逃亡劇
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追っ手がいないか常に気を張りながらの引っ越しは、想像以上に私達の体と心に疲労を与えていた。
「はぁっ…、どう?追っ手は来てない?」
「うん、怪しい影は見えないよ」
「そう……」
姉の返事に力は無く、疲弊が限界に近いことを物語っていた。
すると、突然姉の体が傾いた。
「お姉ちゃん!!」
咄嗟に体を支えたはいいが、この後はどうすればいい?
細かい引っ越し場所は私にはわからないし、病院はこの時間には大方のところが閉まっているだろう。もし開いていたとしても保険証が必要な時点で足がつきやすくなってしまうから、結局のところ選択肢には入らない。
近くのホテルに入る?でも、朝起きて待ち伏せなんてされていたら。
ぐるぐると思考を巡らせていると、ふいに誰かの影がかかった。
「あの……、大丈夫ですか?」
話しかけてきたのは穏やかな声色の男性だった。
その顔を見ようと視線を姉から上に移した瞬間、嫌な寒気がした。
そこに立っていたのは眼鏡をかけた背の高い男性。
どこかで見たことがあるようなその人の顔は誠実そうな印象を与え、心配そうに眉を下げた表情は、優しそうな人なのだと思わせた。
しかし、この男は危険だと私の何かが告げている。
「へ、平気です。少し姉が貧血を起こしてしまっただけなので。拠る当てはありますから、ご心配おかけしてすみません…」
この人には悪いが、こういうときは「逃げるが勝ち」だ。
今まで何度もこの言葉に救われてきた。
大丈夫。今回だってきっとなんとかなる。
そんな暗示を自分にかけながら、気を失っている姉を半ば引きずるようにして、私はその場から急いで立ち去った。
路地への角を曲がる間際、その男の方を振り向いたが、男は私を追ってきてはいなかった。
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