理佐の不安そうな表情を消すことは叶わなかった。
それからまた数日が経ち、ねるの体調もだいぶ改善された。
貧血のような症状は出るものの学校や日常生活は1人で行えるようになっていた。
…あれから、理佐は吸血行為をしていない。
元々吸血の間隔が長く、他に比べて欠乏していると捉えられても仕方がない体質ではあったけれど、ねるには欲が込み上げてくる。
それは、想いが通じあっているにも関わらず、そばにいられないことを示していた。
理佐はねると、その他の人間との接触を避けるために、学校を休んでいた。
愛佳も例に習い理佐の部屋で共に過ごし、さすがに呆れ声を上げる。
「もうさー、よくない?慣れてかなきゃいけないんだしさ、早くねるんとこ行けよ」
「だって、せっかく体調落ち着いてきたのに」
「だからぁ、慣れるってのは理佐だけじゃなくてねるもなんだよ。理佐も我慢しなきゃいけないしねるだって体慣らしてかなきゃ。理佐は元々欲が少ないからビックリしてるだけだって。ふつーだよ、フツー」
「だって自信ない……」
「あー、うざい!さっきから何回このやり取りすんの!」
「………」
「理佐ん中で消えるって考えはなくなったんでしょ!じゃああとは覚悟決めるだけ!!」
「………わかって、る」
本当は分かってない。
自分の考えがどれだけ浅いかなんて、以前のねるとの1件で痛いほど感じている。
そんな理佐を、愛佳も気づいていた。
「ねえ、ねるのこと考えてあげなよ。1人なんでしょ?」
「……」
「………そんな怖がんなくったって、意外と大丈夫なもんだよ」
愛佳の優しい声に何故か泣きたくなる。
そう。怖いんだ。
ねるを、この欲にまみれた手で触れたら
今度こそ壊してしまうんじゃないかって。
今回は大丈夫だったけれど、きっとねるは限界だった。
1歩間違えていたら、死なせていたかもしれない。
それだけは、何を犠牲にしても避けたかった。
「じゃあ、愛佳も来てくれる?」
その言葉に、愛佳は大きなため息をつく。
「………へたれ」と、文句を言うように呟いた。
仕方ないじゃないかと思う。
今までにない感覚に襲われるのは、恐怖でしかなかった。
他の吸血鬼には普通でも、普通じゃない吸血鬼が普通になったら、それは普通じゃない。
普段あまり使わない頭を使っているせいで、理佐はパンクしそうだった。
そういえば、ネガティブなことばかり考えていて、こうして前に進むための思考はしていなかったように思う。
ねると接触してから世界が変わったようだった。
次の日の早朝、愛佳に促されてねるの通学路に立つ理佐がいた。顔を上げるとねるの姿が見えて声を掛けるタイミングを探す。
「!理佐!!」
しかしその前に理佐に気づいたねるが、勢いよく走ってきて一瞬見えた表情は今にも泣きそうで、理佐は身体が固まってしまう。そんな理佐を他所に、ねるは人目もはばからずに理佐に抱きついた。
「理佐ぁ、…っ」
「っ、……!??」
「やっと会えたぁ……!」
首に腕を回されて、ぐっと身体が密着する。抱きしめたい本能とそれと戦う理性が理佐の腕を宙に浮かせたままにしていた。
力を増す腕に比例してねるの熱と香りが理佐に一気に伝わり、理佐はパニックになる。
「へー、ねるって意外に大胆なんだね」
理佐の後ろから声が聞こえて、ねるはそっと声のした方を覗き込む。
「っ愛佳!?」
「ごめんねぇ、りっちゃんがどうしてもついてきてっていうから」
ねるは恥ずかしさから理佐を勢いよく剥がす。
その勢いと本能と理性のせめぎあいで、理佐の頭はぐらぐらと揺れた。
