Unforgettable.
首に回っていた腕が落ちて、捕らえるように抱きしめていた自分の腕にねるの体重が掛かる。
ねるは限界かもしれなかった。
ぐちゃ、と生々しい音を立て牙を抜く。溢れるソレをこぼれないように舐め上げる。
ビクビクと反応するねるが愛おしかった。
欲が溢れて止まらない。
ねるの全てが欲しい。
「……り、さ…っ」
「はっ、ぁ…」
理佐の口がねるの血を纏い、悲劇のようだった。
理佐はそのまま押し付けるように、ねるにキスをする。
「ん、ぅ……、」
「舌、出して。ねる…」
くちゅ、と音が聞こえる。
血の独特な粘着性も加わって、隙間なく埋められていく。
血が奪われ、酷い倦怠感に襲われる中で
深いキスに酸素まで奪われていく。
次々と生きるために必要なものが理佐に遮断され
もしかしたら、このまま死んでしまうのかと思った。
ーーー『あの子の血で生きていたい。あの子の血がこの体から消えたなら、私もあの子といく…』ーーー
菅井の言葉が脳裏を過ぎり、何故かそれでもいいかもしれないと思ってしまう。
君と共にあり、君と共に散る。
それは、奇しくも『記憶に残りたい』と願ったそれに酷く似ていた。
立場は全く違うのに、菅井の言葉をねるは理解出来てしまった。
今までの行為にはない感覚ばかりが襲ってくる。
熱に溶かされるように消えていた意識もギリギリで保たれている。
痛みがある。
血が奪われ、酸素が奪われ、自分の体が『限界』だと訴えている。それでもいいと受け入れられていて、
理佐が求めてくれているのが幸せだった………。
漠然と理佐を感じられた。
「……る、ねる、」
「………、、、」
「よかった、、、ねる、ごめん、…ごめんっ!!」
理佐の腕の中で目が覚める。
これも、今までになかったことだった。
嬉しくて泣きそうだったけれど、理佐から温かい雫が落ちてきて、震える声に気づく。理佐が泣いているんだ。
「ごめん、…ねる」
「………りさ、やさしくなかった…」
「………ごめ、」
「でも、…ええんよ。りさが求めてくれて、うれしかったけん」
重い体を必死に動かして
理佐の頬に流れる涙を拭う。
「ちょっと、しんどいだけやけん。ぎゅってしとって」
「うん、……ねる?」
「ん?、」
「……ありがとう」
意識が再び遠ざかる瞬間、理佐の笑みが見えた気がした。
遠くで、話し声が聞こえる。
聞き馴染んだ声だった。
ーー容赦ねえなぁ理佐は。溜まってるのは分かるけど最初からそんな激しくしちゃだめ!
ーーねぇ、もう少し言い方ないの
ーーええ、でも土生ちゃんもそんな感じやったよな?
ーーえ?そうだっけ?
ーー覚えとらんの?ウチ死ぬかと思ったわぁ。
ーー土生はイメージあるなー。オオカミ相手にした時の真顔こえーもん
ーーだってそれはみいちゃんのこと狙ってくるからさぁ。でも、最初のことはちゃんと覚えてるよ!たしか、教室で
ーー土生ちゃん!そんなんええから!!
ーーはあ!?お前ら初体験学校かよっエロい!
ーーえ?うん。だってみいちゃ
ーー土生ちゃん!!愛佳も変な言い回しせんでやっ、とにかく!今は理佐とねるの話やろ!
