An-Regret.
オオカミと吸血鬼の繋ぎ役、なんていうのは実際とてつもなく酷い話で。
どちらでもあるなんていう都合のいい解釈は、どちらでもないという劣等感に勝ることはなく
私はまた、ため息をついた。
「……大丈夫ですか?」
「ん?あぁ、ごめん。大丈夫だよ」
「……」
私の言葉に、ひかるは悲しげな顔をしていて
彼女にとって私の力になれていないと思っているのは分かってる。
でも、そんなことない。そんなこと、本当になくてそこにいて私を待ってくれているだけで、それだけで私は。
「ひかる」
「はい」
「最近、何してるの?」
わざとらしいと分かっていたけれど、話の向きを変える。辛いことばかりに囚われてちゃ、選んだ道を後悔するばかりになる。
そんなんじゃない。あの時私が選んだ道は分かりきっていた周囲の否定にため息を着くことじゃなくて
ひかると共に生き、自らを受け入れることだ。
「……ひかる?」
「……最近、嫌な匂いがするんです」
「え?」
「なにか、よく分からないんですけど」
嫌な匂い、嫌なことが起こる予兆、。
きっと、自分たちに降かかることじゃないから、『よく分からない』感覚なんだろう。
だとしたら、
「……またあの二人に面倒なこと起きるのかな」
「…………。」
「……、」
狼であるひかるほど、私は鼻が効かない。
嗅覚から来る察知能力は、明らかにひかるの方が長けている。きっと、ひかるの感じ取ったそれを近いうち自分も思い知ることになると確信した。
私の働きは、果たして。
その事柄に何か影響できるのだろうか。
平手と共に参加する、オオカミ側とのやり取りに私の存在は異端でしかなく。
未だに、有効な存在意義はない。
露呈される嫌悪は、私に何も弁明の余地を作らせない。
でも。
ひかるがいることに、私はいつも救われる。
長い長いやり取りの先で、少しずつ張られた根が支えてくれるように。
私といてくれるひかるが、堂々と胸を張れるように。
今はただ、地に足をつけ踏ん張るしかないのかもしれない。
「あ、最近」
「ん?」
「不思議な匂いの子に会いました」
「へぇ、どんな子?」
「人の匂いをさせてるのに、人じゃないんです」
「……、」
「3、4人で歩いてましたけど、その子だけ話しかけに来て」
「上手く隠してましたが、あれは──、」
その話は、どうか杞憂に終わって欲しい。
あの二人は、やっと落ち着いて過ごしているのに。なにを乱そうというんだろう。
ひかるの『嫌な匂い』も『不思議な匂いの人』も、
どうか、私たちの日常に関わらずに過ぎ去れ。
けれど結局、
感情はブレーキをかける理性をひれ伏せさせ、
私は今までの無力さも、自己否定も、不満をもぶつけるように
静かに佇むあいつへ、足を向かわせることになる。