愛佳がいてくれて良かったと心底思った。
理佐「………ぅ」
愛佳「りっちゃん大丈夫?」
ねる「…理佐、まだ辛いと?」
愛佳「うーん。大丈夫だと思うんだけど……なにせネガティブだからねぇ。ヘタレとも言うけど」
理佐「……うるさい、愛佳」
愛佳「はいはい。ごめんね、ねる」
ねる「それはいいけど」
ねるは、あの日から理佐の姿自体見ることがなかった。
意図的に避けられていることは分かっていたし、近づく度に苦しそうな理佐を見ていたから
不用意に近づくべきじゃないと理佐が来てくれるまで待っているつもりだった。
理佐の姿が見えた途端、我慢できずに抱きついてしまったのはねる自身大きな誤算で。それほどに理佐に飢えて会いたかったのだと自覚した。
ねる「学校行けるん?」
愛佳「どーする?理佐。止めとく?」
理佐「………遅刻していく」
愛佳は仕方ないか、と息をついてねるへ顔を向けた。
「え?まじ?もう待ちくたびれたんだけど」
「!!??」
急に誰でもない声が響いて、全員の目が見開いた。
3人が振り返った先には
制服に身を包んだ友梨奈がいた。
理佐「、ひら、て」
友梨奈「理佐遅いんだよー。私ずーっと待ってたのにさぁ」
たった一人の登場にその場の空気が張り詰める。
ねるには、目の前の人物がよく知る幼なじみには見えなかった。
ねる「…てち?」
友梨奈「ぴっぴもさぁ、理佐のことになると甘いね。ちゃんと見張っててよ」
ねるを置き去りに話が進んでいく。
張り詰めた空気にそぐわない笑顔が友梨奈にだけ咲いていた。
愛佳「………平手、まだ時間くれる約束でしょ」
友梨奈「そのつもりだったんだけど、私もう我慢出来そうになくて。逆にねるとこんなに近くにいて、今までよく我慢できたと思わない?」
理佐「ひらて、その話は……」
友梨奈「まだしてないんでしょ?知ってる」
理佐「……」
友梨奈「でももう待てないからさ、今日で終わりにしよ?」
ーーーおままごとも友だちごっこも、もう終わりだよ。
張り詰めた空気が、裂けた気がした。
友梨奈は一気に距離を詰める。
そうして最初に触れたのはねるだった。
「ーーーっ?」
驚いて身を固めるねるの首元に、友梨奈の牙が向く。
その直後に何かに弾き飛ばされて、ねるは路上に倒れた。
ねる「っ!?」
愛佳「ねる!大丈夫?」
ねる「、?な、なに?」
体の痛みは全身を重くする。顔をあげれば、友梨奈の衿元を掴み拘束する理佐が腕を噛みつかれていた。
苦痛に歪める理佐の表情は、僅かに怒りが込められている。
理佐「、っ……」
友梨奈「うぇ、理佐の血なんて飲みたくない」
理佐「……平手、!」
友梨奈「なに、怒ってんの?理佐。悪いのはどっち?」
理佐「……っ!」
睨み合い、ギリギリと力が拮抗する状況にねるは動けない。
相変わらず友梨奈は口元を僅かに歪ませていた。
「二人とも止めとけ!こんなとこで問題起こすなよ!人が来る、」
2人の間に入ったのは愛佳だった。
まだ早朝に近い時間とはいえこれから少なからず人通りは増える。
その言葉に、2人はゆっくりと力を緩め距離を取った。
垂れた理佐の腕からはぼたぼたと血が滴っている。
理佐は友梨奈から目を離さずに、言葉を発した。
理佐「………平手。お願い、放課後まで待って。ちゃんとねると話がしたい」
友梨奈「……いいよ。でも放課後にもねるは連れてきて。隠されちゃ困る」
理佐「………わかった」
その数言だけ交わして、友梨奈は離れていった。
ねるは、あのまま学校に行くんだろうかと呑気なことを考えてしまう。状況についていけなくて、自分の知る世界だけで物事を捉えようと必死だったのかもしれなかった。