「………ねる?」
「……おはよ、理佐」
急に近づいた愛しい声に目を開ければ、目の前には理佐がいた。
聞きなれた声の主たちも、こちらに目線を向け身を乗り出してくる。
「大丈夫?ねる、しんどいやろ」
「目が覚めてよかったー、」
「むっつりりっちゃんは叱っといたからね!!」
一斉に話しかけられてねるはあっけに取られるけれど、表現は違くても心配してくれていることだけはしっかり伝わってきて安心する。
「なんで、みんなここに?」
「理佐がねー、もうパニックになっちゃってね。私に連絡してきたんだよ、ね?りっちゃん」
ニヤニヤしながら愛佳が理佐に話を振る。
「……ごめん」
「そっか。ごめんね、心配かけて」
「違うよ、私が我慢効かなくてーー…」
否定しようとした理佐が詰めた距離は僅か数センチで。しかし元々近くにいたせいもあってねるとの距離自体が数十センチの世界だった。
ねるの香りが、再び理佐の欲を掻き立てる。
その異変にいち早く気づいたのは愛佳だった。
「………………」
「あ、はいはい。りっちゃん離れようねー。ねるも我慢してね」
「え?」
そう言って、愛佳が俯く理佐の腕を引いて壁の向こうに行ってしまう。
そばにいて欲しいのに、と悲しくなった。
「美味しいご飯はいっぱい食べたいでしょ?」
「え?」
「よっぽどねるの血うまかったんやろなぁ。吸血に慣れてないのもあんねんやろうけど」
「…………」
どうやら、吸血欲のタガが外れて
自制が効かないらしかった。
心配していると戻ってきた愛佳に『ねるにだけだから』と念を押された。
正直、身体がしんどすぎて
しばらくは許してあげられそうにない。
ベッドの前で座るみんなに合わせて体を起こしたいけれどそれすら叶わなかった。
ねる「……みんな、吸血鬼?なん?」
愛佳「私はちょっと違うかなー。似たようなもんだけど」
バトンを渡すように、愛佳は小池へと視線を投げる。
小池「ウチはねると同じ。人間やったよ」
土生「私は吸血鬼ー。みいちゃんの血しか飲んでないよー、ねるのことは襲わないから安心して!」
言葉とは反対に土生は『食べちゃうぞー』と、ジェスチャー混じりに話をする。
もしかしてと思っていたけれど、こんなにも身近にいるなんて…と驚いてしまう。
愛佳「うちらは特定のパートナーを見つけてってのが多いから、映画みたいにやたらに襲うようなことは無いよ。ただ、」
そういうヤツらがいることは否定出来ないけど、と続いて少し怖くなる。
ねる「愛佳、理佐は?」
愛佳「ん、ああ。少しすれば落ち着くだろうからそしたら戻ってくるよ。今まで興味すらなくて毛嫌いしてたのにね。まぁ。私らにしたら安心だけど」
小池「まぁなー。ウチも土生ちゃんが欲強いんかと思っとったけど、あの様子じゃぁそんな変わらんのかもしれんで安心した」
土生「これでも抑えてるんだけど…」
小池「そのままでお願いします」
他愛のない話をしていたら、理佐が戻ってきてねるも安心する。少し疲れた顔をしているけれど、愛佳の声掛けに大丈夫だと返事しているのが聞こえた。
愛佳「じゃあ、ねるも大丈夫そうだしあんまいても悪いから帰るわ」
小池「そやね。うちらもおいとましますぅ。ねる、ちゃんと休んでね。ごはんたべるんよ」
ねる「うん、ありがとう。気をつけてね」
土生「じゃあねー」
愛佳「ねる、襲われそうになったら呼べよ」
理佐「ありがとー!またね!早く帰って!」
りっちゃん酷い!なんて愛佳の声が玄関から聞こえて、ガチャんと玄関が閉まる音がした。そのまま、しん。と静かになる。
さっきは分からなかった理佐の戻ってくる足音だけが響いた。
「大丈夫?」
「うん」
「嘘。」
怒るように凄んでくるけど、怒ってないことは誰でも分かるくらいだった。
「……えへへ。ちょっと体しんどい、」
「…うん、いっぱい貰っちゃったから…」
「満足できたと?」
「……それ、わざと聞いてるの?」
「うん」
少しムッとした目が見つめてくる。
そんなやり取りが、ちゃんと向き合って話ができている気がしてうれしかった。
「ほんと言うと、足りない」
「………」
「でも別に枯渇してるとかじゃなくて、美味しくて、欲しくて…多分、いくら飲んでも足りないと思うから」
「それは怖いです。理佐さん。ねる干からびちゃう」
冗談ぽく言うと、理佐は表情を柔らかくしてくれた。
「だから、大丈夫。今はちゃんと休んで」
話すためにズラした布団が直される。すっぽりと首元まで包まれた。
あ、とねるは首元を触る。傷痕は何も残っていなかった。
