家庭教師×生徒
愛佳「よ、その後襲われなかった?」
理佐「……ないよ、うるさいな」
愛佳「なんだ、つまんない」
理佐「……」
由依「ははーん。」
愛佳「え?ははーんとかリアルで聞くと思わなかったんだけどどうした」
愛佳の言葉に由依は反応をせず、ニヤニヤとして私を見る。
顎に手を当てて、、、嫌な予感しかしない。
由依「襲ったのは理佐の方かー、やるねぇりっちゃん」
愛佳「は!!??」
理佐「!!!」
理佐「し、してない!」
愛佳「由依!どういうこと!?」
由依「襲われてはないけど、襲ったんでしょ」
理佐「襲ってなんかないって!」
由依「じゃあ何したの?」
理佐「──」
確信を持った由依のニヤニヤ顔が迫る。
あぁ、ほんと、嘘のつけない性格が嫌になる。
何であんなことしたんだろう。
手が止められなくて、今までに無い距離に詰めてしまった。
あの日の事の顛末を、引っ張りだされて吐露させられる。
ふたりはニヤニヤしながら『やるー』なんて楽しそうだったけど、私はそんな楽しくない。
ねるの手が、肌を這った感覚
ねるは彼氏なんていなくて
その言葉の後にねるがした行為が、どういう意味か分からないほど鈍感じゃない……
と、思う。
けど、そんな気持ちはすぐ打ち砕かれた。
「先生、ここ怪しいんです」
「…、あぁ。私もそこ苦手だったところ。ここはそんな深く考えなくて大丈夫だよ、──」
ねるとデートをしたあの日から数日後。家庭教師の日だったその日を私は緊張して臨んで。けど、ねるはいつも通りだった。
宿題に出していた問題集は綺麗に埋まっていて、私は隣で採点しながらねるは別の問題を解いて、時々なにかを聞いてくる。
そんなのは前から変わらないこと。
隣に座っても、少し手が触れても。
ねるは、普通だった。
──勘違いだったのかなぁ。だとしたら、さすがにヘコむ。でも、あの行為はどう考えたって……。
「先生?」
「あぁ、ごめん。終わった?」
「はい」
ねるの部屋。
ねるの香り。
他の人が踏み入ることの少ない領域。
私がそこにいるのは、家庭教師だから。
「、ぁ、ごめん赤ペン切れちゃって。借りてもいい?」
「、はい。ここに」
「いいよ、自分でとる」
採点していた赤ペンがインク切れを起こし、ねるのペンを借りる。
ねるは自分の筆箱から出そうとしてくれたけれど、机の上のペン立てに赤ペンが見えて手を伸ばした。
ねるが、身をかがめる。
私はねるの先にあるペン立てに手を伸ばす。
私の言葉に、ねるは、顔をあげようとして
その近さに、あの車内の出来事を思い出した。
「───、」
「─────」
息が、詰まる。
それだけ。
心臓が高鳴るとか
胸が締め付けられるとか
指先が冷えて痺れたりとか
そんなのは、何秒も後に自覚することで
私はただ、無意識に行っている呼吸が止まったことに頭が埋まる。
「、ごめん、近かったね」
ろくに息も吸えずに出した声は不安定だった気がする。
ペンを取って椅子に座ると、またペンを走らせる。
ねるは特に慌てる様子もなくて、少し悔しかった
「、……今日、調子悪い?」
宿題に出した問題はほぼ満点だったのに、今回の問題には丸は普段より少ない。
しかもケアレスミスばかりで、ねるらしくなかった。
ねるへと顔を向けても、少し俯いたまま。
ねるの、顔が見えない。
「……」
「長濱さん?」
「……なんで、そんな普通なんですか」
「、え?」
「ねるがしたこと、伝わってますよね?」
「………、」
─ヤバい。
「ねる、今日はずっとドキドキしてて。なるべく普段通りにしようと思ったけど、先生が横にいたら全然頭回らんで…」
声が、震えてる。
手を強く握って、服がシワになってる。
少し俯いた、その髪の隙間から見える耳は、赤い。
泣きそうな、その姿は
理性にヒビを入れてくる。
「ねる、」
「っ、ねぇ理佐」
「!!」
強く握られていたはずの手が、私の膝に置かれる。
体が情けないくらい跳ね上がる。
心臓がうるさい。
そう思ったのも一瞬。