ふと、理佐が隣に立っていることに気づいた。
「ねる、立てる?」
「うん、でも、そんなことより理佐の怪我…」
「べつに、大丈夫。ほっとけば治るから」
「そういうことやない!」
血は滴ることを止めない。その光景にも、理佐の悲しそうな顔にも
ねるは胸が締め付けられた。
「ふたりとも、ここから離れよう。出来れば理佐の家がいいけど、ちょっと遠いよね」
「…そうだね、ねるの家も家族がいるし。あ、友香は?」
「それだ」
愛佳はスマートフォンを取り出して、菅井に連絡を取る。教務の出勤時間にはまだ時間があるはずだった。
「あ、友香。朝早くごめん、ちょっと……」
愛佳は理佐に背を向けて話をし始める。
ねるはそれを見つめる理佐の腕に触れた。
「いたっ」
「……大丈夫やないやんか」
「そりゃ触ったら痛いよ」
「………」
「………………」
ねるはカバンからタオルを取り出して、理佐の腕を包む。
「汚しちゃうよ、」
「そんなんいい」
「……タオル、いつも持ってるの?」
「…雨降るかもって予報やったから使うかと思って」
理佐は空を見上げる。雲は多いけれど、今はまだ青空が見えていた。
「………降らないといいね、雨」
「そうやね」
「………ねる、ちゃんと話すから。混乱させてごめん…」
その言葉に、ねるはブンブンと頭を振った。それでも、タオルを押さえるねるの手は震えていて
理佐も悲しくなる。
こうやっていつも覚悟が足りないんだ。
日常に浸かって逃げていたから、またねるを苦しめている。
「理佐、行こう」
どうやら菅井の許可が降りたみたいだった。
愛佳が珍しく硬い顔をしていて、
ねるは無意識に息を呑んだーーー
その青白い顔は、理佐に笑顔を送ったけれど、理佐の不安そうな表情を消すことは叶わなかった。
それからまた数日が経ち、ねるの体調もだいぶ改善された。
貧血のような症状は出るものの学校や日常生活は1人で行えるようになっていた。
…あれから、理佐は吸血行為をしていない。
元々吸血の間隔が長く、他に比べて欠乏していると捉えられても仕方がない体質ではあったけれど、ねるには欲が込み上げてくる。
それは、想いが通じあっているにも関わらず、そばにいられないことを示していた。
理佐はねると、その他の人間との接触を避けるために、学校を休んでいた。
愛佳も例に習い理佐の部屋で共に過ごし、さすがに呆れ声を上げる。
「もうさー、よくない?慣れてかなきゃいけないんだしさ、早くねるんとこ行けよ」
「だって、せっかく体調落ち着いてきたのに」
「だからぁ、慣れるってのは理佐だけじゃなくてねるもなんだよ。理佐も我慢しなきゃいけないしねるだって体慣らしてかなきゃ。理佐は元々欲が少ないからビックリしてるだけだって。ふつーだよ、フツー」
「だって自信ない……」
「あー、うざい!さっきから何回このやり取りすんの!」
「………」
「理佐ん中で消えるって考えはなくなったんでしょ!じゃああとは覚悟決めるだけ!!」
「………わかって、る」
本当は分かってない。
自分の考えがどれだけ浅いかなんて、以前のねるとの1件で痛いほど感じている。
そんな理佐を、愛佳も気づいていた。
「ねえ、ねるのこと考えてあげなよ。1人なんでしょ?」
「……」
「………そんな怖がんなくったって、意外と大丈夫なもんだよ」
愛佳の優しい声に何故か泣きたくなる。
そう。怖いんだ。
ねるを、この欲にまみれた手で触れたら
今度こそ壊してしまうんじゃないかって。
