An-Regret.

「平手」

「ん?」

「また来てるよ、番候補を出せってさ」

「……その辺捨てといて」

「はいよ」


ぴっぴの手からそれは離されて、軽すぎる重力に左右へ揺れながらゴミ箱へ姿を消した。

寄って集る手紙には、たくさんの文字。固く畏まった言い回しはどんなに遠回りしても同じことの繰り返し。
元々、色濃く番候補だったねるが、『収奪された』とされてから
処罰の甘さをつつかれ、それが落ち着いたと思えば次の番候補を催促され。溜息をつきながら思考を巡らせた日々は既に終わり、何をそんなに急くんだと苛立ちすらある。


「なんも起きないね、最近」

「…そうだね」

「弱ってんの?」

「……」


こういうことをダイレクトに言えるのは、凄いなと思う。
ただ、それが彼女にとっての役割によるものであるなら彼女が望んでしているのではないのかもしれない。なら、『すごい』という評価はきっと間違っている。


「候補らしいのも、来ないしな」

「……最近、変なのが出入りしてるけどそれとか?」

「……まじ?あれが番候補なら全力で止めるけど」

「私にも分かんないよ」


引きつける力、とは名ばかりで。その力を操れる訳では無い。運命や偶然、必然が、後付けで評価されるように
私の『番』候補が、その力によってどこまで惹き付けられているのかすら分からない。

決まった時に、この人だったのかと感じることになる。
それは果たして自分の力の言えるのか分からない。けれど周囲は、愛佳でさえ。それを私の力だと言うのだ。


「ぞわっと感じるやつとか、気になるのいないの?」

「…いない」


力とは結局、他人の評価によるものだ。
自分の認識が他に勝れば自意識過剰だし
他に劣るならば、過小評価と言われる。

自分が判断できることなど、ない。

そんなことを考えていたら、視線を感じて顔をあげればニヤついたぴっぴと目が合った。


「嘘だね」

「!」

「その反応は少なからず何かを感じたやつに会ってるだろ。それが番候補かは別にして」

「……」

「番候補だといいな、とは思わないよ」


その言葉は、彼女なりの気遣いだとわかる。それを表面には出さないけれど『何が』と表すことなく、そのままを構えている。それはきっと周囲が求める彼女の働きに背いているのに。

愛佳は、私から離れることはなく寄り添い、
それは大事な人と会えないことを意味しているのに、それを悩む素振りすら見せなかった。


「番なんてのは、運命より何より自分の意思で決めるもんだよねぇ」


──『理佐がそうだったように』

そう、言葉が続いた気がした。


「うん、」


理佐にとってのねるは、きっと運命ではなかった。

それはきっと、私に向いていたはずで。
けど、理佐と、ねると、私の意思で違う道を選んだ。
私に引き付ける力があるというのなら、まだ、私たちには先がある。引きつける力を裏切り背いた、末路があるんじゃないか。



けれど。
だからこそ。

私の番は

誰になんて言われようと、自分の意思で決める。


それを後付で運命だったと、引き付けられたのだと言われてもいい。


選んだ答えがなんだったのかなど、自分にしか価値はない。

何かを選んだ、そのものに。
自分の意思は、あったか。


投げ出し、諦めた答えの後悔なんて
背負えるはずがない。




「後悔、してなさそうだね」

「……しないよ。ねるとは幼なじみ、番なんて重苦しい関係じゃない。それを間違いだなんて思わない」


愛佳が笑って。

私はまた、いつもの位置に座る。


日々はまだ穏やかに過ぎると、思っていた。









──静かに。

そして、唐突に降りかかる。



それは、

運命に背いた私たちへの



意思も覚悟も無視した、

酷く強制的な、警鐘だった。

13/31ページ
スキ