視線を上げた先、ねるはこっちを見つめていて
泣くのを耐えて下唇を噛む。
鼻は赤くなっていて
私を見つめる瞳は、少し上目遣いで、涙に潤んでいる。
音も、息苦しさも、胸の締めつけも
どこかに弾き飛ばすほどの、ねるの衝撃。
狙ってやっているんだろうか
ねるなら、やれそう。
あざとく、可愛く。タレ目をうまく使って。にっこりと笑って。
愛に満ちたような笑顔をする。
その姿に、私は満たされる。
可愛いって思う。
愛しく思う。
抱きしめたいって、思う。
その笑顔が、崩れないで欲しい。
なのに、
私は今、ねるの切なく、苦しさに涙を溜めるその姿に、理性を失いそうだ。
キツく、逃がさないように抱きしめたい。
慈しむなんてことできないほど、
欲望のまま抱きしめて、ねるの思いなんて後回しで
涙が溢れることにさえ、心が悦ぶ。
そんな、欲望が。
ねるに引っ張り出される…。
「教えてよ、先生、」
「───」
その、敢えて理佐って呼ばないところ。
小さく熱を込めたような声。
あぁ、、、私はこのまま悶死するんじゃないだろうか。
「──長濱さん、」
「……っ、」
ねるの手に触れる。
私の形とは違う、少し子供っぽい手。
女の子らしくて、気持ちいい。
この手が私の肌に触れていたと思うと、唆る。
きっと、私は今、最低に興奮してる。
思いが通じたわけでもなく
付き合ってる訳でもない。
好きだと伝えてる訳でもない。
家庭教師と生徒で
それだってろくに先生だってできてないのに
なのに、下心に埋もれて
こんなに、ねるに、興奮してる。
「──教えて欲しいの?」
「!」
「分かってるくせに、ずるいね」
私のセリフに、悔しそうにする。
かわいいな、。
こういうの、性癖って言うのかな。
「手、冷えてる」
「……」
「緊張してるの?」
「…しないわけ、ないじゃないですか」
「かわいいね」
私の方が緊張してるの、バレてないかな。
この関係をどうすればいいのかなんて、私の方が分からないのに。
「ぁ、ほら。唇噛まない」
「やって、先生」
「なぁに?」
「……ずるいのは、先生です」
「ふふ、そうだね」
「教えてくれんと?」
「………」
───狡いなぁ、本当に。
「私は、先生だからね」
「……」
「大学に来るの、待ってる」
「はぁーーーーー」
「くっっっそへたれ」
「…………、」
明確な落胆と、明瞭な罵声。
由依は大きくため息をついて
愛佳は声を大きく吐き捨てた。
「なにが先生だからね、だよ。馬鹿じゃねぇの」
「ねるちゃんがそれだけ迫ってて何言ってんの。好きなくせに馬鹿なの?」
理佐「ねえせめて1人にまとめてくれない?辛いんだけど」
「そこは、『先生が教えてあげるね』って手を引けよ。むしろ今しか先生と生徒なんてシチュエーションないだろ、ガチのその関係羨ましすぎる!なんでそこで焦らすんだよ、ほんとバカ」
「一生懸命気持ち伝えてるのになんで逃げるわけ?好きじゃないの?ねるちゃん可愛いんだから誰かに取られるかもしれないんだよ?ねるちゃんは理佐が好きだから軽く行くことはないだろうけどそれだってわかんないじゃん」
「あの、」
「先生って呼ばれることなんてこの先ないじゃん。呼ばせることは出来てもそれはもうヤラセであってリアルじゃないんだよ。そしたらもう今しかないのに!むっつりなくせして!なんだよ先生だからねって!先生だからやるんだろー!」
「……」
「そもそも理佐はねるちゃんのこと距離置きすぎなんだよ。先生とか高校生とか関係ないじゃん、好きなんでしょ?素直に言ったらいいのに。ねるちゃん待ってるよ絶対。てか、だからそんなこと言ってきてくれたのにほんと最低」
「階段で襲われてたの止めなきゃ良かったわ。そしたら理佐だって理性が切れてどうにかなってたのに。いやでも初めてが大学のラウンジなのは
由依「愛佳黙って」──……」
一気に空気が冷めたのはきっと気のせいじゃない。
目を細めて蔑むような目と、響いた低音ボイスに愛佳は一瞬で口を噤んだ。
それはもう、停止ボタンを押されたロボットみたいだった。
