An-Regret.

私は、自分のことを信用していない。

出来ることなんてたかが知れているし、私が私であること以上に在ることなんて出来ない。

すべて捨ててしまいたいこともあった、
けど。

それをするほどに、自分を否定することも出来なかった。


でも、そんなのは大抵の人が抱えている。
全く同一でなくても、各々が背負って
時に俯きながら、空を仰いで。
時間に押し出されるように、進んでいる。


だから。

私は自分を信用しなくても、私でしかいられなくても

後悔も失敗も…涙も、怒りも

生きて、抱えていくしかないんだ。













それは。いつからかも分からない程の違和感だった。

気づけば砂利道となって、徐々に石が大きくなって歩きづらく、時に 体勢を崩しかけるほど。
体力を消耗してまでそれを乗り越えなければならなくなってから
その道の歩きづらさはいつからだったか考えて……どの時期からかなど思い出せなかった。



「………こんなとこまで何の用?」



気づけば、越えられない壁。
切れる呼吸。
疲労に鳴く、筋肉。
足も手も、皮が向けて痛い。
全力なら乗り越えられたはずのその先は、少しづつ摩耗した体では越えられないと気づいてしまう。
壁の向こうから日が差して…私の前には影だけだった。





『あまりに甘い処罰だと…思いませんか』


目の前に立つ、そいつらは
本来なら別の区域にいる存在だった。
ここに来るまでに費やす労力など『甘い処罰』に相応するかと考えて…目の前のヤツらのくだらない価値観に、思考の無駄だとカタをつけた。


「…私はそれが妥当だと判断した」

『貴女は自己を過小評価し過ぎだ』

「…周りが勘違いしすぎなんだよ。私はただの―…」


言葉の続きを『真祖』、と邪魔される。
話を邪魔されるのは、誰にとっても不快だと思う。


『ただのなどと、使わないで頂きたい。私たちは貴女の元に従っているんです』


それは、目上の相手だと崇拝するのなら、尚のことできるはずのない事だ。


「……勝手にしてよ。そんなの背負いきれない」

『……、真祖の、希少な番候補を収奪するなど死に値する』

「……。」

『勝手にさせて頂きます、番が成立すれば貴女は立場を認識し自己評価にも繋がるでしょう』

「誰のことを言ってんの」

『……あなたの世界には最早存在しない『物』の話ですよ』

「……その言葉の意味を知りたくもないけど、」


甘い処罰は、私の首を締め付ける。
こんな言葉にすら、私は。
怒ることも、知られずに拳を握ることすら、出来ない。

あの処罰が、甘いだなんて、笑わせる。

どんな表現も、私たちの苦しみを表すとこなんて出来ない。この苦痛は、私たちだけのものだ。


「……私の価値観は、私にしか変えられない。何かを利用して動かそうなんて、出来やしないよ」

『では。そのように』


姿を消したその空間から気配が消えて、
愛佳が入ってくる。
同席しようとしたにも関わらず、愛佳は異物として排除されてしまっていた。


「……平手、」

「―……ねるを探す」

「平手は待ってろ、私が行く」

「……っけど」

「ねるは番だ。平手は行けないだろ」

「――……っ、」


愛佳が出ていった後の、無機質な部屋が私に孤独を押し付ける。



「ねるとは連絡が取れるはずだ…愛佳なら、…大丈夫…、」


神に祈るように、手を組んで額を預ける。



てちらしいと言ってくれた、この部屋は
悲しいくらい私の中には何も無いと、伝えてくる。
愛佳がいて、ねるが来て……誰かがいなければ
私の中が色づくことなんてないんだ……。


最悪の事態は、神に祈ったところで
回避出来るわけが無い。
そんなこと、普段のように冷静に考えればわかるはずだったのに
私はまるで、神を崇拝するかのように目を閉じた。


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