An-Regret.

「そういえばさ、」

「ん?」

「番候補、どうなったの?」

「……あぁ、」

「尾関見かけるけど、特に何も言われてないんだろ?」


たまに遣いだなんだと姿を見せるけれど、要件を済ませると何も言わずに帰っていく。
どこか落ち着かないのはあの時のせいだろう。


「平手怖かったからなー、むしろよく遣いだなんだとウチに来れるわ」

「ぴっぴもでしょ。血出てたじゃん、やり過ぎだよ」

「真祖様には敵いませんよ」

「……肩書きのおかげでしょ」

「それがなきゃ、理佐もねるも、あのガキらだってただじゃ済まなかった。でも肩書きがあったって、クソみたいなことするやつだっている」


結局、平手だから良かったんだよ。

そう言って、ぴっぴはつり目を柔らかくさせて私を見た。


………きっと、彼女の目にはこの先のことが見える。その能力を使えば、私の事なんて操れる。
彼女こそ、クソだと言った悪質なことだって隠蔽できるだろう。
理佐のことだって、。


「平手」

「!」

「私は、平手の元にいられて良かったと思ってるよ」

「……、」

「統制者なんていうのは先や周囲が見れるだけでなんの力もない。利用されるだけの、傍観者だよ」


手元にあった私の本を、ぴっぴは興味なさげに捲る。歴史の書かれた内容の中には、統制者は出てこない。
隔離され、利用され、。けれど逃げ出すことも投げ出すことも許されない。
それほどに、統制者の能力は厄介なのだ。


「……私も、ぴっぴがいてくれて良かった」

「…真祖様にそんなこと言われるなんて恐れ多すぎるね」

「いいんだよ、ぴっぴはただの志田愛佳として私の側近なんだから」

「側近ねぇ。かっこいいけどさぁ詰まるところ秘書みたいなもんだよなー」

「今はそういうのが多いからね」

「……あいつらはいつまでいるのかな」

「……、」


ぴっぴの言うあいつらは、黒衣装の子達だ。
田村保乃
藤吉夏鈴、
山﨑天
武元唯衣
松田里奈……


彼女たちは今はただ、ここに制限されているだけ。期間を終えれば自由の身だ。



「で、番候補はあのメンツ?」

「……あの子たちがここに残ることを選んだなら、それが必然かな」

「あくまで、惹き付ける力ってやつね」

「私にその力があるんなら、それが答えだと思う」

「…尾関が文句つけたら殴ってやるから呼んで」

「また血出ちゃうじゃん」

「真祖に口を出すってことは、そういうことだろ」

「…違うと思うよ」



目の前の影は、晴れた。

そのために今までの選択は捨てなければならなかった。
できない、不可能な可能性があれば、選択から外していた生き方では、きっと影は私を喰らい尽くしたと思う。


危機的ではあったけれど、それに気づいたのは今回の件のおかげだった。  進まなければならない。成長しなければならない。
影に喰われている場合ではない。

でもきっと、ひとりじゃ越えられない壁にも当たる。万全なら悠々越えられるのも、疲労して磨り減っていたなら私は負ける。

強くない。
自分を信頼なんてしない。

間違えてばかりだ。
それを気づくのは後戻り出来なくなってから。


「平手」

「、ん?」

「またなんか、オオカミと騒いでるみたい」


バタン、とドアが閉まる音がして誰かが来ていたんだと気づく。ぴっぴは手渡されたであろうその紙をペラリ、と私の前に差し出す。手に取って見てみれば、吸血鬼起因のオオカミとのトラブルが書かれた報告書だった。
その案件は、数日前に藤吉と天に対応してもらった対象と同一でため息が出る。


「…懲りないね」

「結局対応したのが吸血鬼側だからね」

「原因がこっちだから対応したのに、なにがしたいんだか」

「どうする?」

「由依と茜に連絡取って」

「ガキらは?」

「状況だけ聞こう。今回は呼ばなくていい」


あの時、武元に治癒された後だったけれど疲労は目に見えていた。
これ以上負担をかける訳にはいかない。


「優しいねぇ」

「愛佳も行くんだよ、ほら」

「秘書は秘書らしく大人しくしてたい!」

「側近だって言ってんでしょ。行くよ」




間違えていい、なんてない。
信じれなくていい、なんてことも無いはずだ。

だから、変わった。
手段を変えた。今回は、それが幸いにも繋がっただけだ。



けど、それが
この先も正解なんてことはない。

疑って、苦しんで。間違えて、後悔して。

けれどどこかで、糸口を掴む。

あの子たちが、今、前を向けているように。
理佐が今、ねるとともに歩くように。


後悔と、間違いの先で。


私も、影を晴らし、先に進む手段を得る──。

30/31ページ
スキ