理佐「……ないよ、うるさいな」
愛佳「なんだ、つまんない」
理佐「……」
由依「ははーん。」
愛佳「え?ははーんとかリアルで聞くと思わなかったんだけどどうした」
愛佳の言葉に由依は反応をせず、ニヤニヤとして私を見る。
顎に手を当てて、、、嫌な予感しかしない。
由依「襲ったのは理佐の方かー、やるねぇりっちゃん」
愛佳「は!!??」
理佐「!!!」
理佐「し、してない!」
愛佳「由依!どういうこと!?」
由依「襲われてはないけど、襲ったんでしょ」
理佐「襲ってなんかないって!」
由依「じゃあ何したの?」
理佐「──」
確信を持った由依のニヤニヤ顔が迫る。
あぁ、ほんと、嘘のつけない性格が嫌になる。
何であんなことしたんだろう。
手が止められなくて、今までに無い距離に詰めてしまった。
あの日の事の顛末を、引っ張りだされて吐露させられる。
ふたりはニヤニヤしながら『やるー』なんて楽しそうだったけど、私はそんな楽しくない。
ねるの手が、肌を這った感覚
ねるは彼氏なんていなくて
その言葉の後にねるがした行為が、どういう意味か分からないほど鈍感じゃない……
と、思う。
けど、そんな気持ちはすぐ打ち砕かれた。
「先生、ここ怪しいんです」
「…、あぁ。私もそこ苦手だったところ。ここはそんな深く考えなくて大丈夫だよ、──」
ねるとデートをしたあの日から数日後。家庭教師の日だったその日を私は緊張して臨んで。けど、ねるはいつも通りだった。
宿題に出していた問題集は綺麗に埋まっていて、私は隣で採点しながらねるは別の問題を解いて、時々なにかを聞いてくる。
そんなのは前から変わらないこと。
隣に座っても、少し手が触れても。
ねるは、普通だった。
──勘違いだったのかなぁ。だとしたら、さすがにヘコむ。でも、あの行為はどう考えたって……。
「先生?」
「あぁ、ごめん。終わった?」
「はい」
ねるの部屋。
ねるの香り。
他の人が踏み入ることの少ない領域。
私がそこにいるのは、家庭教師だから。
「、ぁ、ごめん赤ペン切れちゃって。借りてもいい?」
「、はい。ここに」
「いいよ、自分でとる」
採点していた赤ペンがインク切れを起こし、ねるのペンを借りる。
ねるは自分の筆箱から出そうとしてくれたけれど、机の上のペン立てに赤ペンが見えて手を伸ばした。
ねるが、身をかがめる。
私はねるの先にあるペン立てに手を伸ばす。
私の言葉に、ねるは、顔をあげようとして
その近さに、あの車内の出来事を思い出した。
「───、」
「─────」
息が、詰まる。
それだけ。
心臓が高鳴るとか
胸が締め付けられるとか
指先が冷えて痺れたりとか
そんなのは、何秒も後に自覚することで
私はただ、無意識に行っている呼吸が止まったことに頭が埋まる。
「、ごめん、近かったね」
ろくに息も吸えずに出した声は不安定だった気がする。
ペンを取って椅子に座ると、またペンを走らせる。
ねるは特に慌てる様子もなくて、少し悔しかった
「、……今日、調子悪い?」
宿題に出した問題はほぼ満点だったのに、今回の問題には丸は普段より少ない。
しかもケアレスミスばかりで、ねるらしくなかった。
ねるへと顔を向けても、少し俯いたまま。
ねるの、顔が見えない。
「……」
「長濱さん?」
「……なんで、そんな普通なんですか」
「、え?」
「ねるがしたこと、伝わってますよね?」
「………、」
─ヤバい。
「ねる、今日はずっとドキドキしてて。なるべく普段通りにしようと思ったけど、先生が横にいたら全然頭回らんで…」
声が、震えてる。
手を強く握って、服がシワになってる。
少し俯いた、その髪の隙間から見える耳は、赤い。
泣きそうな、その姿は
理性にヒビを入れてくる。
「ねる、」
「っ、ねぇ理佐」
「!!」
強く握られていたはずの手が、私の膝に置かれる。
体が情けないくらい跳ね上がる。
心臓がうるさい。
そう思ったのも一瞬。
視線を上げた先、ねるはこっちを見つめていて
