家庭教師×生徒
「理佐ー、今日買い物付き合って」
「いいよ、私も見たいのある」
「お、りっちゃん珍しいね」
突然誘われた愛佳の誘いは、別に珍しいものでもなくて普段の会話の1部だった。愛佳が珍しいと言ったのは私も見たいものがある、という所。
基本自分の用は一人で行くし、誰かを誘うこともあまりない。
愛佳「何?ねるちゃんへのプレゼント探し?私も手伝おうか」
理佐「え?いい。来ないで」
愛佳「 え!なんでそんなに冷たいの!」
由依「むしろなんで行けると思ったの」
愛佳「混ざってこないで!今りっちゃんと志田の時間だから」
残らない物がいい。あまり固くなくて、フラットに渡せるもの。
でも、適当って思われたくない。
少しだけ特別感があって、消耗品とか……でも使わなきゃいけないのって気を遣う。入浴剤とか好みとか出るし……おふろかぁ……
由依「……理佐って悩む質なんだね」
理佐「え?」
やば、変なこと考えてた。
由依の声に引き戻されて我に返る。
由依「相手がどうとかじゃなくて。理佐はもっとスマートに選んでるイメージ。だってもうネットとかじゃ調べてるんでしょ?」
理佐「……」
バレてる。そうです、ネットではもう調べ尽くした。人気なもの、ランキング、王道から、珍しいものまで、
でも、選択肢が増えるばかりで何も決められない。
実際に探して選ぼうって、決めたとこだったんだ。
愛佳「理佐にもらえるなら、ねるはなんでも喜ぶと思うけどね」
理佐「……」
由依「…あんたほんとに理佐の親友でいたいの?」
愛佳「は?いたいんじゃないわ、もう親友だわ」
由依「…なら今ここで破綻したね」
『ねるって呼んでください』
……ねるは、何を思って私にそう言ったんだろう。
『私も理佐って呼びますね』
特別だと自惚れていいかも、なんて思いつつ。それでも目の前で、愛佳が同じ立ち位置にいると思うと、ただの落胆に変わる。
愛佳がどうとかではない。名前で呼び合うことは、ねるにとって大したことじゃないと知れて、でも私には大きいことで。その差は、気持ちの違いで。
それは、ねるへ想うことと、ねるに向けられる想いが重なることは無いってこと……。
いやそもそも、彼氏がいるんだから特別もなにもないじゃん。
由依「………ばーーーか」
愛佳「…………っ、、ぐぅ…ここまでとは、、」
◇◇◇◇◇◇
大学の終わり、愛佳と買い物へ出かける。
とは言っても、お店まで一緒に行って散る。買い物が終わればまた合流しご飯食べて帰る。そのパターンは愛佳としかないけど、愛佳だからそれができる。
それがいいって分かってる、その気が置けない感覚は愛佳だからだろうなっていつも思う。
「……はぁ、悩むなぁ」
あれもいいな、これもいいかもしれない。
喜ぶかもしれない、でも困らせるかも。
ねるっぽいけど、受け取る側が喜ぶかは別だし…私らしいものを送る方がプレゼントらしいだろうか、、けど、。
そんなブランコのように、同じことを行ったり来たり考えて。うろうろとして色んな店を入っては出る。
プレゼントを送ることにこんなに悩むのは初めてかもしれない。
この気持ちが重くならずに、がんばっている長濱さんに、私が送れるものってなんだろうか。
「───……、」
「……、」
………、!
悩んでもやの張っていた思考が、綺麗に中断される。反応した先には、長濱さんが居た。
雑多な物音の中、長濱さんの声に反応するなんてよっぽどだななんて頭の片隅で思ったけれど、そんなことはすぐ散った。
「──……、、、」
言葉が出ない。喉が引きつる。
長濱さんの隣には背の高い青年。
近い距離で話をしながら小物を見ている。青年が持ったそれに、長濱さんは笑って。
その子は長濱さんの手を引いて店内へと入っていった。
「……理佐?」
「……あ、おかえり」
「早くない?決まったのプレゼント」
「んー、うん。予約してきた」
「予約?」
「愛佳には内緒。長濱さんに言われたらつまらないでしょ」
「………何かあったの?」
……そんなわかりやすいのかな、私って。
けどだからって、さっきのことを話す気にはなれなくて。特別でもない私が、何を言うんだって話だ。
「……まぁちょっとね」
「あんま考えすぎると、変な方向行ったとき面倒臭いよ」
「……ふふ、愛佳ハッキリ言うね」
「ただの友人なら言えないでしょ」
「確かに」
誰なのかな、とは思う。
彼氏さんではなさそうだった。高校の制服だったし。
でも、仲良く雑貨屋さん見てて恋人同士とも思えた。 ああやって笑うんだね。
私、知らないや。
友人や同級生に見せる顔と、家庭教師に見せる顔が違うのなんて当たり前なのに。それを突きつけられて苦しくなる。
それこそ、名前を呼び合うことが特別か普通かの違いさえ今日突きつけられた。
当然の常識を、初めて知った感覚。
いつかに家庭教師の役得を喜んでいたことを思い出して、人間の欲深さを自覚する。どこかで見た、名言。結局そういう事だ。
私は長濱さんのすべてが知りたいと思ってしまっている。
何も知らない。君のこと。
でもきっと、君のことを知らないことにするなんて無理なんだ。