「……傷は消しといたよ。嫌でしょ?」
「……べつに消さんでええのに」
口を尖らせるねるに理佐は疑問しか浮かばない様子だった。
「なんで。やじゃん。痛いし気持ち悪いでしょ、」
「……気持ち悪くなんてなかよ。理佐やけん。……こうやっていられるのが夢みたいで現実味ないけん、不安と」
「………そっか、ごめんね。」
「んーん。」
少しの沈黙を置いて、理佐が立ち上がる。
視線で追うねるに気づいた理佐が、困ったような笑顔を見せた。
「電気消すよ。寝な?」
「理佐は?」
この覚えのある匂いと慣れない布団は理佐のものだって気づいていた。
一人暮らしでベッドをとってしまったら、理佐の寝るところがないことくらい考えなくても分かる。
「んー、適当に作るから。ソファーもあるし」
「いけんよ、一緒に寝よ。ねるも寂しいけん。」
「………ねるちゃん、それは出来ません」
「なんでぇ?」
結局、さっきまで愛佳達に言われていたことを丁寧に説明された。間のドアを開けてお互いがの見えるところで寝ることを条件に、ねるは渋々了承した。
「…目、冴えちゃっててすぐは眠れないからこっちの電気つけとくよ。そうしたら見えるでしょ?」
「なら傍におってくれたらええのに」
「そんな危ないことできないよ。我慢どこまで効くかわかんないし私だって緊張してるんだからね」
「………む」
「おやすみ、ねる」
「……おやすみ、りっちゃん」
ピッと音がしてねるの居る部屋が暗くなる。理佐の居る部屋の明かりが丁度間接照明のように差し込んでくる。
理佐は約束通りねるから見える位置に座った。
ちら、とねるを見て『おやすみ』と小声で伝えてくる。
その優しい表情が、堪らなく好きだと思った。
恥ずかしくなって、天井を向いて目を瞑る。
匂いも感触も、さっきまでは視界さえ。
身体が感じるすべてで理佐が存在している。
ーーーそういえば、もう消えたいと思わないでいてくれてるだろうか
先程のやり取りでは、ねるの想いをぶつけて理佐は求めてくれた。けれど、それだけになってしまったような気もする。
理佐は、どう思っているんだろう。
眠気が襲ってくる。
意識が遠のくと表現した方があっているかもしれなかった。
ねるは限界かもしれなかった。
ぐちゃ、と生々しい音を立て牙を抜く。溢れるソレをこぼれないように舐め上げる。
ビクビクと反応するねるが愛おしかった。
欲が溢れて止まらない。
ねるの全てが欲しい。
「……り、さ…っ」
「はっ、ぁ…」
理佐の口がねるの血を纏い、悲劇のようだった。
理佐はそのまま押し付けるように、ねるにキスをする。
「ん、ぅ……、」
「舌、出して。ねる…」
くちゅ、と音が聞こえる。
血の独特な粘着性も加わって、隙間なく埋められていく。
血が奪われ、酷い倦怠感に襲われる中で
深いキスに酸素まで奪われていく。
次々と生きるために必要なものが理佐に遮断され
もしかしたら、このまま死んでしまうのかと思った。
ーーー『あの子の血で生きていたい。あの子の血がこの体から消えたなら、私もあの子といく…』ーーー
菅井の言葉が脳裏を過ぎり、何故かそれでもいいかもしれないと思ってしまう。
君と共にあり、君と共に散る。
それは、奇しくも『記憶に残りたい』と願ったそれに酷く似ていた。
立場は全く違うのに、菅井の言葉をねるは理解出来てしまった。
今までの行為にはない感覚ばかりが襲ってくる。
熱に溶かされるように消えていた意識もギリギリで保たれている。
痛みがある。
血が奪われ、酸素が奪われ、自分の体が『限界』だと訴えている。それでもいいと受け入れられていて、
理佐が求めてくれているのが幸せだった………。
漠然と理佐を感じられた。
「……る、ねる、」
「………、、、」
「よかった、、、ねる、ごめん、…ごめんっ!!」
理佐の腕の中で目が覚める。
これも、今までになかったことだった。
嬉しくて泣きそうだったけれど、理佐から温かい雫が落ちてきて、震える声に気づく。理佐が泣いているんだ。
「ごめん、…ねる」
「………りさ、やさしくなかった…」
「………ごめ、」
「でも、…ええんよ。りさが求めてくれて、うれしかったけん」
重い体を必死に動かして
理佐の頬に流れる涙を拭う。
「ちょっと、しんどいだけやけん。ぎゅってしとって」
「うん、……ねる?」
「ん?、」
「……ありがとう」
意識が再び遠ざかる瞬間、理佐の笑みが見えた気がした。
遠くで、話し声が聞こえる。
聞き馴染んだ声だった。
ーー容赦ねえなぁ理佐は。溜まってるのは分かるけど最初からそんな激しくしちゃだめ!