泣くのを耐えて下唇を噛む。
鼻は赤くなっていて
私を見つめる瞳は、少し上目遣いで、涙に潤んでいる。
音も、息苦しさも、胸の締めつけも
どこかに弾き飛ばすほどの、ねるの衝撃。
狙ってやっているんだろうか
ねるなら、やれそう。
あざとく、可愛く。タレ目をうまく使って。にっこりと笑って。
愛に満ちたような笑顔をする。
その姿に、私は満たされる。
可愛いって思う。
愛しく思う。
抱きしめたいって、思う。
その笑顔が、崩れないで欲しい。
なのに、
私は今、ねるの切なく、苦しさに涙を溜めるその姿に、理性を失いそうだ。
キツく、逃がさないように抱きしめたい。
慈しむなんてことできないほど、
欲望のまま抱きしめて、ねるの思いなんて後回しで
涙が溢れることにさえ、心が悦ぶ。
そんな、欲望が。
ねるに引っ張り出される…。
「教えてよ、先生、」
「───」
その、敢えて理佐って呼ばないところ。
小さく熱を込めたような声。
あぁ、、、私はこのまま悶死するんじゃないだろうか。
「──長濱さん、」
「……っ、」
ねるの手に触れる。
私の形とは違う、少し子供っぽい手。
女の子らしくて、気持ちいい。
この手が私の肌に触れていたと思うと、唆る。
きっと、私は今、最低に興奮してる。
思いが通じたわけでもなく
付き合ってる訳でもない。
好きだと伝えてる訳でもない。
家庭教師と生徒で
それだってろくに先生だってできてないのに
なのに、下心に埋もれて
こんなに、ねるに、興奮してる。
「──教えて欲しいの?」
「!」
「分かってるくせに、ずるいね」
私のセリフに、悔しそうにする。
かわいいな、。
こういうの、性癖って言うのかな。
「手、冷えてる」
「……」
「緊張してるの?」
「…しないわけ、ないじゃないですか」
「かわいいね」
私の方が緊張してるの、バレてないかな。
この関係をどうすればいいのかなんて、私の方が分からないのに。
「ぁ、ほら。唇噛まない」
「やって、先生」
「なぁに?」
「……ずるいのは、先生です」
「ふふ、そうだね」
「教えてくれんと?」
「………」
───狡いなぁ、本当に。
「私は、先生だからね」
「……」
「大学に来るの、待ってる」
「はぁーーーーー」
「くっっっそへたれ」
「…………、」
明確な落胆と、明瞭な罵声。
由依は大きくため息をついて
愛佳は声を大きく吐き捨てた。
「なにが先生だからね、だよ。馬鹿じゃねぇの」
「ねるちゃんがそれだけ迫ってて何言ってんの。好きなくせに馬鹿なの?」
理佐「ねえせめて1人にまとめてくれない?辛いんだけど」
「そこは、『先生が教えてあげるね』って手を引けよ。むしろ今しか先生と生徒なんてシチュエーションないだろ、ガチのその関係羨ましすぎる!なんでそこで焦らすんだよ、ほんとバカ」
「一生懸命気持ち伝えてるのになんで逃げるわけ?好きじゃないの?ねるちゃん可愛いんだから誰かに取られるかもしれないんだよ?ねるちゃんは理佐が好きだから軽く行くことはないだろうけどそれだってわかんないじゃん」
「あの、」
「先生って呼ばれることなんてこの先ないじゃん。呼ばせることは出来てもそれはもうヤラセであってリアルじゃないんだよ。そしたらもう今しかないのに!むっつりなくせして!なんだよ先生だからねって!先生だからやるんだろー!」
「……」
「そもそも理佐はねるちゃんのこと距離置きすぎなんだよ。先生とか高校生とか関係ないじゃん、好きなんでしょ?素直に言ったらいいのに。ねるちゃん待ってるよ絶対。てか、だからそんなこと言ってきてくれたのにほんと最低」
「階段で襲われてたの止めなきゃ良かったわ。そしたら理佐だって理性が切れてどうにかなってたのに。いやでも初めてが大学のラウンジなのは
由依「愛佳黙って」──……」
一気に空気が冷めたのはきっと気のせいじゃない。
目を細めて蔑むような目と、響いた低音ボイスに愛佳は一瞬で口を噤んだ。
それはもう、停止ボタンを押されたロボットみたいだった。