【hkok】春うらら
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“鬼の副長”、か――あいつらが今の俺の姿を見たらどう思うだろうな。少なくとも笑われるのは確実だ。
なんたってこの時代では、刀も持てない、文化にもついていけない、言葉も偶に理解できない……赤子同然なのだから。
歩きながら着地点の見当たらない考えを悶々と巡らせていると、ふと隣りの人物がいないことに気付く。速度を緩め足を止めれば背中に僅かな衝撃が与えられた。大して痒くもないそれは気に留めず、俯いた彼女のつむじを見やる。さっきまで楽しそうにしていた様子がまるっきり変わったその姿に、一抹の不安が脳裏を掠めた。
しばしは待ったもの、なかなか顔を見せない名字が段々と焦れったくなって下から覗き込んでやった。何ともまぁ辛そうな表情に、自ずとため息が出る。
「どうした」
「何でもないです」
「嘘つけ。キツそうな顔しやがって」
重いなら重いと、持って欲しいなら持って欲しいと、正直に言えばいいものを。荷物で塞がっていた両手を片方空けて、名字に手を伸ばせば何故か不自然にかわされる。彼女の意思で動いたらしい腕にそれは故意であることを悟った。一体なんだってんだよ、悪態をつきたい気持ちを押し込めていると、突拍子もなく名字の目が俺を差した。
「それを言うなら、土方さんのほうでしょう」
強い意味を孕んで向けられた瞳に驚く。
俺が辛そうにしてるって? 馬鹿馬鹿しい、んなことあるわけねぇだろ。
適当にあしらう言葉は幾つも頭に浮かんだ。しかし口に出すのを阻害する何か――確かに存在していた胸の内の影が見えてしまったのだ。
自分すら気付かなかった感情を言い当てられたのがいやに気恥ずかしくなり、未だ心配の色を見せる双眸を頭を撫でることで紛らわした。
「……何で俺は、未来とやらに来ちまったんだろうな」
隠す必要のなくなった気持ちを吐き出せば、彼女は難しい顔をして唸り始めてしまった。そりゃそうだ、当人が分からねぇのに被害を被った名字に分かる訳がねぇ。なのに答えを出そうとする彼女の思考を宥め、遮った。そのまま頭に手を置きこちらの表情が窺えないことをいいことに、済し崩しに口から零れるは背けたいほどの、
「こじつけだっていい。何か理由がないと、――…心が落ち着かねぇんだ」
この、どうしようもない疎外感。このままで帰れるのかという焦り。新選組はまだまだこれからだというのに幹部である自分が離れてしまったことに対する、苛立ち。
全てを納得させる理由が欲しい――なんて、我ながら駄々をこねる餓鬼みてぇだ。自嘲気味に吐き捨てれば、ためらいながら名字は口を動かす。
「土方さんは、此処にいて下さい」
「っは、迷惑じゃなかったのか?」
「…確かに、最初はそうでしたが――今はちょっと違うんです」
綻んだ表情で見つめられれば、胸の辺りがぐっと締め付けられた。反応は何とか目を細めることに止どめ、思案する名字の先の言葉を待つ。
「理由はまだ難しいですが、この時代にいる土方さんの居場所なら、…私にも作ることができると思います」
出会って間もない俺に、何故そんなことが言えるのだろうか。もし俺が逆の立場であればきっと斬り捨てるか追い出すかしているはずだ。
「お前って、変な奴だな」
素直に思ったことを口にしたら、睨まれてしまった。だからといって不思議と悪い気はしない。
恐らく嬉しかったのだと思う。改めて思い知らされた右も左も分からない時代の中で、力強く俺の存在を肯定してくれた名字が。
「…ありがとよ」
初めてどこか遠巻きに接していた名字と同じ場所に立つことができたような気がして、言い様のない気持ち(強いて言えば感謝の念だろうか)に自然と目元が緩んだ。
『受容するもの』
今はまだ、履き違えたままの感情。
なんたってこの時代では、刀も持てない、文化にもついていけない、言葉も偶に理解できない……赤子同然なのだから。
歩きながら着地点の見当たらない考えを悶々と巡らせていると、ふと隣りの人物がいないことに気付く。速度を緩め足を止めれば背中に僅かな衝撃が与えられた。大して痒くもないそれは気に留めず、俯いた彼女のつむじを見やる。さっきまで楽しそうにしていた様子がまるっきり変わったその姿に、一抹の不安が脳裏を掠めた。
しばしは待ったもの、なかなか顔を見せない名字が段々と焦れったくなって下から覗き込んでやった。何ともまぁ辛そうな表情に、自ずとため息が出る。
「どうした」
「何でもないです」
「嘘つけ。キツそうな顔しやがって」
重いなら重いと、持って欲しいなら持って欲しいと、正直に言えばいいものを。荷物で塞がっていた両手を片方空けて、名字に手を伸ばせば何故か不自然にかわされる。彼女の意思で動いたらしい腕にそれは故意であることを悟った。一体なんだってんだよ、悪態をつきたい気持ちを押し込めていると、突拍子もなく名字の目が俺を差した。
「それを言うなら、土方さんのほうでしょう」
強い意味を孕んで向けられた瞳に驚く。
俺が辛そうにしてるって? 馬鹿馬鹿しい、んなことあるわけねぇだろ。
適当にあしらう言葉は幾つも頭に浮かんだ。しかし口に出すのを阻害する何か――確かに存在していた胸の内の影が見えてしまったのだ。
自分すら気付かなかった感情を言い当てられたのがいやに気恥ずかしくなり、未だ心配の色を見せる双眸を頭を撫でることで紛らわした。
「……何で俺は、未来とやらに来ちまったんだろうな」
隠す必要のなくなった気持ちを吐き出せば、彼女は難しい顔をして唸り始めてしまった。そりゃそうだ、当人が分からねぇのに被害を被った名字に分かる訳がねぇ。なのに答えを出そうとする彼女の思考を宥め、遮った。そのまま頭に手を置きこちらの表情が窺えないことをいいことに、済し崩しに口から零れるは背けたいほどの、
「こじつけだっていい。何か理由がないと、――…心が落ち着かねぇんだ」
この、どうしようもない疎外感。このままで帰れるのかという焦り。新選組はまだまだこれからだというのに幹部である自分が離れてしまったことに対する、苛立ち。
全てを納得させる理由が欲しい――なんて、我ながら駄々をこねる餓鬼みてぇだ。自嘲気味に吐き捨てれば、ためらいながら名字は口を動かす。
「土方さんは、此処にいて下さい」
「っは、迷惑じゃなかったのか?」
「…確かに、最初はそうでしたが――今はちょっと違うんです」
綻んだ表情で見つめられれば、胸の辺りがぐっと締め付けられた。反応は何とか目を細めることに止どめ、思案する名字の先の言葉を待つ。
「理由はまだ難しいですが、この時代にいる土方さんの居場所なら、…私にも作ることができると思います」
出会って間もない俺に、何故そんなことが言えるのだろうか。もし俺が逆の立場であればきっと斬り捨てるか追い出すかしているはずだ。
「お前って、変な奴だな」
素直に思ったことを口にしたら、睨まれてしまった。だからといって不思議と悪い気はしない。
恐らく嬉しかったのだと思う。改めて思い知らされた右も左も分からない時代の中で、力強く俺の存在を肯定してくれた名字が。
「…ありがとよ」
初めてどこか遠巻きに接していた名字と同じ場所に立つことができたような気がして、言い様のない気持ち(強いて言えば感謝の念だろうか)に自然と目元が緩んだ。
『受容するもの』
今はまだ、履き違えたままの感情。