【hkok】春うらら
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一月一日。
「……あ、さ?」
「おはよう」
「おはようございます…と、もしかして」
「あけましておめでとう、だな」
「…!」
勢いよく顔を上げると、朝日がこれみよがしに私の目に刺さる。
頭上からため息が聞こえ、反射的に見上げればそこには仁王立ちした土方さん。既に普段の着流しではなく私服に着替えていて、余計に自分が侘しくなった。
「(年越しそばも食べれなかったなんて…)」
新年早々、出だしは最悪だ。
しかも今年は自分だけでなく、土方さんもいたというのに。できることなら一緒にそばを食べながらテレビを見たりとか、初詣にも行きたかった。…そうだ、それならまだ間に合うじゃないか。
「土方さん! 初詣に行きましょう」
「初詣…って、あれのことか?」
指を差された方向を見れば、正月番組が各地の神社で行われている初詣の様子を映していた。
私はそれを確認して再び土方さんに視線を戻すと大きく頷いた。当の土方さんは相変わらず難しい顔をして腕を組む。これは駄目ということだろうか。ちょっと調子に乗りすぎたかな、とこの場を紛らわすための言葉を思い浮かべる。
「すみません、やっぱり…」
「とりあえずお前は風呂に入ったらどうだ?」
「…あ、はい。そうですね」
慌てて部屋へ着替えを取りに立ち上がる。仕方がない、まだ出会って間もない相手と初詣だなんて敷居が高すぎるもの。しょげる気持ちを持ち直して足を踏み出すと、
「出掛けるならそれなりにめかしこんでこいよ。
――期待してるぜ」
後ろから聞こえた声に振り向く。そこにはもう声の主はいなかったけれど、去り際の笑みを確かに見てしまったら、私は顔を綻ばせずにいれなかった。
「すげぇ人だな…」
「そうですね、元旦ですし」
さっそく近場の神社に足を運ぶと、そこには既にわらわらと沢山の人が参拝しに来ていた。毎年のことで私は慣れっこだが、隣りの土方さんは目を丸くしていた。
目的の本殿まではちょっと距離がある。入り口で早くもうろたえる私と土方さんだったが、意を決して歩みを進めることにした。
上手く人をかわしながら進む土方さん、私はやっとのことで歩けている感じだ。おかげで隣りで歩いていた土方さんはいつの間にか私より先を進んでいた。何とか追いつこうと頑張ってはみるものの、距離はどんどん広がるばかり。おまけにいつもより高めのヒールの靴を履いてきてしまったから、足は早くも音を上げかけていた。
容赦なく降り懸かる人波に揉まれながら歩いていると突然、どこからか伸びて来た腕に強く引かれた。
「っ名字…! 何してやがる」
「は、…ひ、土方さん!」
掴まれた手首の先を辿れば、ついさっきまで追いかけていた彼がいた。
目を見張る私を一べつするとそのまま引くように歩いていく。
「ったく、突然いなくなるんじゃねぇ」
「す、すみません」
「……いや、気付かなかった俺も悪いな。すまない」
眉尻を下げて謝る姿に、私は勢いよく首を横に振った。追いつけなかった私も悪いのだから。
視線を落とすと、それまで手首を掴んでいた手がしっかりと私の手を掴んだのが目に入る。心なしか歩くスピードもゆっくりになった気がして、今度は逆に私の心拍数が早くなる。
「初めからこうすりゃよかったな」
なんて言葉を掛けられたら、私はただ頷くことしかできないというのに。
そんなほてる顔を見られたくなくて、進行を土方さんの腕に頼って俯きながらひたすら足を動かした。
もみくちゃにされながらもやっと本殿にたどり着いたらしい。二人で顔を見合わせると、自然と笑顔が零れた。
くたびれかけた心と身体を正して、お賽銭を入れ、昨年のお礼と今年もよい年になるよう願って手を合わせる。
「(無病息災でいられますように、っと…)」
ちらりと脇目で隣りの土方さんを見る。目を瞑って同じように手を合わせる姿にどきどきしながら、忘れてはいけない頼みを心の中で唱えた。
「(それから、土方さんが元の時代に戻れますように)」
念を押すかの如く、手を合わせてひたすら祈る。そんな力んでいる私を見てか、隣りから噴き出す声が聞こえて、私は慌てて賽銭箱の前を退いた。まったく神様相手に何を必死に願っているのだろう。我に返って顔に上ってくる血液を冷ましていると、
「…叶うといいな」
彼には似合わない頼りなさ気な笑みを浮かべるものだから、何も言わない神様の代わりに私が断言することにした。
「叶いますよ」
仮に叶いそうになくとも、私が無理にでも叶えさせる。拳を握って精一杯の頼もしさをアピールする。
当の土方さんには「期待しないでおく」なんてお言葉をいただいてしまったけれど――、しっかりと繋がれた手には口では語られない確かなものが見えた気がした。
