傷つけたくない。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「愛理、ごめんね」
そういう舞美の目の前には、教室で椅子に座る愛理がいた。机の上には愛理のお弁当があり、隣に立つ舞美の手にもお弁当がある。
「じゃあ、行ってくる、ね…」
返事をしない愛理に後ろ髪引かれながらドアへ体を向ける。
「舞美ちゃん」
「うん?」
舞美が向きかけた体を戻すと顔を上げた愛理と向き合った。
「愛理?」
「……」
座っているの愛理の手が、空いていた舞美の手を握る。
「…ちゃんと、帰ってきてね」
「……」
舞美を見つめる愛理の目は不安げで、思わずしゃがんで愛理と目線を合わせる。
「あたし、やっぱり行かないよ」
「だめ。行ってきて」
「でも」
「舞美ちゃんが最初に言ったんだよ。だから行ってきて。私は、大丈夫だから」
「…愛理」
大丈夫と言いながら繋ぐ手に力を込めたのは愛理だった。その仕草は『行かないで』と舞美に訴えていて、今から自分がする行為を愛理に口にした自分に嫌気が差す。
持っていたお弁当を床に置き、その手で愛理の頭を撫でる。
「今日だけでもう行かない。
ちゃんと帰ってくるから、愛理の所に。」
「…うん。待ってる」
力強い眼と込められた言葉に、愛理は繋いだ手を離す。
行ってきますと舞美は教室から出て行った。
舞美の後ろ姿を見送り、お昼休みで賑わう教室にポツンといる自分に寂しさを感じていると
「良かったの?」
「栞菜」
購買パンを持った栞菜から声を掛けられた。栞菜は当然のように空いている目の前の席に腰かける。
「だって、どうしようもないじゃん」
「ひき止めれば良かったのに。センパイだって『行かない』って言ってたでしょ」
「聞いてたの?」
さっきのやり取りに栞菜は居なかったハズなのに。なんとなく引っかかって聞き返すと、封を開けようとしていた栞菜の手が一瞬止まった。
「きっ…聞こえたの!愛理と矢島センパイがお昼一緒にするなら邪魔するわけにいかないでしょ!」
「ふぅん…」
いそいそとパンへかじりつく栞菜。それに対し、愛理はお弁当に手さえ伸びない。
「…愛理?どうしたの?」
「…ほんとに、どうしようもないの」
「え?」
「中島先輩の狙いはこれだったんだよ。」
栞菜は愛理の話についていけない。
『?』ばかりが浮かぶ栞菜にちょっとおかしくなりながら、愛理は今朝のことを説明をした。
体育館での早貴とのやり取りから数日がたった今朝、舞美と愛理二人で学校へ向かっていた。途中で舞美が言いにくそうに言葉を詰まらせた。
「どうしたの?」
「あの、あのね」
「?」
「今日、お昼……なっきぃに会ってきていい、かな…?」
「………舞美ちゃん?」
「ちっ、違うよ!なっきぃが好きとかじゃなくて!あの、ちょっと…、ちゃんと言いたいことがあって…」
「……」
愛理の中に1つの可能性が浮かぶ。それは舞美を疑うものではなかったけれど、事実『どうしようもない』ことだった。
「何、あの人の狙いって」
「舞美ちゃんの中に存在を残すこと…だと思う」
「残すって…矢島センパイとあの人、最後までシてなかったんでしょ?」
「……栞菜」
「ごめんなさい…」
血の気の引いた顔をして、栞菜は机におでこを当てて謝った。愛理からひどく冷たい目で見られたからだった。
ふう、と溜息にも近い息を吐いてあいりは続ける。
「……たぶん、それも中島先輩の一手だよ。そこまでしたら…身体が拒否しちゃうもん。そしたら本末転倒ってこと」
膝にあった愛理の手が自身の胸元を示す。
「残る先は…心。」
「……」
「舞美ちゃんが傷つけたくなかったのは、私だけじゃなかったんだよ。その中に中島先輩も含まれてたの。
一回だけでも、私に中島先輩の話をしてまで会いに行ったのが、舞美ちゃんの中にあの人がいる証拠」
話に行くのは、きっと傷つけてしまった相手のため――
「なら!余計にひき止めなよ!」
「出来ないよ」
「なんで!」
口調が強まる栞菜に愛理は落ち着いたままだ。
「そんなことしたら、あの人の存在が大きくなるだけだから」
「…っ」
愛理は苦しげに歪む栞菜に気づき、パンを持ったまま停止する手に触れた。
「ありがとう、栞菜。遅くなっちゃったけど、栞菜が居てくれて良かった」
「愛理…」
弱々しくもしっかりと笑顔をみせる愛理。
「大丈夫。舞美ちゃんは私のこと好きでいてくれて、私は、舞美ちゃんを信じてる。あの人が居たってなんてことない。栞菜も居るしね」
「……分かった」
