An-Regret.
世界の影は、消えたりしない。
どんなに明るさに照らして隠されたとしてもとしても、
どんなに照らしを弱くしてぼかしたとしても
その存在は、どこかで。
たったひとつの『魔が差した』と言われるほどの些細な出来事で。
ハッキリと、明確に
何かが何かを生み出すように。
『私たち』は、そういうものだと思っていた。
井上『なぁなぁ』
松田『んー?』
井上『ほんまにこの話、受けるん?』
松田『……んー、そうだねぇ』
バラバラな制服と、私服。
世間に溶け込むために身につけたそれは確かに、その他大勢に紛れる。
安心する反面、己と周囲の明らかな違いに気づかない人間たちに、呆れてしまう。
井上『みいさん、優しいから騙すん嫌やなぁ』
夏鈴『あんたは騙すんとちゃうやろ、足止めやん』
井上『夏鈴はええの?怪我するかもやんか』
夏鈴『んー、。まぁ、そんなんどうでもええ。それに、大して攻撃できるわけやないみたいやし。捕獲だけならどうにかなる』
保乃『それよか解除やない?あの人出来る言うてたけど、それって…』
松田『……私たちは私たちが生きるためのことをする。何を切り捨てて、なんのために自分を殺すか…それは自分が決めることだよ』
『………』
私たちには親がいない。その形は様々で、だから私たちは同じ環境の中で全く違うものを背負ってる。
だからこそ、求める先にはズレがある。
けれど、その手段は近しい。
夏鈴『如何にもな服も貰ったしなぁ、あれがうちらの役目なんやろ』
井上『The、悪役って感じやよな』
松田『……ねえ、みんな』
ただ、だからって。
全員が同じことをしなくちゃいけないわけじゃない。
自分が求める先に、どうたどり着いたかは
自分自身の価値観によって大きく色が変わってしまうから。
松田『ほんとに、やる?みんながやるからやる、じゃ後悔することになるよ』
夏鈴『……分かっとる』
井上『…みいさんには悪いけどなぁ、。』
保乃『……』
松田『保乃、』
田村『……やる。自分で決めたんやもん』
松田『……、』
保乃『ただ、お願い。うちを真祖んとこ付かせて欲しい。最後までちゃんと、悩んで決める』
松田『いいよ。』
The、悪役
如何にもな服。
黒く、マント状なそれを保乃に渡す。
少し迷った手はしっかりとそれを握りしめた。
松田『保乃、嫌になったら逃げていいからね。それで恨んだりしない』
保乃『…まりな、』
松田『最後まで、悩んで、決める。私たちはそうやって生き方を選んできた』
環境を決められた人生だから。
せめて、その生き方だけは自分たちのものだと。
それが、足掻きだと言われてもいい。
私が歩むのは、誰かの人生じゃない。
夏鈴『悩むん苦手や…』
井上『夏鈴はなー、だるそうやもんなー』
夏鈴『井上もやろ、アホ』
井上『夏鈴より頭いいやろ!』
保乃『……唯衣は?』
松田『話受けに行ってるよ』
保乃『2人は決めたんだね』
松田『うん。でも、決めたからって悩まないわけじゃない』
保乃『……』
松田『置いて逃げたらごめんね』
保乃『ふふ。大丈夫、恨まへんよ』
私たちは、偶然にも追い求める先が似ていて、
置かれた環境が同じだっただけ。
どこで別れてもおかしくないし、
恨み言など、言えるものはない。
ただどうか。
進んだ先の溢れ日を、心休んだ場所で
受けることが出来たなら、幸せだと思うんだ。
その影がどんなに色濃くなっても、
どんなに、広がっても
それは自分の全てだから。