『来る年』
ほんの少しだけ、この手を離したくないと思ってしまった。
「……あ、さ?」
「おはよう」
「おはようございます…と、もしかして」
「あけましておめでとう、だな」
「…!」
勢いよく顔を上げると、朝日がこれみよがしに私の目に刺さる。
頭上からため息が聞こえ、反射的に見上げればそこには仁王立ちした土方さん。既に普段の着流しではなく私服に着替えていて、余計に自分が侘しくなった。
「(年越しそばも食べれなかったなんて…)」
新年早々、出だしは最悪だ。
しかも今年は自分だけでなく、土方さんもいたというのに。できることなら一緒にそばを食べながらテレビを見たりとか、初詣にも行きたかった。…そうだ、それならまだ間に合うじゃないか。
「土方さん! 初詣に行きましょう」
「初詣…って、あれのことか?」
指を差された方向を見れば、正月番組が各地の神社で行われている初詣の様子を映していた。
私はそれを確認して再び土方さんに視線を戻すと大きく頷いた。当の土方さんは相変わらず難しい顔をして腕を組む。これは駄目ということだろうか。ちょっと調子に乗りすぎたかな、とこの場を紛らわすための言葉を思い浮かべる。
「すみません、やっぱり…」
「とりあえずお前は風呂に入ったらどうだ?」
「…あ、はい。そうですね」
慌てて部屋へ着替えを取りに立ち上がる。仕方がない、まだ出会って間もない相手と初詣だなんて敷居が高すぎるもの。しょげる気持ちを持ち直して足を踏み出すと、
「出掛けるならそれなりにめかしこんでこいよ。
――期待してるぜ」
後ろから聞こえた声に振り向く。そこにはもう声の主はいなかったけれど、去り際の笑みを確かに見てしまったら、私は顔を綻ばせずにいれなかった。
「すげぇ人だな…」
「そうですね、元旦ですし」
さっそく近場の神社に足を運ぶと、そこには既にわらわらと沢山の人が参拝しに来ていた。毎年のことで私は慣れっこだが、隣りの土方さんは目を丸くしていた。
目的の本殿まではちょっと距離がある。入り口で早くもうろたえる私と土方さんだったが、意を決して歩みを進めることにした。
上手く人をかわしながら進む土方さん、私はやっとのことで歩けている感じだ。おかげで隣りで歩いていた土方さんはいつの間にか私より先を進んでいた。何とか追いつこうと頑張ってはみるものの、距離はどんどん広がるばかり。おまけにいつもより高めのヒールの靴を履いてきてしまったから、足は早くも音を上げかけていた。
容赦なく降り懸かる人波に揉まれながら歩いていると突然、どこからか伸びて来た腕に強く引かれた。
「っ名字…! 何してやがる」
「は、…ひ、土方さん!」
掴まれた手首の先を辿れば、ついさっきまで追いかけていた彼がいた。
目を見張る私を一べつするとそのまま引くように歩いていく。
「ったく、突然いなくなるんじゃねぇ」
「す、すみません」
「……いや、気付かなかった俺も悪いな。すまない」
眉尻を下げて謝る姿に、私は勢いよく首を横に振った。追いつけなかった私も悪いのだから。
視線を落とすと、それまで手首を掴んでいた手がしっかりと私の手を掴んだのが目に入る。心なしか歩くスピードもゆっくりになった気がして、今度は逆に私の心拍数が早くなる。
「初めからこうすりゃよかったな」
なんて言葉を掛けられたら、私はただ頷くことしかできないというのに。
そんなほてる顔を見られたくなくて、進行を土方さんの腕に頼って俯きながらひたすら足を動かした。
もみくちゃにされながらもやっと本殿にたどり着いたらしい。二人で顔を見合わせると、自然と笑顔が零れた。
くたびれかけた心と身体を正して、お賽銭を入れ、昨年のお礼と今年もよい年になるよう願って手を合わせる。
「(無病息災でいられますように、っと…)」
ちらりと脇目で隣りの土方さんを見る。目を瞑って同じように手を合わせる姿にどきどきしながら、忘れてはいけない頼みを心の中で唱えた。
「(それから、土方さんが元の時代に戻れますように)」
念を押すかの如く、手を合わせてひたすら祈る。そんな力んでいる私を見てか、隣りから噴き出す声が聞こえて、私は慌てて賽銭箱の前を退いた。まったく神様相手に何を必死に願っているのだろう。我に返って顔に上ってくる血液を冷ましていると、
「…叶うといいな」
彼には似合わない頼りなさ気な笑みを浮かべるものだから、何も言わない神様の代わりに私が断言することにした。
「叶いますよ」
仮に叶いそうになくとも、私が無理にでも叶えさせる。拳を握って精一杯の頼もしさをアピールする。
当の土方さんには「期待しないでおく」なんてお言葉をいただいてしまったけれど――、しっかりと繋がれた手には口では語られない確かなものが見えた気がした。
『来る年』
ほんの少しだけ、この手を離したくないと思ってしまった。