Wolf blood

夜。
土生ちゃん宅にて。


「…………」

「ーー…………、」



しん、と静まり返った空気。
冷たくて、固い。身動きひとつに気を使う、そんな空気。



正座して、体を固める理佐を中心に、

ねるは、理佐の斜め後ろに座ってて。
土生ちゃんは、反対に理佐の斜め前に、座ってる。

理佐の正面には、、、みいちゃん。



「……どういうことや」

「……ごめん、」

「ごめんやあらへんわ。どういうことか聞いとんのや」

「………、」

「みいちゃん、落ちついて」

「落ち着いとる」

「…………」


たしかに。みいちゃんは落ち着いとる。
それはもう、………怖いくらいに。

土生ちゃんまで正座して、体を竦めたままのこの状況。
みいちゃんの目は細められたまま、理佐から外れん。……どうしよう。


「いてこますんは簡単やぞ。うちかて『番』や。口使えんのやったら、耳から手つっこんで奥歯ガタガタいわしたるわ!!」

「っ!!」

「ちょっ!みいちゃん!」



ぐわあ!って音がするように、ふつふつと始まったみいちゃんの怒りは言葉と共に溢れかえって
片足を出したと思えば理佐の胸ぐらを掴んだのやった。


「リアルにガタガタ言わしたるぞ!はげぇ!!」

「みいちゃん!足っ、中見えちゃうよ!」


えっ!?土生ちゃん今そこやないって!!


「は、はげてなぃ……!」


りっちゃん!!
声ちっさ!!そんでりっちゃんもそこやないってぇ!!


みいちゃんの手を外しに行ったかのように見えた土生ちゃんは、みいちゃんのスカートを抑えとって、

理佐は胸ぐらを掴まれて膝立ちになりながら、何故か頭のてっぺんを抑えとった。


「脳みそハゲとるって言ってんのや!ぼけ!」

「のうっ!?」


……脳みそ見えんよ?なんでそんな驚いとるの、。
りっちゃんてこんなアホやったっけ?


「口も頭も使えん赤ん坊か!そんなんやったら血ぃもらわんでねるの乳でも飲んどけや!」

「………っ!」


何を思ったのか……いや、思ってることなんて手に取るように分かる…。
そんな顔を真っ赤にしたりっちゃんを見て、何かが切れる音がした。


「ッこんのダボがァァ!!!」

「~~~!??」

「みいちゃん!?」


あのにこにこ可愛いみいちゃんが鬼の形相で立ち上がる。
引き上げられた理佐はそのままガクガクとみいちゃんの力のままに振り回されとった。小さい頭がガクンガクンいってマリオネットみたい…、首大丈夫やろか、


必死にみいちゃんのスカートを押さえとった土生ちゃんが、さすがにやっと、みいちゃんの手を掴んで外そうとする。
それでも外れんみいちゃんの手。

ううむ。強か。


「何えろいこと考えてんねん!」

「だっ、だって美波が、!ね、ねるの…ち、乳とか言うから!」

「脳内花畑かこらぁ!クールな見た目しとる癖にむっつりかぼけぇ!!」


……りっちゃん。泣

あぁ、と頭を抱えてから、視線を感じて顔を上げる。
気まずそうな顔の理佐と目が合ってしまった。

………りっちゃん。
そんな、こっち見らんで。
そんなことしとったら…


「りぃさぁ〜ー……!!」


ああもうほら、。
鬼の顔から般若になったみいちゃんが、
理佐の両方のほっぺたを、片手で鷲掴みにする。
みいちゃんの手も小さいけど、理佐の顔もちっちゃいけん、なんか、不思議…。

しかし。
うにゅーってタコさんになっとるりっちゃんも可愛い。なかなか見れんけん拝んどかんと。



「なにまた勝手に花咲かせてんのや…」

「うぃにゃうぃ……をめ、、」



………スマホを探そうとした手を止める。
うん。いかん。そんな時間やなかね。
殺されちゃう。


「落ち着いてみいちゃん、手離そう?」

「…………」

「理佐だって、色々考えてたよ?こうしてまた会えたんだし…」

「………」


やっと来たー!土生ちゃん!!待っとったよー!!
土生ちゃんの落ち着いた雰囲気に、みいちゃんの顔が少しだけ落ち着いて
理佐を掴んでいた手を下ろす。

痛むのか、りっちゃんは自分の頬をマッサージするようにさすっていた。


「……美波、ごめん」

「………、なにが」

「…記憶…消したことも、逃げたことも」

「……それは誰に対して思っとるんや」

「…え?」


さっきとは違う、みいちゃんの瞳。
真面目な顔をしたみいちゃんに引っ張られるようにして、理佐も固い顔になる。


「……それは」

「……ねるがどんだけ辛い思いしたか分かっとんのか!」


みいちゃんの声に、怒り以外の感情が乗る。
みいちゃんの優しさが、いっぱいに溢れていて
聞いているねるでさえ、泣きそうになる。



「ねるが理佐んこと好きなんは分かっとったやろ!」


「好きな人に、大事な人に、別れ告げられるんが、しかもそれすら分からんで、過ごさないかん!」


「うちらなんてどーでもええねん!大好きな人、泣かせるようなことすんなや……っ!」



堰を切ったように、みいちゃんから涙が溢れ出して
でも、手を伸ばそうとした理佐よりも先に
土生ちゃんが腕を伸ばしてみいちゃんを抱きしめる。

理佐と土生ちゃんに見えない火花が散ったように思えた。


「よしよし、」

「ううー、っ」

「…………、」


長い腕に閉じ込めて、涙の止まらないみいちゃんの頭を撫でる土生ちゃん。みいちゃんも、土生ちゃんの服を握りしめとった。

どんな形であれ、好きな子を泣かせた相手に触らせたくないんやろか…。土生ちゃんてあんなふうに見えて意外と独占欲が……


あ。


番って『そういう』ことなんかな。




「理佐」


そう、声を掛ければ
尻尾を垂らしたわんこが寄ってくる。

少しだけ頬が赤いんは、みいちゃんに掴まれたせいかな?



叱られたわんこを撫でて、
みいちゃんが落ち着いてから
仲直りして。

みんなで美味しいごはんを食べました。














おまけ。



「土生ちゃん」

「、理佐」

「あの、ごめん……いろいろ」

「ふふ。いいよ。ちゃんと2人は一緒になれたし…『また会えて』私も嬉しい」

「……ありがとう」

「でも」

「?」

「次、みいちゃんのこと泣かせたら許さないよ」

「…………、はい」






笑顔の奥で土生ちゃんの目が紅く染まってたのは気のせいじゃないって。
ぷるぷると震えながら、わんこは話してくれました。




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