今回は大丈夫だったけれど、きっとねるは限界だった。
1歩間違えていたら、死なせていたかもしれない。
それだけは、何を犠牲にしても避けたかった。
「じゃあ、愛佳も来てくれる?」
その言葉に、愛佳は大きなため息をつく。
「………へたれ」と、文句を言うように呟いた。
仕方ないじゃないかと思う。
今までにない感覚に襲われるのは、恐怖でしかなかった。
他の吸血鬼には普通でも、普通じゃない吸血鬼が普通になったら、それは普通じゃない。
普段あまり使わない頭を使っているせいで、理佐はパンクしそうだった。
そういえば、ネガティブなことばかり考えていて、こうして前に進むための思考はしていなかったように思う。
ねると接触してから世界が変わったようだった。
次の日の早朝、愛佳に促されてねるの通学路に立つ理佐がいた。顔を上げるとねるの姿が見えて声を掛けるタイミングを探す。
「!理佐!!」
しかしその前に理佐に気づいたねるが、勢いよく走ってきて一瞬見えた表情は今にも泣きそうで、理佐は身体が固まってしまう。そんな理佐を他所に、ねるは人目もはばからずに理佐に抱きついた。
「理佐ぁ、…っ」
「っ、……!??」
「やっと会えたぁ……!」
首に腕を回されて、ぐっと身体が密着する。抱きしめたい本能とそれと戦う理性が理佐の腕を宙に浮かせたままにしていた。
力を増す腕に比例してねるの熱と香りが理佐に一気に伝わり、理佐はパニックになる。
「へー、ねるって意外に大胆なんだね」
理佐の後ろから声が聞こえて、ねるはそっと声のした方を覗き込む。
「っ愛佳!?」
「ごめんねぇ、りっちゃんがどうしてもついてきてっていうから」
ねるは恥ずかしさから理佐を勢いよく剥がす。
その勢いと本能と理性のせめぎあいで、理佐の頭はぐらぐらと揺れた。
愛佳がいてくれて良かったと心底思った。
理佐「………ぅ」
愛佳「りっちゃん大丈夫?」
ねる「…理佐、まだ辛いと?」
愛佳「うーん。大丈夫だと思うんだけど……なにせネガティブだからねぇ。ヘタレとも言うけど」
理佐「……うるさい、愛佳」
愛佳「はいはい。ごめんね、ねる」
ねる「それはいいけど」
ねるは、あの日から理佐の姿自体見ることがなかった。
意図的に避けられていることは分かっていたし、近づく度に苦しそうな理佐を見ていたから
不用意に近づくべきじゃないと理佐が来てくれるまで待っているつもりだった。
理佐の姿が見えた途端、我慢できずに抱きついてしまったのはねる自身大きな誤算で。それほどに理佐に飢えて会いたかったのだと自覚した。
ねる「学校行けるん?」
愛佳「どーする?理佐。止めとく?」
理佐「………遅刻していく」
愛佳は仕方ないか、と息をついてねるへ顔を向けた。
「え?まじ?もう待ちくたびれたんだけど」
「!!??」
急に誰でもない声が響いて、全員の目が見開いた。
3人が振り返った先には
制服に身を包んだ友梨奈がいた。
理佐「、ひら、て」
友梨奈「理佐遅いんだよー。私ずーっと待ってたのにさぁ」
たった一人の登場にその場の空気が張り詰める。
ねるには、目の前の人物がよく知る幼なじみには見えなかった。
ねる「…てち?」
友梨奈「ぴっぴもさぁ、理佐のことになると甘いね。ちゃんと見張っててよ」
ねるを置き去りに話が進んでいく。
張り詰めた空気にそぐわない笑顔が友梨奈にだけ咲いていた。
愛佳「………平手、まだ時間くれる約束でしょ」
友梨奈「そのつもりだったんだけど、私もう我慢出来そうになくて。逆にねるとこんなに近くにいて、今までよく我慢できたと思わない?」
