Unforgettable.


首元に触れると、ぷつっとした感触に当たる。長い髪のおかげで見られることは避けられるだろうけれど、あの物事が現実だったことを受け止めることは出来なかった。

『………うそ、じゃない、、、んだよね』

『うそ』だとか『夢』だとか、現実から逃げる材料を探すけれど
首元の痕跡に、なす術にはなり得なかった。


嘘でも、夢でもない。
本当の、現実なんだ。


『………本当の現実って何』



頭の中じゃ処理しきれなくて声に漏れる。
それを聞いた耳が、頭の中で反響して

現実を受け入れられない困惑した自分と
抵抗を忘れた現実を受け入れる冷静な私が

違う自分がひとつの中にあって、
余計に混乱した。












それでも、学校という決まり切った物事はやってくる。

処理しきれない現実に、なるべく日常を取り入れたくて、私は学校に来ていた。


あはよー、と日常のそれが響く。おはよ、と返せる自分に安心して
首元の痕跡なんて忘れられた。



『ねる、おはよ』

『っ…、おはよう。りさ』


ひゅっと心臓が音を立てた気がした。



頭の血が引いた気がしたけれど、何とか返すことが出来た。
そのまま、ちょっと用事あるからと嘘をついてその場を離れた。



なのに。



『なんのようじ?日直とか?手伝うよ』






その場ではなくその人から離れたかったのに、当の本人はしれっと着いてきてしまう。


『ううん、大丈夫やけん。気にせんで』

『そうやって1人でいつも無理するでしょ』

『……そんなんやないよ、』

『いいから、なにすんの?』

『……………』





渡邉理佐。

昨日まで、ただのクラスメイトで、
ちょっと怖いけど、本当は優しい、そんな人。素直になるのが苦手なんだって聞いたことがある。


そして、

今1番避けたい存在。





『委員会……』

『え?』

『委員会あって、、その、集まるだけやけん。なんもせんよ。』

『そうなの?私行ったら邪魔だね、ごめん』

『ううん。ありがと』



咄嗟に吐いた嘘。
本当は、委員会なんてない。


それでも、委員会の違うりさは信じてくれたみたいだった。
少し申し訳なくなる。



『じゃあ、、、』


離れようとした瞬間、りさに腕を掴まれる。


『………帰り、一緒に帰ろう。待ってるから』

『――――、』




私の返事を聞かず、りさは離れていった。

気づくと、私は首元を抑えていて。
首元の痕跡は、

現実を示さなくなっていることに気づいた。

唯一の、昨夜の現実が消えていた。






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