栞菜の声色は納得してなかったが、パンを口にする姿を見て愛理もお弁当に手を伸ばした。
「愛理、ごめんね」
そういう舞美の目の前には、教室で椅子に座る愛理がいた。机の上には愛理のお弁当があり、隣に立つ舞美の手にもお弁当がある。
「じゃあ、行ってくる、ね…」
返事をしない愛理に後ろ髪引かれながらドアへ体を向ける。
「舞美ちゃん」
「うん?」
舞美が向きかけた体を戻すと顔を上げた愛理と向き合った。
「愛理?」
「……」
座っているの愛理の手が、空いていた舞美の手を握る。
「…ちゃんと、帰ってきてね」
「……」
舞美を見つめる愛理の目は不安げで、思わずしゃがんで愛理と目線を合わせる。
「あたし、やっぱり行かないよ」
「だめ。行ってきて」
「でも」
「舞美ちゃんが最初に言ったんだよ。だから行ってきて。私は、大丈夫だから」
「…愛理」
大丈夫と言いながら繋ぐ手に力を込めたのは愛理だった。その仕草は『行かないで』と舞美に訴えていて、今から自分がする行為を愛理に口にした自分に嫌気が差す。
持っていたお弁当を床に置き、その手で愛理の頭を撫でる。
「今日だけでもう行かない。
ちゃんと帰ってくるから、愛理の所に。」
「…うん。待ってる」
力強い眼と込められた言葉に、愛理は繋いだ手を離す。
行ってきますと舞美は教室から出て行った。
舞美の後ろ姿を見送り、お昼休みで賑わう教室にポツンといる自分に寂しさを感じていると
「良かったの?」
「栞菜」
購買パンを持った栞菜から声を掛けられた。栞菜は当然のように空いている目の前の席に腰かける。
「だって、どうしようもないじゃん」
「ひき止めれば良かったのに。センパイだって『行かない』って言ってたでしょ」
「聞いてたの?」
さっきのやり取りに栞菜は居なかったハズなのに。なんとなく引っかかって聞き返すと、封を開けようとしていた栞菜の手が一瞬止まった。
「きっ…聞こえたの!愛理と矢島センパイがお昼一緒にするなら邪魔するわけにいかないでしょ!」
「ふぅん…」
いそいそとパンへかじりつく栞菜。それに対し、愛理はお弁当に手さえ伸びない。
「…愛理?どうしたの?」
「…ほんとに、どうしようもないの」
「え?」
「中島先輩の狙いはこれだったんだよ。」
栞菜は愛理の話についていけない。
『?』ばかりが浮かぶ栞菜にちょっとおかしくなりながら、愛理は今朝のことを説明をした。
体育館での早貴とのやり取りから数日がたった今朝、舞美と愛理二人で学校へ向かっていた。途中で舞美が言いにくそうに言葉を詰まらせた。
「どうしたの?」
「あの、あのね」
「?」
「今日、お昼……なっきぃに会ってきていい、かな…?」
「………舞美ちゃん?」
「ちっ、違うよ!なっきぃが好きとかじゃなくて!あの、ちょっと…、ちゃんと言いたいことがあって…」
「……」
愛理の中に1つの可能性が浮かぶ。それは舞美を疑うものではなかったけれど、事実『どうしようもない』ことだった。
「何、あの人の狙いって」
「舞美ちゃんの中に存在を残すこと…だと思う」
「残すって…矢島センパイとあの人、最後までシてなかったんでしょ?」
「……栞菜」
「ごめんなさい…」
血の気の引いた顔をして、栞菜は机におでこを当てて謝った。愛理からひどく冷たい目で見られたからだった。
ふう、と溜息にも近い息を吐いてあいりは続ける。
「……たぶん、それも中島先輩の一手だよ。そこまでしたら…身体が拒否しちゃうもん。そしたら本末転倒ってこと」
膝にあった愛理の手が自身の胸元を示す。
「残る先は…心。」
「……」
「舞美ちゃんが傷つけたくなかったのは、私だけじゃなかったんだよ。その中に中島先輩も含まれてたの。
一回だけでも、私に中島先輩の話をしてまで会いに行ったのが、舞美ちゃんの中にあの人がいる証拠」
話に行くのは、きっと傷つけてしまった相手のため――
「なら!余計にひき止めなよ!」
「出来ないよ」
「なんで!」
口調が強まる栞菜に愛理は落ち着いたままだ。
「そんなことしたら、あの人の存在が大きくなるだけだから」
「…っ」
愛理は苦しげに歪む栞菜に気づき、パンを持ったまま停止する手に触れた。
「ありがとう、栞菜。遅くなっちゃったけど、栞菜が居てくれて良かった」
「愛理…」
弱々しくもしっかりと笑顔をみせる愛理。
「大丈夫。舞美ちゃんは私のこと好きでいてくれて、私は、舞美ちゃんを信じてる。あの人が居たってなんてことない。栞菜も居るしね」
「……分かった」
栞菜の声色は納得してなかったが、パンを口にする姿を見て愛理もお弁当に手を伸ばした。