ーーねぇ、もう少し言い方ないの
ーーええ、でも土生ちゃんもそんな感じやったよな?
ーーえ?そうだっけ?
ーー覚えとらんの?ウチ死ぬかと思ったわぁ。
ーー土生はイメージあるなー。オオカミ相手にした時の真顔こえーもん
ーーだってそれはみいちゃんのこと狙ってくるからさぁ。でも、最初のことはちゃんと覚えてるよ!たしか、教室で
ーー土生ちゃん!そんなんええから!!
ーーはあ!?お前ら初体験学校かよっエロい!
ーーえ?うん。だってみいちゃ
ーー土生ちゃん!!愛佳も変な言い回しせんでやっ、とにかく!今は理佐とねるの話やろ!
「………ねる?」
「……おはよ、理佐」
急に近づいた愛しい声に目を開ければ、目の前には理佐がいた。
聞きなれた声の主たちも、こちらに目線を向け身を乗り出してくる。
「大丈夫?ねる、しんどいやろ」
「目が覚めてよかったー、」
「むっつりりっちゃんは叱っといたからね!!」
一斉に話しかけられてねるはあっけに取られるけれど、表現は違くても心配してくれていることだけはしっかり伝わってきて安心する。
「なんで、みんなここに?」
「理佐がねー、もうパニックになっちゃってね。私に連絡してきたんだよ、ね?りっちゃん」
ニヤニヤしながら愛佳が理佐に話を振る。
「……ごめん」
「そっか。ごめんね、心配かけて」
「違うよ、私が我慢効かなくてーー…」
否定しようとした理佐が詰めた距離は僅か数センチで。しかし元々近くにいたせいもあってねるとの距離自体が数十センチの世界だった。
ねるの香りが、再び理佐の欲を掻き立てる。
その異変にいち早く気づいたのは愛佳だった。
「………………」
「あ、はいはい。りっちゃん離れようねー。ねるも我慢してね」
「え?」
そう言って、愛佳が俯く理佐の腕を引いて壁の向こうに行ってしまう。
そばにいて欲しいのに、と悲しくなった。
「美味しいご飯はいっぱい食べたいでしょ?」
「え?」
「よっぽどねるの血うまかったんやろなぁ。吸血に慣れてないのもあんねんやろうけど」
「…………」
どうやら、吸血欲のタガが外れて
自制が効かないらしかった。
心配していると戻ってきた愛佳に『ねるにだけだから』と念を押された。
正直、身体がしんどすぎて
しばらくは許してあげられそうにない。
ベッドの前で座るみんなに合わせて体を起こしたいけれどそれすら叶わなかった。
ねる「……みんな、吸血鬼?なん?」
愛佳「私はちょっと違うかなー。似たようなもんだけど」
バトンを渡すように、愛佳は小池へと視線を投げる。
小池「ウチはねると同じ。人間やったよ」
土生「私は吸血鬼ー。みいちゃんの血しか飲んでないよー、ねるのことは襲わないから安心して!」
言葉とは反対に土生は『食べちゃうぞー』と、ジェスチャー混じりに話をする。
もしかしてと思っていたけれど、こんなにも身近にいるなんて…と驚いてしまう。
愛佳「うちらは特定のパートナーを見つけてってのが多いから、映画みたいにやたらに襲うようなことは無いよ。ただ、」
そういうヤツらがいることは否定出来ないけど、と続いて少し怖くなる。
ねる「愛佳、理佐は?」
愛佳「ん、ああ。少しすれば落ち着くだろうからそしたら戻ってくるよ。今まで興味すらなくて毛嫌いしてたのにね。まぁ。私らにしたら安心だけど」
小池「まぁなー。ウチも土生ちゃんが欲強いんかと思っとったけど、あの様子じゃぁそんな変わらんのかもしれんで安心した」
土生「これでも抑えてるんだけど…」
小池「そのままでお願いします」
他愛のない話をしていたら、理佐が戻ってきてねるも安心する。少し疲れた顔をしているけれど、愛佳の声掛けに大丈夫だと返事しているのが聞こえた。