理佐「ひらて、その話は……」
友梨奈「まだしてないんでしょ?知ってる」
理佐「……」
友梨奈「でももう待てないからさ、今日で終わりにしよ?」
ーーーおままごとも友だちごっこも、もう終わりだよ。
張り詰めた空気が、裂けた気がした。
友梨奈は一気に距離を詰める。
そうして最初に触れたのはねるだった。
「ーーーっ?」
驚いて身を固めるねるの首元に、友梨奈の牙が向く。
その直後に何かに弾き飛ばされて、ねるは路上に倒れた。
ねる「っ!?」
愛佳「ねる!大丈夫?」
ねる「、?な、なに?」
体の痛みは全身を重くする。顔をあげれば、友梨奈の衿元を掴み拘束する理佐が腕を噛みつかれていた。
苦痛に歪める理佐の表情は、僅かに怒りが込められている。
理佐「、っ……」
友梨奈「うぇ、理佐の血なんて飲みたくない」
理佐「……平手、!」
友梨奈「なに、怒ってんの?理佐。悪いのはどっち?」
理佐「……っ!」
睨み合い、ギリギリと力が拮抗する状況にねるは動けない。
相変わらず友梨奈は口元を僅かに歪ませていた。
「二人とも止めとけ!こんなとこで問題起こすなよ!人が来る、」
2人の間に入ったのは愛佳だった。
まだ早朝に近い時間とはいえこれから少なからず人通りは増える。
その言葉に、2人はゆっくりと力を緩め距離を取った。
垂れた理佐の腕からはぼたぼたと血が滴っている。
理佐は友梨奈から目を離さずに、言葉を発した。
理佐「………平手。お願い、放課後まで待って。ちゃんとねると話がしたい」
友梨奈「……いいよ。でも放課後にもねるは連れてきて。隠されちゃ困る」
理佐「………わかった」
その数言だけ交わして、友梨奈は離れていった。
ねるは、あのまま学校に行くんだろうかと呑気なことを考えてしまう。状況についていけなくて、自分の知る世界だけで物事を捉えようと必死だったのかもしれなかった。
ふと、理佐が隣に立っていることに気づいた。
「ねる、立てる?」
「うん、でも、そんなことより理佐の怪我…」
「べつに、大丈夫。ほっとけば治るから」
「そういうことやない!」
血は滴ることを止めない。その光景にも、理佐の悲しそうな顔にも
ねるは胸が締め付けられた。
「ふたりとも、ここから離れよう。出来れば理佐の家がいいけど、ちょっと遠いよね」
「…そうだね、ねるの家も家族がいるし。あ、友香は?」
「それだ」
愛佳はスマートフォンを取り出して、菅井に連絡を取る。教務の出勤時間にはまだ時間があるはずだった。
「あ、友香。朝早くごめん、ちょっと……」
愛佳は理佐に背を向けて話をし始める。
ねるはそれを見つめる理佐の腕に触れた。
「いたっ」
「……大丈夫やないやんか」
「そりゃ触ったら痛いよ」
「………」
「………………」
ねるはカバンからタオルを取り出して、理佐の腕を包む。
「汚しちゃうよ、」
「そんなんいい」
「……タオル、いつも持ってるの?」
「…雨降るかもって予報やったから使うかと思って」
理佐は空を見上げる。雲は多いけれど、今はまだ青空が見えていた。
「………降らないといいね、雨」
「そうやね」
「………ねる、ちゃんと話すから。混乱させてごめん…」
その言葉に、ねるはブンブンと頭を振った。それでも、タオルを押さえるねるの手は震えていて
理佐も悲しくなる。
こうやっていつも覚悟が足りないんだ。
日常に浸かって逃げていたから、またねるを苦しめている。
「理佐、行こう」
どうやら菅井の許可が降りたみたいだった。
愛佳が珍しく硬い顔をしていて、
ねるは無意識に息を呑んだーーー