家庭教師×生徒
「どうもはじめまして」
「………」
「渡邉理佐が来れないので代行です。と言っても料金発生しないので、ただのお使いなんだけどねー」
だれ。この人。それが第一印象で。
思い返して、難しい問題を解くのと取引で教えてもらった先生のアカウントで時々現れる人だと気づく。
きっと、先生の、あの柔らかい笑顔を生んだ”大学の友人”さん。
玄関で待ってもらって先生出されていた宿題を渡す。来れないなんて連絡無かったから、ショックとともに苛立ちが募る。
なんで、直接ねるに連絡くれなかったんだろうか。
「これです」
「、ありがとう。確かに」
「……」
「…………理佐のどこが好きなの?」
「っ!??」
ねるの渡したそれを脇に抱えると、その人はニヤリと笑ってそんなセリフをぶん投げてきた。
初対面の人間にそんなこと聞く?しかも今のやり取りでそんな縁なかったばい!急な展開に、体が固まって熱くなっていくのがわかるけれど、それを止める術なんてなかった。
「っ、な、に言って」
「あいつ鈍感だから大変でしょ。彼氏がうちの大学にいるってほんと? どうせ好きな人がいるとか言われたの勘違いしてるんだと思ってるんだけど」
「───、、!?」
まだ処理も追いつかないままに次の衝撃が来る。か、彼氏ってなん??
そんな人おらん。確かに好きな人がおるって言って。先生には付き合ってるかどうか振られて、先生の反応が知りたくてあやふやに返してしまった記憶はある。
それがまさか、そんなことになってるなんて。
「ねるちゃん?大丈夫??」
「……ほんとですか」
「なにが?」
「今言ったこと、…ほんとですか」
「志田は事実しか口にしてないよ」
事実。じじつ。そりゃ、ねるのアピールがスルスル抜けていくはずばい。
あれだけ迫って、普通の家庭教師の生徒の言動から外れた態度をとって、困ったように受け入れるわけったい。
嘘やん。でも、そうか。ねるの気持ちなんて知らんで、しかも彼氏がおるなんて聞いたら、そりゃぁ自分が恋愛対象として好まれてしかも迫られてるなんて思わなかよね、。
「……はぁ、、」
「そんな凹まなくてもいいんじゃない?勘違い鈍感りっちゃんだからさ。でも、だからぶつかってけばどうにかなるよ」
「…りっちゃん、?」
「私が勝手に呼んでる愛称。ねるちゃんのこと、よく喋ってるよ。どうでもいい存在ではないってこと」
「……、」
りっちゃんて呼ばれとる…。
ねるの事、よく喋っとる…。
……ちょっと嬉しい。
代行で来た志田愛佳の言葉に一喜一憂しながら、”先生”の肩書きが外れた先生のことを教えてくれた。
ねるの知らんことばっかりで悔しくなるけれど、それ以上に知らない先生のことを知れるのは凄く嬉しくて、高鳴ってしまう。
「写真みる?」
「うん」
「りっちゃんの顔めちゃくちゃ好みなんだよねー、ねるちゃんが好きになるの分かるよ」
「愛佳と一緒にせんで」
「え、ひどくない?」
ねるにとって、先生を知る唯一の人。
一見強気で怖そうなのに、笑うと無邪気で明るくて、1歩引いて腕を開いててくれる。先生の友人は、とてもいい人だった。
「はいこれ。ねるちゃんから」
「……ちょっと、ねるちゃんって何」
「なに?別に良くない?私先生じゃないし」
「友達でもないじゃん」
「いや、友達になりましたー。あっちだって愛佳って呼んでくれてますー」
「………」
「連絡先まで交換し─痛!ひどい!お遣いしてあげた友人にそれは無いでしょ」
「うるさい」