愛佳「じゃあ、ねるも大丈夫そうだしあんまいても悪いから帰るわ」
小池「そやね。うちらもおいとましますぅ。ねる、ちゃんと休んでね。ごはんたべるんよ」
ねる「うん、ありがとう。気をつけてね」
土生「じゃあねー」
愛佳「ねる、襲われそうになったら呼べよ」
理佐「ありがとー!またね!早く帰って!」
りっちゃん酷い!なんて愛佳の声が玄関から聞こえて、ガチャんと玄関が閉まる音がした。そのまま、しん。と静かになる。
さっきは分からなかった理佐の戻ってくる足音だけが響いた。
「大丈夫?」
「うん」
「嘘。」
怒るように凄んでくるけど、怒ってないことは誰でも分かるくらいだった。
「……えへへ。ちょっと体しんどい、」
「…うん、いっぱい貰っちゃったから…」
「満足できたと?」
「……それ、わざと聞いてるの?」
「うん」
少しムッとした目が見つめてくる。
そんなやり取りが、ちゃんと向き合って話ができている気がしてうれしかった。
「ほんと言うと、足りない」
「………」
「でも別に枯渇してるとかじゃなくて、美味しくて、欲しくて…多分、いくら飲んでも足りないと思うから」
「それは怖いです。理佐さん。ねる干からびちゃう」
冗談ぽく言うと、理佐は表情を柔らかくしてくれた。
「だから、大丈夫。今はちゃんと休んで」
話すためにズラした布団が直される。すっぽりと首元まで包まれた。
あ、とねるは首元を触る。傷痕は何も残っていなかった。
「……傷は消しといたよ。嫌でしょ?」
「……べつに消さんでええのに」
口を尖らせるねるに理佐は疑問しか浮かばない様子だった。
「なんで。やじゃん。痛いし気持ち悪いでしょ、」
「……気持ち悪くなんてなかよ。理佐やけん。……こうやっていられるのが夢みたいで現実味ないけん、不安と」
「………そっか、ごめんね。」
「んーん。」
少しの沈黙を置いて、理佐が立ち上がる。
視線で追うねるに気づいた理佐が、困ったような笑顔を見せた。
「電気消すよ。寝な?」
「理佐は?」
この覚えのある匂いと慣れない布団は理佐のものだって気づいていた。
一人暮らしでベッドをとってしまったら、理佐の寝るところがないことくらい考えなくても分かる。
「んー、適当に作るから。ソファーもあるし」
「いけんよ、一緒に寝よ。ねるも寂しいけん。」
「………ねるちゃん、それは出来ません」
「なんでぇ?」
結局、さっきまで愛佳達に言われていたことを丁寧に説明された。間のドアを開けてお互いがの見えるところで寝ることを条件に、ねるは渋々了承した。
「…目、冴えちゃっててすぐは眠れないからこっちの電気つけとくよ。そうしたら見えるでしょ?」
「なら傍におってくれたらええのに」
「そんな危ないことできないよ。我慢どこまで効くかわかんないし私だって緊張してるんだからね」
「………む」
「おやすみ、ねる」
「……おやすみ、りっちゃん」
ピッと音がしてねるの居る部屋が暗くなる。理佐の居る部屋の明かりが丁度間接照明のように差し込んでくる。
理佐は約束通りねるから見える位置に座った。
ちら、とねるを見て『おやすみ』と小声で伝えてくる。
その優しい表情が、堪らなく好きだと思った。
恥ずかしくなって、天井を向いて目を瞑る。
匂いも感触も、さっきまでは視界さえ。
身体が感じるすべてで理佐が存在している。
ーーーそういえば、もう消えたいと思わないでいてくれてるだろうか
先程のやり取りでは、ねるの想いをぶつけて理佐は求めてくれた。けれど、それだけになってしまったような気もする。
理佐は、どう思っているんだろう。
眠気が襲ってくる。
意識が遠のくと表現した方があっているかもしれなかった。