【hkok】春うらら
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十二月三十一日。
「土方さん、布団をお願いできますか」
「敷布はどうすんだ?」
「そうですね…洗濯機のところに置いといて下さい」
新年を気分よく迎えるため、世間では家族総出で家中の掃除に取り組む日。
それは私も例外でなく、願ってもない男手を借りて我が家を綺麗にする。
好奇心で自分の部屋を掃除しながら彼を盗み見れば、パーカーに下はジャージ、手には布団叩きを持った何とも愉快な図が出来上がっていた。出かかった笑いを噛み殺しつつ私も掃除の手を進めた。
「お昼は何がいいですか?」
一段落ついたところで居間を掃除してくれている土方さんに問うた。様子を窺った彼はおっかなびっくりしながら掃除機をかけていた。度々掃除機に手を取られては舌打ちを繰り返す姿に苦笑が漏れる。
「っくそ…、! ああ、名字か」
「手伝って下さってありがとうございます」
「居候の身だ、これぐらいは当然だろ。
昼か…そうだな…」
手を止め少し思案し、向き直った頃には薄く笑みを浮かべて「俺も作ろう」と言い出したのだ。
土方さんと台所の組み合わせが私の中で上手く結び付かず首を横に振ると、途端にしかめっ面になってしまった。
「俺だって台所ぐらい立ったことはある」
「でも…」
「それに、いつまでもお前一人に任せっきりにはしてらんねぇよ」
思えば朝夜はもちろんのこと、仕事で私がいない昼も作り置きのものを食べてもらっていたな。何かと律義な土方さんが心苦しく思うのも仕方のないことかもしれない。
ようやく首を縦に振ると、早速昼食作りが始まった。
意外にも土方さんはいつか私が作ったカルボナーラが痛く気に入られたようで、今日の昼はすんなりとそれに決まった。パスタ類なら簡単だしさほど時間を要さないだろう。
パスタは任せてソースを私が作っていると、材料の一つである卵を脇目でまじまじと見ていた。――確か昔は貴重な食材だったと聞いたことがある。しかし今や物価の優等生と言われるほど易く手に入れられるもの。そう説明を加えれば、さり気なく言った土方さんの「贅沢な世の中になったもんだな」という言葉が妙に胸に刺さった。
それから時間が経たない内にソースもいい感じにでき、パスタも茹で上がったようだ。皿に盛り付けてチーズを振り掛ければ、美味しそうなカルボナーラの出来上がり。
土方さんが満足げな表情を浮かべていたので、私まで嬉しくなってしまった。
――目的の掃除はなんとか夕方には終えることができた。今は暖房のかかった部屋でテレビを見ながら二人でのんびりと過ごす。
ソファに腰掛ける土方さんは眉間に皺を寄せながらニュースを眺めている。対して私はテーブルに頬杖をついて夢と現実の間をさまよう。どうやら今日の疲れがどっと出てきたみたいだ。
「んなとこで寝たら風邪引くぞ」
「寝ませんから平気です…」
子を叱る母のような声色で言われるものだから、私も子どもみたいに偏屈に返事をした。
本人に言ったら怒られそうだがなんだかんだ土方さんは世話焼きだと思う。こうやって人のちょっとした様子に気付くところとか、女の人だったらきっといいお嫁さんになりそうだ。…でもあんな目付きが悪いお嫁さんは色々な意味で怖いかも。ああ、想像したら笑えてきた。
「なに笑ってんだ、こいつは」
意識の最後に聞こえたのは夢か現実か、分からないけど。ただ、背中に掛けられた温もりは現実で間違いない気がした。
『行く年』
「はぁ、やっぱり寝やがったじゃねぇか」
「……」
「…危機感まるでなし、だな」
「土方さん、布団をお願いできますか」
「敷布はどうすんだ?」
「そうですね…洗濯機のところに置いといて下さい」
新年を気分よく迎えるため、世間では家族総出で家中の掃除に取り組む日。
それは私も例外でなく、願ってもない男手を借りて我が家を綺麗にする。
好奇心で自分の部屋を掃除しながら彼を盗み見れば、パーカーに下はジャージ、手には布団叩きを持った何とも愉快な図が出来上がっていた。出かかった笑いを噛み殺しつつ私も掃除の手を進めた。
「お昼は何がいいですか?」
一段落ついたところで居間を掃除してくれている土方さんに問うた。様子を窺った彼はおっかなびっくりしながら掃除機をかけていた。度々掃除機に手を取られては舌打ちを繰り返す姿に苦笑が漏れる。
「っくそ…、! ああ、名字か」
「手伝って下さってありがとうございます」
「居候の身だ、これぐらいは当然だろ。
昼か…そうだな…」
手を止め少し思案し、向き直った頃には薄く笑みを浮かべて「俺も作ろう」と言い出したのだ。
土方さんと台所の組み合わせが私の中で上手く結び付かず首を横に振ると、途端にしかめっ面になってしまった。
「俺だって台所ぐらい立ったことはある」
「でも…」
「それに、いつまでもお前一人に任せっきりにはしてらんねぇよ」
思えば朝夜はもちろんのこと、仕事で私がいない昼も作り置きのものを食べてもらっていたな。何かと律義な土方さんが心苦しく思うのも仕方のないことかもしれない。
ようやく首を縦に振ると、早速昼食作りが始まった。
意外にも土方さんはいつか私が作ったカルボナーラが痛く気に入られたようで、今日の昼はすんなりとそれに決まった。パスタ類なら簡単だしさほど時間を要さないだろう。
パスタは任せてソースを私が作っていると、材料の一つである卵を脇目でまじまじと見ていた。――確か昔は貴重な食材だったと聞いたことがある。しかし今や物価の優等生と言われるほど易く手に入れられるもの。そう説明を加えれば、さり気なく言った土方さんの「贅沢な世の中になったもんだな」という言葉が妙に胸に刺さった。
それから時間が経たない内にソースもいい感じにでき、パスタも茹で上がったようだ。皿に盛り付けてチーズを振り掛ければ、美味しそうなカルボナーラの出来上がり。
土方さんが満足げな表情を浮かべていたので、私まで嬉しくなってしまった。
――目的の掃除はなんとか夕方には終えることができた。今は暖房のかかった部屋でテレビを見ながら二人でのんびりと過ごす。
ソファに腰掛ける土方さんは眉間に皺を寄せながらニュースを眺めている。対して私はテーブルに頬杖をついて夢と現実の間をさまよう。どうやら今日の疲れがどっと出てきたみたいだ。
「んなとこで寝たら風邪引くぞ」
「寝ませんから平気です…」
子を叱る母のような声色で言われるものだから、私も子どもみたいに偏屈に返事をした。
本人に言ったら怒られそうだがなんだかんだ土方さんは世話焼きだと思う。こうやって人のちょっとした様子に気付くところとか、女の人だったらきっといいお嫁さんになりそうだ。…でもあんな目付きが悪いお嫁さんは色々な意味で怖いかも。ああ、想像したら笑えてきた。
「なに笑ってんだ、こいつは」
意識の最後に聞こえたのは夢か現実か、分からないけど。ただ、背中に掛けられた温もりは現実で間違いない気がした。
『行く年』
「はぁ、やっぱり寝やがったじゃねぇか」
「……」
「…危機感まるでなし、だな」