傷つけたくない。
いつの間にかだった。
いつの間にか
愛理は自身を包む舞美にしがみつき
立っていられない愛理を支えながら舞美もしゃがみこんだ。
いつの間にか、
愛理の隣に立っていた栞菜が距離を空け、
近すぎない位置へ移動した。
いつの間にか
「何してるの」
小さくしゃがみこむ二人のすぐ隣に早貴が立っていた。手を伸ばせば触れられる距離。
怒りに満ちた目。
振り払われた手が、舞美を取り戻そうと愛理を包む腕を掴む。
「舞美ちゃん。そういうのは優しさとは言わないんだよ」
口調は静か。
「こんな同情なんてするものじゃないんだから」
しかし、
「もう行こうよ」
圧力があるのは明らかだった。
「舞美ちゃん。」
「……」
舞美は首を横に振る。
早貴の手に力が加わる。
「舞美ちゃん!」
静かな体育館にひどく響いた早貴の声。
舞美がゆっくりと立ち上がる。
「…ゃっ」
離れる腕に気づいた愛理がしがみつく力を強くした。
――ぽん
「――」
愛理の頭に置かれた手。以前に良く舞美が愛理にやっていたことだった。
しがみつく手が離れ、早貴と舞美が向き合う。
舞美の眼は今までなかった強い光を持って早貴を見つめていた。
「…………なっきぃとは行けない」
先程、響いた声とは違う。静かな空間に重く強い声が木霊した。
「……なに、言ってるの?」
早貴の表情は険しい。しかし、舞美はもうその目から逃げようとはしなかった。
「舞美ちゃん、それがどういうことに繋がるか分かってる?」
「ッ」
「この子が傷ついてもいいの?」
「嫌だ」
舞美の眼に一瞬の苦痛。
「だったら―」
「だから」
早貴の言葉を遮る。舞美はやっと気づけたのだ。あの時、愛理が言ったことに。
『私は傷つかないよ』
『あの人に負けたりしない。私は―』
――舞美ちゃんの側にいられないことが一番嫌だよ――
「だから…なっきぃとは行けない。ずっと、あたしが愛理を傷つけてたんだ。」
傷つけたくない。そう願ってたはずなのに、
つきなれない嘘をついて
叫ぶ心に蓋をして
なっきぃが愛理を傷つけないようにしてたのに、
愛理を傷つけてたのは、
あたしだったなんて。